防災と集落の『ゴミ集積場』を結び付けた視点が高く評価される
・この度、建築学専攻博士前期課程1年の結城諒眞さん(建築計画研究室/指導教員:浦部智義教授)が令和3年度卒業設計で取り組んだ作品『今、集落の暮らしの結節点』が、第2回フェーズフリーアワード2022(一般社団法人フェーズフリー協会主催)で入選しました。「フェーズフリーアワード」は防災に関わる新しい考え方に基づくさまざまな事業やアイデアを広く社会から募り、優れた事業やアイデアを顕彰しています。2回目となる今回は、『「いつも」を良くする。「もしも」も良くする。社会が変わる。』を合言葉に作品を募集。結城さんの作品は「アイデア部門」での受賞となりました。
・結城さんに入選の喜びと作品について詳しくお聞きしました。
入選おめでとうございます。感想をお聞かせください。
・過去にコンペに挑戦したことはありますが、しっかりと作品づくりと準備をして挑戦したのはこれが初めてで、時間をかけた分、結果が出て良かったです。一般企業なども参加している中で、入選できたことは大変嬉しいです。この作品は、学部4年の卒業設計で取り組んだもので、当時は後輩たちや友人にも模型づくりを手伝ってもらいました。その時の審査会では、評価して下さった先生はいらっしゃいましたが、全体としては良い評価とは言えない感じでした。その時に、浦部先生から「内容や着眼点は、現代的で普遍性があり悪くないので、少し再構成してみて表現等を工夫すると伝わり方が違うかも。テーマが合っていそうなコンペを見つけて、ブラッシュアップして応募してみたら可能性あると思うよ」とアドバイスをもらい、第2回目となるフェーズフリーアワードを見つけて、挑戦することにしました。最も良い評価とはならかなったのですが、入選できたことで手伝ってくれた皆さんや先生の恩に少しは報いることができたのではないかと思います。改めて、感謝しています。
作品について詳しく説明いただけますか。
・卒業設計のテーマに選んだ敷地は私の祖母の住んでいる湖南町です。この集落に足を運んでいろいろと調べてみると、唯一あった商店がなくなったことで、人の往来が少なくなっていることがわかりました。ここに限らず、全国的にも中山間の集落の衰退は著しい状況ではありますが、そんな集落にも暮らしはあります。今ある暮らしに寄り添いながら、彩りを与えることで、集落の様相を変えてみたいと思いました。そこで着目したのが、「ゴミ集積場」です。暮らしの中で「ゴミ捨て」は欠かせない行動であり、「ゴミ集積場」は人が集まるという点おいて、ポテンシャルの高い場所だと思います。実際に、集落には3か所の「ゴミ集積場」がありました。その周辺にある石蔵、火の見櫓、神社を巻き込んで、住民の新たな居場所になる「ゴミ集積場」を提案しました。ここに住んでいる人たちは、自分たちの手で鉄パイプを使ってブランコを作ったり、ガラスが割れたら木板を嵌めて修繕したりしているんですね。そうした「ものを作る」という特性を活かして、住民たちが自ら空間を形成できるように、柱だけ敷設した空間を用意しました。日常的に行われる、ものを仕舞う行為を組み合わせて、暮らしを変化させる居場所の形成を目指しました。更に、今回の提案には災害時の一時的な避難場所としても利用するという、非日常的な要素も加えました。みんなが認知していて、集まりやすい距離間であり、集積場ごとに名簿があるので、安否確認ができるといった点でも避難場所に適していると考えました。
・どんどん人口が減っていく集落のこれからを考えた時、全国から人を集めて何かやるというのは無理があり、敷地のポテンシャルによっても効果が違ってくると思います。外側から変えるのではなく、自分たちの身近な内側から変えていくような、例えば植木鉢を置いてみたり、DIYの道具を共有したり、使い手や仕舞うもので変化する空間によって、暮らしに新たなシーンを加えるきっかけになればと考えた作品です。
どのような点が評価されたと思われますか。
・日常の生活で頻繁に足を運び、また、無意識に場所を記憶しているゴミ集積場の隠されたポテンシャルを利用して、みんなの居場所にしよう、防災の拠点にしようと考えた視点が評価されたと思います。もともとの提案には、避難場所という設定はなかったのですが、このコンペのテーマでもある防災の観点から作品を見つめ直したら、集まりやすい場所であり、こういう使い方でも役に立つのでと思いついたのです。街中のゴミ捨て場を居場所にするという提案だとマイナスイメージに捉えられてしまうかもしれませんが、田舎の集落のゴミ捨て場だからこそ、集まれる場所としてのポテンシャルが一番高いという点はメリットとして強調したところです。
どんなところに建築の魅力を感じていますか。
・その人の考え方、個性が一番表れるのが、建築の魅力であり面白さじゃないかなと思います。例えば、卒業設計作品も、自分が知る限りその人の個性があらわれている様に思います。私自身は、将来、何かものをつくる仕事に就きたいと考えた時、住宅は毎日過ごす場所で、それを建てるとしたら、その住まい手にとって一生に一度あるかないかの大きなイベントになる、そういう場所をつくることに携わりたいと思ったのが、建築学科を選んだきっかけでした。ですので、卒業設計で取り組んだ様な、身近な日常をどう充実させるか、といったことには元来興味があったことだと思いますで、個性が出ていますかね(笑)。
・また、色んなタイプの人が関われることもあるでしょうか。研究室の仲間でも色んな考え方や表現方法などたくさん刺激を受けています。それが少しずつ、自分自身を成長させてくれていると感じていますし、大学院進学を決めた理由にもなっています。研究室で取り組んでいる学外の活動である葛尾村プロジェクトを続けたいと思ったのも、進学の理由の一つです。そんな、色んな立場の人と協働して行う、学内外の建築やものづくりを通して、おぼろげでも自分の特性が見えて来ると良いかなと思っています。また、その様な学外の活動を通して、建築は仕事ととして携わることになったら、もちろん大変な面もあると思いますが、一方で、また違った刺激を得られそうですし、その分やりがいも大きいんだろうなと思いました。
・振り返ってみると、私たちの学年は1・2年の頃は普通に授業を受けているだけでしたが、3年の前期に新型コロナの影響で自宅にいることが多くなって、自分のいる空間を見つめ直したり、建築の本を読んだり、設計のコンセプトをじっくり考えたり、それまでより、少しは真剣に建築を考える様になってから、建築の面白さに魅かれていったように思います。そう言った意味では、新型コロナが建築の魅力を気づかせてくれた1つかも知れませんね。
今後の目標についてお聞かせください。
・大学院での研究では、今の所、一つの木構法の流れについて調査をはじめています。現在は文献や資料を調べてデータ収集を行っています。大学院修了までに、研究を一旦まとめるのが最優先になりますが、また、コンペや研究室のプロジェクトにも参加したりして色んな経験をして、将来は、今と少し先を見据えた空間をつくりたいですね。それには、特定の人のためにつくる住宅の様なものから、数多くの人が目にする公共的な空間やそのディスプレイなど、幅広くある様に思いますが、いずれにしても「日常」や「今」を大事にしたデザインを具現化できる建築家を目指せれば良いなと、現在は考えています。
ありがとうございました。今後益々活躍されることを期待しています。
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