AIによる広葉樹の樹種判別の研究成果が
若手研究者の発表の中で高く評価される
11月5日(木)・6日(金)に一般社団法人日本写真測量学会令和2年度秋季学術講演会が行われ、情報工学専攻2年の江澤一煕さん(生産システム工学研究室/指導教員:溝口知広准教授)が発表した『深層学習による樹皮と葉の詳細形状評価による広葉樹の樹種分類』が、日本写真測量学会学術講演会論文賞を受賞しました。本会は写真測量・リモートセンシング・地理情報システム(GlS)・マシンビジョンおよびその関連分野を対象にあらゆる空間的な情報を取り扱っている学会です。年1回行われる秋季学術講演会では、30才以下の会員(正会員/学生会員)を有資格者として、優れた発表に対し学術講演会論文賞を授与しています。本年度は新型コロナウイルスの影響により、ハイブリッド方式(現地開催とWEB開催の併用)での開催となりましたが、43件の発表がありました。その中で、大学院生の江澤さんが受賞したことは快挙と言えます。
江澤さんに受賞の喜びと研究内容について詳しくお話を聞きました。
―論文賞受賞おめでとうございます。感想をお聞かせください。
講演会で発表したその日に行われた閉会式で論文賞が発表されたのですが、受賞できると思っていなかったので閉会式を欠席していました。後から知って大変驚きました。先生に論文の添削や、プレゼンテーションの練習時にご指導いただいたおかげだと思います。また、研究にご協力いただいた関係者の皆さまにも感謝しています。
樹木管理の専門家と関わりながら、研究の醍醐味を体感しました
―発表した研究内容について詳しく説明いただけますか。
生産システム工学研究室では、公園などの樹木を管理する樹木台帳を3Dデジタル化するための研究に取り組んでいます。樹木管理は倒木などの危険を未然に防ぐだけでなく、森林にある樹木を有効活用することにも役立ちます。近年、公園・森林などの樹木管理にモバイルマッピングシステム(MMS)が利用されるようになってきました。MMSにはレーザスキャナとデジタルカメラが搭載されたバッグパック型やハンディ型などがあり、歩きながら360度撮影ができるメリットがあります。MMSで撮影したデータを基に、樹種を判別するわけですが、国内の広葉樹だけでもその樹種は100種を超えます。データの中の数百から数千本の樹木1本1本を人の目で種別するには時間と労力が掛かるため、広葉樹を自動判別できる技術の開発が求められているのです。関連する過去の研究では、葉の特徴から種別する方法や樹皮の特徴から種別する方法が用いられていましたが、広葉樹は分類の難易度が高いため、本研究では葉と樹皮の両方の特徴を用いて種別を行いました。また、複数視点から複数枚の撮影データを用いることで見え方の違いによる誤分類を減らし、判別率の向上を目指しました。そして、本研究の最も重要なポイントでもありますが、樹木医と呼ばれる、樹木の専門家と共同で研究を進めながら、樹木医の樹種判別ノウハウをAIに組み込むことで、自動判別を可能にしました。これまで熟練者の経験に頼っていた種別をより高性能な情報システムによって簡単に行うことが期待できます。
MMSを使って、郡山市の開成山公園と21世紀公園、大学内での撮影を実施しました。樹木医が葉の形状や鋸歯の有無、樹皮の裂けかたなど局所的特徴を用いて分類を行っていることから、対象の詳細形状を小領域画像で評価しました。1本の木を複数方向から撮影した画像中から葉の形状や樹皮の特徴が分かるように正方形に切り取ります。AIの学習データには左右反転画像も作成してデータを拡張しました。葉のみのデータ、樹皮のみのデータ、葉と樹皮両方のデータで判別率を比べた結果、葉と樹皮のデータを半々に使った場合に95%という最も高い判別率を挙げることができました。
―どんなところが評価されたと思われますか。
樹木の専門家との連携によって、精度の高い研究成果を得ることができました。今後、樹木管理に利用できるシステムとして期待されたことが評価につながったのではないかと思います。この研究によって樹木の専門知識も増えましたし、異分野の方々と関わりながら、大学院ならではの研究の醍醐味を味わうことができました。さらに研究を続けて成果を出したいです。
AIの研究、情報工学の先端技術を学ぶとともに、
就職の武器になる経験ができました
―なぜ、大学院に進学したのですか。
高校生の頃からパソコンやゲームが好きで、漠然とプログラミングについて学びたいという思いがあり、情報工学を選びました。大学院に進学したのは、学部の授業や卒業研究を通して、さらにAIの研究、情報工学の先端技術を学びたいと思ったからです。大手企業への就職も学部卒より大学院修了の方が有利だと考えました。思った通り、就職活動で武器になる経験が増えました。工学部の特色であるロハス工学特論の授業では、工学研究科の全専攻の学生と「ロハスについて我々ができること」についてグループワークを行いました。私はグループのリーダーだったので、様々な専攻の学生の多様な意見をまとめる役目を担い大変でしたが、貴重な体験になりました。また、研究においても私と違う分野の樹木の専門家と定期的にミーティングを行いながら研究を進めていく中で、異分野連携による高いレベルの研究に携われたのは、大学院ならではの良い経験だったと思います。就職の面接の際に、これらの異分野連携についての話は面接官の方に興味を持っていただけました。
―今後の目標や将来の夢についてお聞かせください。
研究に関しては、まだAIに学習させるためのデータを人間が作成している状況なので、これもAIで自動化させたいと考えています。最終目標は、3Dマップと合体させたデジタル樹木台帳を完成させることです。将来は、自分が作ったシステムが日本を動かしている、と思えるような大規模なプロジェクトに参加したいと考えています。そのためにも研究を通したプレゼンテーション力を残りの学生生活で高めていきたいです。