第一線で活躍するプロの建築家による講評会で最優秀賞が決定!
『令和元年度日本大学工学部建築学科卒業設計作品展』が、2月11日(火)から13日(木)の3日間にわたり、郡山駅前にあるビッグアイ6階の市民ふれあいプラザにて開催されました。学内審査によって選ばれた10作品を展示し、広く一般の方々にも学修成果をご覧いただきました。初日には11名のJIA(公益社団法人 日本建築家協会)福島地域会員の建築家の方々による講評会も行われました。第一線で活躍するプロの建築家を前にプレゼンテーションを行う学生たちは緊張しながらも、作品に込めた熱い思いを伝えていました。
『つぐめー忘れ去られた停車場―』 青山 寛世さん
全国でも希少なスイッチバックと呼ばれる運転形態が使われていた、山形県と福島県の県境に現存する「峠駅」。近代産業遺産群としての価値を見直し、記憶とともに駅を再生することで、ひとつのモデルケースとして提案した。
『1000の森―水と緑と子どもたち』 池ノ谷 晟さん
郡山市街地に緑を増やすとともに、自然災害が頻発する現状から、市民にとっての避難所機能を備えた子どもの遊び場を提案した。雨天時には膜屋根の素材を活かして雨の音を楽しみ、流れ落ちる水で遊ぶことも想定している。
『波上のみち ―漁港を開く新たな終着点―』 石毛 智也さん
転換期を迎えている多くの漁港の中で銚子市外川漁港をテーマに、地域活性化の拠点となり、観光客や日常的な利用者に開かれた漁港とするためのさまざまな機能を付加させることで、今後の漁港のあり方を提案した。
『Drip―渋谷川植物園―』 海老澤 健さん
都市部での環境との関わりを見つめ直しながら、渋谷川の傍らに4層からなる浄化装置を備えた植物園的な施設を計画。ゴミ焼却施設の排熱を利用した熱帯植物の温室や親水空間などを設け、都会のオアシスを提案した。
『素形―島の移行と遺構―』 木村 凌さん
無人化に向かう島の再編成を図るため、焼却炉を介して島の自然や景観を守り、将来的に役割を終えた建物自体も減築しながら焼却することを前提とした計画、手法を提案。残った建物の一部は動植物や観光客の宿木となる。
『前衛堤―港湾デザインの昇華―』 佐藤 寛隆さん
東日本大震災以降の気仙沼大島で建設予定である防波堤の計画を見直し、建築的操作を用いることでイメージの改善を目指した。防波堤で島を塞ぐのではなく、海との新しい関わりを築き、島文化を発信する場となることを提案。
『系譜の家―家族シミュレーション―』 澤畠 優さん
子育てが終わった両親が今後30年を目途に住むことを考えて実家を改修し、隣接する敷地には3兄弟が新たな形で生活することを想定した住宅を計画。介護や育児を見据えシームレスさを持つ家族のための住宅設計を考えた。
漂うアーカイブ―東日本大震災・原子力災害の移動アーカイブ―』 関根 奨苑さん
東日本大震災のアーカイブの展示を主とした建築を記憶とともに海を移動させる計画。いわき市をはじめ被災した漁港を巡りながら、被災地同士の交流や情報発信、災害の復興支援へとつなげていく。移動により可能性も広がる。
『里に賑わいを―点在する施設をつなぐ高齢者SOHOの提案―』 寺部 友理さん
福祉施設が混在するゆうあいの里で、元気な高齢者をはじめとする周辺の住民を巻き込んだ新たな街の形成を提案。高齢者が住みながら働くSOHOや商業施設、生活の足となるバス停などを設置し新たなコミュニティを構築した。
『めぐりの通い路―自転車で変化する暮らしのスタイル―』 山口 翔大さん
スロープで構成された通り道のようなサイクリングロードをメインに、地域住民や市民、観光客をも巻き込み、子どもの成長、学習、そして市民の健康的な暮らしを生み出す空間を提案。自転車レジャーの活性化も目指している。
学生たちは設計の趣旨や概要について説明し、作品に込めた思いを伝えました。審査員の方々もそれに応えるように、丁寧かつ真剣にアドバイスしてくださいました。時にはプロ目線で厳しい意見や質問を浴びせたりしながらも、学生ならではの発想の面白さや可能性については高く評価されていました。学生にとっては大変有意義な審査会となったようです。
完成度の高い作品に、将来への期待も膨らむ
各作品のプレゼンテーション終了後、公開審査が行われました。審査員がそれぞれの作品に対する講評を述べられたのち、推薦する作品を挙げ、評価する点について説明されました。どの作品にも良さがあり、審査員の意見も分かれる中、最終的に2つの作品に絞られ、挙手による投票が行われました。その結果、最優秀作品に選ばれたのは、寺部友理さんの作品『里に賑わい-点在する施設をつなぐ高齢者SOHOの提案-』。JIA福島地域会賞が贈られ笑顔の寺部さん(写真左)は、「私が生まれ育ったまちを題材にした提案だったので、選んでいただけて大変嬉しいです。作品づくりやプレゼンテーションに向けて、後輩たちに助けられたり励まされたりしました。一人の力ではなくチーム力のおかげで受賞できたものと感謝しています。将来の夢は、雑誌に載るような建築家になること。住宅をメインに、人が住むよりよい生活空間を提案していきたいです」と声を弾ませながら、建築家を目指す決意を新たにしていました。JIA福島地域会長の三瓶一壽氏 (写真右)からは、「テーマの掴み方、問題の捉え方が洗練され、解決策も優れたものが多く、年々、全体的なレベルが上がってきています。審査をするのも大変でした。是非とも建築設計の道に進んで活躍してほしいと願っています」とエールをいただきました。この場をお借りし、審査に携わっていただきましたJIA会員の皆様に厚く御礼申し上げます。
卒業設計作品展に選ばれた10作品は完成度も高く、魅力と個性に溢れていました。4年間学んだ成果とそれぞれの思いが詰まった素晴らしい提案ばかりで、将来、実現するかもしれないという期待を持たせてくれました。世界に一つだけの作品を作り上げたことを誇りに思い、これまで培った経験を糧にして、社会で大いに活躍されること祈念しています。