学生の活躍

令和元年度化学系学協会東北大会で優秀ポスター賞(物理化学分野)を受賞しました

励起分子錯体(エキシマー)の緩和メカニズムに迫る研究が物理化学分野で高く評価される

 9月21日(土)、22日(日)に公益社団法人日本化学会東北支部2019年度化学系学協会東北大会(山形大会)が開催され、生命応用化学専攻博士前期課程2年の柴崎裕也さんが優秀ポスター賞を受賞しました。会員約3万名を擁するわが国最大の化学の学会である公益社団法人日本化学会。本大会はその東北支部が主催するものです。
光エネルギー変換研究室に所属する柴崎さんが発表した『Effect of deuterium substitution on fluorescence properties of perylene excimer』は、物理化学分野での受賞となりました。本分野では45件の発表のうち6件が選ばれています。
柴崎さんに受賞の喜びと研究について詳しくお話を聞きました。

形成されたエキシマーがどのように緩和するのか、その謎に迫りました

―優秀ポスター賞受賞おめでとうございます。感想をお聞かせください。

学部・大学院を通じて初めて賞をいただけたので、大変嬉しいです。他大学の先生方や学生からいろいろ質問されたり議論したりできたので、今までの学会発表の中で一番楽しく感じました。異分野の研究者の方から、違う視点で意見をもらえたのも貴重でした。この研究に興味を持ってくださり、いろいろな方と意見交換できて楽しい発表の場となった上に、賞までいただけて大変印象に残る学会発表となりました。

―研究について詳しく説明いただけますか。

光化学の研究分野において、凝集することで特異的な発光を示す現象は古くから研究されていますが、その詳細なメカニズムは明らかになっていません。そこで私たちの研究室では、凝集することで特異的な発光を示すエキシマーに注目して研究を進めています。エキシマーは基底状態分子が励起状態分子と相互作用することによって形成される励起分子錯体です。エキシマーの形成・緩和過程を詳しく理解するために、分子修飾の影響を調べる必要があると考え、溶液中のペリレン誘導体に着目しました。ペリレン結晶では分子重水素化によって、エキシマーの蛍光寿命が長くなることが報告されています。溶液中のエキシマーについても同様な同位体効果を期待し、研究室で自作した過渡吸収分光測定装置を使って実験を行いました。
結果、形成される過程では変化は見られず、基本的な性質はほとんど変わりませんでしたが、緩和過程(形成されたものが元に戻る)で変化が見られました。しかも、水素は21ナノ秒だったのに対し、重水素化は37ナノ秒と寿命が長くなることを見出しました。これは、内部転換によるものと考えられます。重水素化は内部転換しにくいので、多くのエネルギーを必要とします。そのため、時間が長くなったと推察しました。本研究の成果として、エキシマーの緩和過程における内部転換は、エネルギー障壁を超えることで特定の振動モードが誘起されて生じるものだと提案しました。

―どのような点が評価されたと思いますか。

重水素化については様々な反応系で研究がされているので、自分も幅広く勉強してこの研究への理解を深めてきました。そうした研究背景も交えて、専門的な議論や発展的な話ができたことが評価されたのではないかと思います。

コミュニケーション能力やプレゼンテーション能力、
文章力も向上し成長したことを実感しています。

―なぜ大学院に進んだのですか。

 研究活動をもっと続けたいと思ったのが一番の理由です。せっかく大学に入って専門的な知識を身につけたのに、4年生の半年程度しか研究に携われないのはもったいないと思いました。また、専門的な仕事に就くためには学部卒では難しいことも理由の一つです。経済面での不安はありましたが、学外・学内の奨学金とTAやチューターの支援制度を利用することで負担を軽減できたのでよかったです。大学院では、学部の時よりさらに専門的に知識や実験技術を修得できました。特に大学院に進学してからプレゼンテーションの機会が増え、学会のみならず人と対話する場面も多くなり、コミュニケーション能力やプレゼンテーション能力、文章力も向上し成長したことを実感しています。締め切りを守るといった社会で仕事をする上でのスケジュール管理の大切さも再認識できました。企業との共同研究に携わり、まだ世に出ていない最新機器を使って研究ができるのも、大学院ならではの魅力です。

―今後の目標をお聞かせください。

研究を通して新しい知識を積み重ねていきたいと思います。将来、研究室で使用している装置や光学部品などの開発や製造に関わる仕事に就きたいと考えていましたが、光学系のレンズやミラーを製造する会社に内定をいただきました。元々、研究室では自作で装置を製作することもあったので、そうした経験も役立つのではと考えています。今までは使う側でしたが、つくる側として研究者に使ってもらえるような機器を開発していきたいと思います。

―ありがとうございました。今後益々活躍されることを期待しています。

 

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