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情報工学専攻の清水悠生さんと前田晃杜さんが、電子情報通信学会ネットワークシステム研究会若手研究奨励賞を受賞しました

若手研究者による奨励講演の中から
制御ソフトウェア研究室の2人が受賞



 この度、情報工学専攻博士前期課程2年(受賞当時は1年)の清水悠生さん(左)と前田晃杜さん(右)が、一般社団法人電子情報通信学会ネットワークシステム研究会の若手研究奨励賞を受賞しました。この賞は電子情報通信学会に投稿された35歳以下の若手研究者の論文のうち、研究専門委員会にて審査し2割弱の若手研究奨励賞の対象者から選ばれます。その後、奨励講演で発表した対象者の中から、概ね10%程度にこの賞が授与されます。二人は制御ソフトウェア研究室(指導教員:上田清志教授)に所属。それぞれ異なる研究テーマで挑み、見事若手研究奨励賞に輝きました。
 二人に受賞の喜びと研究について詳しくお話を聞きました。

Seq2Seqモデルを用いた仕様書自動構造化による
試験項目自動生成手法
清水悠生さん(情報工学専攻博士前期課程2年/制御ソフトウェア研究室)

 通信ソフトウェアを開発する際、主流となっているのがウォーターフォールモデルです。中でも、V字モデルはウォーターフォールモデルを基にした開発工程と、開発工程の段階にあわせたテスト工程を結びつけることで、検証の精度と効率性の向上を可能にするソフトウェア開発モデルです。昨今、高品質な通信ソフトウェアの大規模化に伴い、開発期間やコストの増加、人員不足などが課題となっています。そこで、機械学習機を用いて、設計の段階で出される要求仕様書から、総合/安定化試験項目を自動生成する手法が研究されてきました。本研究では、機械学習により自動生成される総合/安定化試験項目の正答率をさらに向上させるために、近年注目される深層学習を応用した要求仕様書の自動構造化による試験項目自動生成手法の確立を目指しました。

 先行研究では機械学習機CRF(Conditional Random Fields:条件付き確率場)を用いました。今回、チャットGPTなどの生成AIにも使われるAttention機構を取り入れたSeq2Seqモデルを用いて、長期的に学習できるLSTMモデルと先行研究のCRFとの比較検討を行いました。各種ITシステム仕様書を教師データとした場合、Seq2Seqモデルは高い精度を出し、先行研究であるCRFの精度には及ばないものの、LSTMモデルの精度を大幅に上回ることが確認できました。しかし、大規模通信ソフトウェアの要件仕様書を教師データとした場合には、LSTMモデルと同等の精度でした。教師データ量が少ないことや実際の仕様書の中に学習に適さない部分があるので、それらを改善していくことが課題です。

 今後の研究に先進的な技術を取り入れていきたいと思っていたので、学会発表の場を通してAIに精通している研究者の方から意見をいただくなど、有意義な議論ができたことは大きな収穫でした。発展途上の研究段階でしたが、賞をいただけて大変嬉しく思います。この賞を励みにもっと発展させていきたいと思っています。

 情報工学科に進んだのは、将来ゲームクリエイターになろうかなという漠然とした夢を持っていたことが理由です。大学からプログラミングに触れたこともあり、大学4年間ではまだ足りないと感じ、スキルを高めるために大学院進学を決意。今は着実に技術を身につけられていると実感しています。研究していることを活かして、将来はAIを使って今あるサービスをよりよくしたい、課題解決をしたいと思っています。

「無人移動機の移動時間を考慮したOLSRベースのリンク単位ロック経路構築法」
前田晃杜さん(情報工学専攻博士前期課程2年/制御ソフトウェア研究室)

 近年、配送や災害対応などで無人航空機(UAV)の活用が注目されています。UAVが高密度に飛行する環境では、航空路のような航行管理システムが必要となります。そこで、私たちはパケット交換網のバーチャルサーキット方式を応用した分散型UAV管理システムを提案しました。

 本システムでは、各家屋に設置した無線デバイスによるマルチホップネットワークで送信元から送信先へ経路を構築し、UAVが経路上を航行することにより航路が制御されます。UAVの経路となる全リンクをロックし、さらに経路とクロスする全リンクもロックし、UAV同士の衝突を回避するルートロック方式を考えました。しかし、航行するUAV台数が多くなると経路として使用可能なリンクが減少し、経路が構築できない(経路構築失敗)可能性が高くなってしまいます。

 本研究では、UAVが航行中のリンクのみをロックし、それとクロスするリンクをロックすることで、経路構築失敗を少なくすることを目指しました。UAVの航行の安全性を考慮し、OLSR(無線マルチホップネットワーク)をベースに変更を加えた最適移動経路構築法を使い、コンピュータシミュレーションによって提案方式の有効性と特性を評価・検証しました。OLSRは無線デバイス間でバケツリレーのように通信データを渡していくネットワークです。各デバイスは隣のデバイスのみを知っている状態で通信を行います。さらに、通信エラーが起きた場合、ロックの情報が伝わらなくってしまうので、再送処理ありのリンクロック情報通知メッセージであるLLN(Link Lock Notification)を新設しました。結果、経路構築失敗率は減少し、集中地区経路距離、総経路距離とも提案方式によって大幅な短縮ができ、UAVに必要な航続距離を大幅に短縮することができました。

 学会での口頭発表は2回目でしたが、面白い研究だと評価していただきました。質疑応答の際には研究者の方が有意義なアドバイスをくださり、今後の研究につながる貴重な場になりました。自分の中でも益々研究が楽しみになっています。そのうえ、狭き門を突破して受賞できて、嬉しい気持ちでいっぱいです。今後に期待を込めて評価していただいたものなので、期待に応えられるよう研究に励みたいと思います。

 幼い頃からゲームが好きでプログラミングに興味があり、情報工学科に進みました。大学の学修を通して、課題を見つけて解決するプロセスを体験するのが楽しくて、もっと究めたいと思い大学院に進学しました。将来はネットワーク系のシステムエンジニアになって、お客様の課題解決に貢献できるスペシャリストになることが目標です。

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