ネットワーク技術を駆使したドローンによる無人宅配技術の開発研究が高く評価される
この度、情報工学専攻博士前期課程2年の大川柊音さん(制御ソフトウェア研究室/上田清志教授)が電気・情報工学分野の学術研究学会であるIEEE Consumer Technology Society East Joint Japan Chapterが主催する「IEEE CT East Joint Japan Chapter ICCE Young Scientist Paper Award」を受賞しました。ICCEで優秀な研究発表を行った35歳以下の日本の若手大学研究者を表彰する賞です。厳正な審査の結果、2024年度は国内の受賞資格のある80論文中からPaper Award 4件が選ばれました。大川さんが発表した『Selecting Nodes to Operate Relay Function for UAV Routing in Wireless Multi-Hop Network』は小型無人移動機の自動運転技術に関する研究です。昨年行われたIEEE の国際会議 『IEEE コンシューマ エレクトロニクス国際会議 (ICCE 2024)』でも、Best Regional Paper Award(最優秀地方紙賞)を受賞しています。
大川さんの喜びの声とともに、研究について詳しくお話を聞きました。
―Paper Award受賞おめでとうございます。感想をお聞かせください。
受賞の知らせは突然メールで来たので、初めはビックリしたというのが正直な感想です。賞状を手にしてようやく実感が湧いてきました。このような大きな賞をいただけるとは思っていなかったので、大変嬉しく光栄に思っています。自分一人の力では絶対に取れなかったので、日頃から研究へのご指導、学会発表へのアドバイスなど、多方面でサポートしてくださった上田先生には大変感謝しております。
―研究について詳しく説明いただけますか。
近年、配送サービスやセンシング、災害対応など様々な場面で、無人航空機(UAV: Unmanned aerial vehicle)の利用が期待されています。将来、UAVの本格的な利用が始まり、様々なサービスが混在した場合、航空機の通常の航空路のように、UAVが安全に飛行するための管制システムが必要になります。UAVによる物流に最適化された経路を制御する方法として、私たちは全国に設置されつつあるスマートメーターのような無線デバイスを各家屋に設置し、その無線マルチホップネットワークを用いて移動機の移動経路に適したネットワークの構築を目指しています。
複数のUAVで経路を構築する場合、あるUAVが経路に使用するリンクをロックすることで経路の重複による衝突を回避する方式(リンクロック方式)があります。安全にUAVを飛行させることはできますが、経路構築に失敗する可能性が高まります。リンクの階層数を上げることにより経路構築失敗率を軽減できたとしても、階層が高くなってしまうことでの効率の悪さや衝突する可能性が上がってしまうデメリットも出てきます。そこで、自動的にリンク単位で適切な階層数に変更する「アーランB方式」を提案しました。人口密度が高い集中地区と低い点在地区とで、安全性を考慮して飛行時間を変える必要があります。そこで、その値を保留時間として固定する方式と、そこにリンクを使用するUAVの航行時間を加算した保留時間の2パターンで実験を行い、集中地区距離と総距離の変化や経路構築失敗率を評価しました。
実際に福島県内の地域などをモデルに、ネットワークシミュレーターのNS-3を利用して、AODVのシミュレーションソフトウエアに提案方式の信号処理、情報リポジトリを追加変更し、シミュレーション実験を行いました。リンクが繋がらないように呼損率をあげることで、実験1は平均総距離が増加しましたが、実験2では減少。呼損率が下がると経路構築失敗率が減ることがわかりました。また、呼損率を減少させることにより郡山駅周辺モデルでは集中地区を迂回させることができましたが、ランダム配置モデルでは呼損率による経路距離への影響は見られない結果となりました。
―どのような点が評価されたと思われますか。
従来の方式よりも経路構築失敗率と総距離、集中地区距離の改善を図ることができたのが良かったと思います。今後は階層を増やさなくても利用していないリンクロックを解除することで、さらに効率を良くする方法を提案したいと考えています。また、波長割当方式を参考にした光によってリンクを割り当てる方式も検討する予定です。課題はまだまだありますが、世界中で無人配送システムの開発が進められていることからも、将来的に必要とされる技術開発に取り組んでいる点が評価されたのかもしれません。
―どんなところに研究の魅力を感じますか。
最初はリンク単位を自動的にあげる方法が全然思いつかなかったのですが、上田先生からアーランB方式を使ってみたらとアドバイスをいただき、使ってみるとできそうな感じがしてきて、面白くなってきました。失敗すると実行できないからデータすら出てこない、気持ち的にも苛立ってくるのですが、上手くいくと達成感があり、どんどん面白くなっていくんです。まだシミュレーションの段階なので、実装するためには気象条件なども考慮したプログラムの構築が必要になります。現在はネットワーク技術を駆使して研究を行っていますが、今後はAIなどの技術を導入していくことも考えられます。情報工学はまだまだ進化しているから、これから学ぶ人にとっても魅力のある分野だと思います。
―将来の目標や夢はありますか。
卒業後はシステムエンジニアとして、様々なシステム開発に従事していきます。これまで物流業界の人手不足を解決する手段としてUAVを使った無人宅配技術の研究に取り組んできたので、生活を支えるインフラに関われたらいいなと思っています。災害時や交通の便の悪い地域、高齢者向けに薬などの緊急性のある物資を運ぶためのシステムなど、社会に貢献できる技術を開発することが目標です。
―ありがとうございました。今後益々活躍されることを祈念しています。
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