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土木工学科 石橋寛樹専任講師が土木学会建設マネジメント委員会論文賞、年次学術講演会優秀講演者として表彰されました

気候変動を考慮した橋梁の劣化予測をシミュレートする研究で土木分野におけるデータサイエンスの可能性を広げる

 土木工学科石橋寛樹専任講師が投稿した論文「気候変動を考慮した機械学習による橋梁の劣化発生推移予測」が、公益社団法人土木学会建設マネジメント委員会論文賞を受賞しました。この賞は1年間に土木学会論文集F4(建設マネジメント)に掲載された論文の中から、建設マネジメント分野の学術的・技術的・実務的な発展に資するため、建設マネジメント分野に貢献した個人・団体に贈られるものです。

 また石橋専任講師は令和6年度土木学会全国大会 第79回年次学術講演会においても「南海トラフ地震による地震動および津波の影響を考慮した橋梁の最適な地震対策方法の同定」の発表によって、優秀講演者として表彰されています。
 石橋専任講師に、土木分野においてデータサイエンスが広げる可能性と将来のインフラ維持管理の課題について詳しくお話を伺いました。

―受賞された論文の内容について、詳しく説明をお願いします。

 東北地方の橋梁を対象に、様々な実データを活用した機械学習を行うことで、凍害やアルカリ骨材反応といった劣化の発生有無を判定する予測モデルを構築しました。予測モデルの判定結果を大きく決定づける劣化因子を同定するとともに、劣化メカニズムとの整合性から予測モデルの妥当性を検証しました。

 さらに、構築された橋梁の劣化発生予測モデルに対して、今後気候変動で気象条件が変わっていくことも考慮した解析を行うことで、将来的な橋梁の劣化発生推移も予測しました。どこの橋梁で何年後に劣化が発生するか、時系列変化を検証した解析ベースの研究です。気候変動の有無とそれぞれ想定した予測結果を比較した結果、気候変動の影響による橋梁の劣化発生数の増減が示唆されました。また、将来新たに劣化が発生する橋梁は、現時点で劣化している橋梁の周辺に多く分布することも明らかになりました。

 これらの解析シミュレーションには東北地方整備局が管理する実際の橋梁データを使用しており、気温、交通量、降雪量、日射量などの複数の要因が橋梁の劣化に与える影響をデータサイエンス技術によって分析したものです。現場調査を実施し、実際の橋梁の状態も確認しています。これもひとえに東北地方整備局との連携と共同研究者の皆さんのお力添えあってのことと、心から感謝しています。

―どのような点が評価されたと思われますか。

 複数の劣化因子を掛け合わせることで深掘りした分析ができたことと、気候変動のデータも使って将来どうなっていくのかという予測をセットで提示できたところが新規性として評価されたのではないでしょうか。これまでも一部近しい研究がありましたが、国内に限るとここまで深掘りしたものはありませんでした。実際にわかっているように見えることでも、現場では定量的に検証されていなかったことが浮き彫りになりました。また、これまであまり指摘されていなかった橋梁劣化との因果関係まで提示したことで、分野としてのさらなる研究の発展に繋がる可能性があります。

 国内に多数存在する橋梁は予防保全が急務と言われています。その重要性は認知されていますが、劣化してから修繕、補修という事後保全からの脱却はそう簡単ではありません。これからは人も減り、保全にかけられるお金も減ってくるという現状で、予防保全に移行していくにあたって、将来がどうなるのかを具体的に提示する予測データをつくることが重要だと考えています。予防保全に必要なデータを考慮の上で計算しているというところも、評価していただけたかと思います。

―優秀講演者として表彰された南海トラフ地震に関する発表は、全く違う研究テーマですね。

 こちらは地震を軸にしたマルチハザードがテーマの数理解析になります。発生確率が高まっている南海トラフ地震に対して、どのような地震対策をどの橋梁にすべきかを検証する研究です。従来では、「地震対策=揺れに強くする耐震補強」という考え方がハード対策として一般的ですが、2011年東日本大震災では、耐震補強が施されていた橋梁が津波によって流出してしまう被害が発生しました。

 南海トラフ地震でも大津波の発生が懸念されているので、もしかすると橋梁が流されてしまうことに対応する、早急に復旧するための事前準備が耐震補強よりも優先されるべきではないか、といったことを研究しました。津波による流出被害を想定した事前準備が有効な橋梁はどれなのか、耐震補強プラスアルファとして津波対策もしておくべきなのか、あるいは従来通りの耐震補強だけで十分なのかを検証しました。土地勘のある和歌山の約300橋を取り上げ、他大学も含めてプログラムやデータの支援をいただきながら進めました。どれくらいの地震でどのくらい断層が滑ってどのくらい浸水するのか、といった解析を行ってハザードマップのようなものを作成した上で橋梁の構造解析も行い、かけ合わせるような形で南海トラフ地震にどの程度耐えられるのかを計算しました。

 それに加えて復旧工事の費用や時間についてのコストも試算し、補強の程度が復旧時間に影響する数値も併せて対策コストのパフォーマンスを検証しています。この研究は私が博士課程のころからブラッシュアップを続けてきたもので、当時は実験と解析の紐づけを目指して、津波対策として有用な部材開発の実験にも注力していました。

―今後はどのような研究を進めていかれる予定ですか。

 橋梁劣化予測の研究に関しては、精度をもっと高めていく必要性を感じています。人口が減り、維持管理にかけられる費用も制限される中で、機械学習によっていろいろな角度からシミュレートした将来の選択基準となる予測データの役割は重要です。国のプロジェクトでも優先度判定に有効だとして利用されているので、さらにデータを追加してより精度の高いものにしていきたいと考えています。
 その上で、今ある橋梁全てに関して保全を考えるのではなく、維持管理の優先順位をつける優先度判定によって、根拠を持った維持管理マネジメントの合理化に繋がる研究を進めていきたいです。維持管理対策に部材劣化と突発的な災害現象の両方を照らし合わせるといったところまで踏み込んでいけたら、とも考えています。

―学生たちへのメッセージをお願いします。

 インフラの維持管理は今後10年、20年、30年とどこまでも続いていきます。加えて新しいインフラもどんどん整備されていきます。そんな中で手をかけられる人とお金が減っていく時代だということを念頭に、日々勉強を重ねてください。生成AIがあったりプログラムを組むのが簡単になったりと便利な世の中ではありますが、多様な世の中に対応していくためにはさまざまな視点が求められていくでしょう。これまでの先人たちのやり方を踏襲しつつもさらにひとつ自分たちの時代に即した新しい手法みたいなものを、自らの頭を使って考え続けていってほしいです。

―ありがとうございました。今後益々ご活躍されますことを祈念しております。

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