地域と連携し、次世代を担う子どもたちの景観やまちづくりへの意識を高める活動が高く評価される
この度、建築学科住環境計画研究室(市岡綾子専任講師)と白河市が協働で児童を対象に実施している「白河市における景観学習」が、国土交通省「令和6年度都市景観大賞」景観まちづくり活動・教育部門で優秀賞を受賞しました。この賞は地域に関わる人々が景観に関心を持ち、自らの問題として捉え、その解決へ向けて活動できるようより良い都市景観の形成を目指すものです。
「白河市における景観学習」は小学生児童の育ちのモデルとなる大学生もかかわり、地域社会との連携性や協働性が顕著な景観学習を推進し、進化・深化する可能性が期待できる取り組みとして高く評価されました。10月24日(木)に市岡専任講師と参加した学生3名が白河市庁舎にて鈴木和夫市長に受賞報告を行い、受賞の喜びを分かち合いました。白河市が景観づくり事業に力を入れて取り組んでいる中で、景観学習が継続的に展開されていることは意義深く、また子どもたちと大学生との出会いも大変貴重な機会になっているとして、鈴木市長より感謝の言葉もいただきました。
市岡専任講師に受賞の喜びとともに、これまでの取り組みについてお話を伺いました。
―令和6年度都市景観大賞優秀賞受賞おめでとうございます。感想をお聞かせください。
白河市の景観学習は、次世代を担う子どもたちに「まち」や良好な「景観」に対して関心を持っていただき、景観やまちづくりへの意識を高めることを目的に、平成29年から始まりました。住環境計画研究室が協力し、プログラムを遂行する形で携わっています。初めは城下町地区を学区域にしている白河第一小学校の6年生を対象に行われましたが、本年度は5つの小学校(白河第一、釜子、関辺、みさか、大信)で実施しました。参加する小学校も年々増えていることから、白河市の景観まちづくり事業の一環である本プログラムを通して、白河の景観をより魅力的にするお手伝いができることを大変光栄に思っております。これまでに活動に参加した大学生は、住環境計画研究室だけでなく他学科も含め120名余りになります。参加してくれた大学生や景観学習の事業化にご協力いただいている小学校並びに白河市役所の皆様とともに、優秀賞を受賞できましたことはこの上ない喜びであり、今後の活動へのやりがいにもなります。来年度はまた1校増える予定ですので、この賞を励みに、まちが発展していく様子や参加校に合わせてプログラムを更新していきながら、楽しく笑顔で続けていきたいと思っております。
―景観学習の内容について、詳しく教えていただけますか。
景観学習は主に、まち歩きによる写真撮影と撮影した写真に基づく景観資源化と共有化を行う地図制作によって構成されています。大学生とのまち歩きを通じて、参加児童が各々景観に気づき写真として記録し、紹介したい魅力ある景観を地図としてまとめます。最後にお勧めの景観を各自発表し、白河第一小では授業参観で保護者に発表します。市担当者が活動周知を目的に、完成した全ての地図を白河市立図書館に掲示し、また「まちのすがた」という名前で活動内容をPDF化した小冊子を毎年作り、市ホームページ上や市内施設等に設置しています。まちの変化に応じたコースの変更などプログラムを改善するとともに、老舗の酒屋や和菓子店など地域の人々と交流できる立ち寄りスポットも取り入れました。普段見れないものを見て、まちづくりに関わる方のお話を聞き、一期一会の出会いから子どもたちとまちとの繋がりを築くようなプログラムになっています。
初めに図書館でレクチャーを行うのですが、その際、江戸時代の古地図とまち歩きの地図を重ねてみせると、現在の白河が昔とほとんど変わっていないことに子どもたちは大変驚きます。江戸時代から続くまちの営みを知ると、自分たちも歴史あるまちを継承して、景観を守りつくっていくことに役立ちたいと、景観を通じてまちへの興味が深まるように心がけています。まち歩きのリアルな空間の中で、江戸時代と今を行き来する体験は子どもたちにとって白河らしさを感じられる印象深い時間になっているようです。


―景観学習にはどんな魅力や効果があるのですか。
児童が大学生と一緒にゆっくりと歩きながら、地方都市特有の気が付かなければ埋没してしまうかもしれないようなまちの魅力を掘り起こして、子どもたちの心の中に留めていく展開が、この景観学習の醍醐味です。活動を通して普段の生活の中でもまちに関心を持ち、気づきが得られたという声も聞かれました。それが白河市に住み続けたいと思うきっかけになり、将来まちの景観を守っていく側に立つ人材に育ってくれればと願っています。地域の方々にとっても子どもたちの景観学習が刺激になり、まちとのかかわりが強くなっているようで、まちの魅力、景観の素晴らしさを伝えていきたいという方々が増えています。
また、大学生が子どもたちの気づきを促す役割として付き添うために、事前にまち歩きの練習を行う際に、まちの方が声を掛けてくださることもあります。学生たちも地域の方々との繋がりを持てたり、子どもの視点でまちや景観を見ることで新たな発見があったり、地域をフィールドにしている活動だからこそ得られる貴重な経験をしています。


自分でも気がつかなかった能力や可能性に気づき成長していける、それこそが日本大学工学部ならでの学びと言えるでしょう。もともと白河市内に大学がないので、子どもたちに近い大人である大学生が一緒に活動するということが、景観学習の最大のポイントでもありました。子どもたちにとって、自分の近い将来のモデルとなる大学生との活動は思い出として残り、大学生も参加して良かったという喜びになっており、学びの場としての魅力になっています。
―どのような点が評価されたのでしょうか。
景観まちづくり活動・教育部門の評価ポイントは、継続性、地域とのかかわりや連携性、独自性、双方向性や対話性、地域への顕著な効果の発現性です。実際に審査員の方が現地に赴き、視察・調査の結果から審査が進められました。講評にもありますが、小学校を舞台にして地域を巻き込み、日常生活で景観に配慮できるような次世代の人材育成を推進していることが評価されました。人との出会いをプログラムに盛り込んでいる点も評価されたポイントになっています。大学人として私たちが独断で活動を推し進めるのではなく、広い視野で支援していると評してくださったように、白河市民ではないからこそ、白河の魅力をいかに子どもたちに伝え、白河に愛着を持って育っていくことを主眼において活動しているその思いを汲み取っていただいたことを大変嬉しく思います。
―今後、どのように活動を進めていくのかお聞かせください。
児童の教育もデジタル化が進んでいる中で、一人一台タブレットを持つ時代になり、景観学習の様相も変わってきました。これまでは紙ベースの景観学習ノートを作り、そこにまち歩きの際に撮影した写真を貼っていくやり方でしたが、今はタブレットを用いて撮影することができ、常に手元に景観学習の情報が残るという点では有益になっていると感じています。この取り組みはまちの記録と記憶の蓄積になります。また、景観というテーマは子どもと大人の垣根を越えてともに楽しめる、共有できるメリットがあり、この景観学習はまだまだ裾野を広げて行けるという点でも魅力的な取り組みと言えます。地域の皆様が遺すべき大事なもの、そして次世代に継承していくべきものを伝えていくことが私の役割だと思っております。今後もこの活動を継続し、白河市の発展に寄与して参る所存です。
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