次世代の量子情報通信に役立つ光量子メモリの研究が高く評価される
10月2日(水)から4日(金)に第43回電子材料シンポジウム(EMS43)が行われ、電気電子工学専攻博士前期課程1年の濱崎妙子さん(光通信デバイス研究室/指導教員:俵毅彦教授)が、EMS学生奨励賞を受賞しました。本シンポジウムは半導体をはじめとしたさまざまな電子材料の物理と化学分野を対象に、電子材料の最先端技術の新たな発展に寄与することを目的に行われています。毎年若手研究者を対象にEMS賞を授与していますが、さらに今年からEMS学生奨励賞を設けて、優秀な発表や討論、質疑応答などの印象に残る活動を行った学生約10名を表彰することになりました。次世代パワーデバイスや光デバイスに関する研究発表が多い中で、濱崎さんは量子情報通信の核となる光量子メモリの研究を進めており注目を集めました。
濱崎さんの喜びの声とともに、研究について詳しくお聞きしました。
―EMS学生奨励賞受賞おめでとうございます。感想をお聞かせください。
ポスター発表だったのですが、その前に2分間のショートプレゼンがあって概要を説明しました。学部4年の時に工学部キャンパスで行われた若手研究者の発表会には参加したことがありましたが、大学院に進学してからは初めてのことでしたし、これまでとは比にならないくらい大勢の方を前に発表したので、マイクを持つ手が震えるほど緊張しました。表彰式でEMS学生奨励賞に自分の名前が呼ばれた時はビックリしました。まさか賞をいただけると思っていなかったので、素直に嬉しく思うとともに、これからもっと研究に励んでいかなければという気持ちになりました。
―発表した研究について詳しく説明いただけますか。
現代社会において、通信インフラの超高速化・超低遅延化・超省電力化とともに、利用者にとって安全で高信頼な通信環境を確保することが重要な課題になっています。いま、注目を集めているのが、量子力学的効果を用いた秘匿性の高い量子情報通信です。問題は、光子は200㎞程度で減衰してしまうため、広域通信を行うためには量子中継器が必要不可欠と言われています。しかし、量子中継器の心臓部になる光量子メモリが未だ確立されていません。そこで光通信デバイス研究室では、光量子メモリを使ったシリコン基板上光量子集積回路(Si量子フォトニクス)の実現を目指しています。主に①光量子メモリ ②単一光子生成 ③微小レーザ ④光導波路 ⑤周波数安定化 の5つのテーマに沿って研究を進めています。
その中で、私が発表した『スペクトルホールバーニング技術を用いた167Erのスペクトルホールの時間発展』は光量子メモリに関する研究です。光量子メモリとは光の粒に情報を書き込み(転写・保存)、さらに読み出す役割を担います。要件として、長いコヒーレンス(メモリ)時間を保てること、通信波長帯光と同じ波長でのアクセスが可能であること、結晶が固体材料であることが挙げられます。着目したのは、固体であり希土類の中で唯一通信波長帯での光アクセス可能な167Er3+:Y2SiO5(167Er:YSO)結晶。これを使ってコヒーレンス時間を長く保てる光量子メモリの確立を目指し、167Er:YSO結晶内電子のダイナミクスの解明に取り組んでいます。
従来の周波数領域での測定ではなく、測定環境の影響を受けにくい時間領域での測定方法を用いることで、より正確なコヒーレンス時間の測定が可能になると考えました。その前段階として、本研究ではコヒーレンス時間と密接に関わるエネルギー緩和時間の測定を行いました。光を当てると量子ビットの励起状態が起こりますが、それが基底状態に緩和するまでの時間が長ければコヒーレンス時間も長くなります。実験の結果、先行研究と矛盾のない[T1=13.4±0.7ms]を観測。これにより、エネルギー緩和時間の測定に成功することができました。
―どんなところが評価されたと思われますか。
この研究は新規性が高く、これまでにない切り口だったため、興味を持ってくださった方がどんな研究なのか聞きに来てくださいました。詳細を知る方が少ないことで、逆にリラックスしてわかりやすく説明できたのが良かったのだと思います。また、従来のエネルギー緩和時間測定では様々な発光遷移の平均化された情報しか得られなかったのですが、特定の遷移にフィーチャーした時間分解スペクトルホールバーニング(TR-SHB)で測定した点においても、先行研究とは違う独自性が評価されたのかもしれません。
私自身シンポジウムに参加して、他大学の学生や研究者と交流する中で、共同研究や就活など各方面で懸命に取り組んでいる方の話を聞いて大変刺激を受けました。今後の研究活動へのモチベーションにもつながっています。
―なぜ電気電子工学専攻に進まれたのですか。
電気電子工学を学ぼうと思った理由は、建設業から電機メーカー、IT関連まで幅広い就職先があると思ったからです。実際学んでみると理論に留まらず、実験を通して実践的な知識や技術を学ぶことができました。将来、開発職や設計職に就きたいと思ったことや俵先生の後押しもあって、大学院への進学を決意しました。俵先生は企業での実務経験があり、就職の相談も親身に乗っていただけることが、この研究室を選んだ理由でもあります。
―今後の目標をお聞かせください。
TR-SHB測定を確立することができたので、これでコヒーレンス時間の測定に取り組み、最終的な目標である167Er:YSO結晶を使った光量子メモリの確立を目指します。研究成果をあげて、より大きな学会で口頭発表ができるようになりたいです。また、将来、電機メーカー等に就職して商品開発や設計の仕事に就くことを目指しているので、研究者としての素地を磨いていきたいと思っています。
―ありがとうございます。今後の活躍も期待しています。
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