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土木工学専攻2年の田中暁さんが、コンクリート工学年次大会2024において年次論文奨励賞を受賞しました

新たな高速道路橋床版の補修方法の提案が高く評価される

 6月26日(水)から28日(金)、公益社団法人日本コンクリート工学会主催『コンクリート工学年次大会2024(松山)』が開催され、土木工学専攻博士前期課程2年の田中暁さん(構造・道路工学研究室/岩城一郎教授・前島拓専任講師)が、年次論文奨励賞を受賞しました。この賞は若手(40歳未満)研究者を対象として、論文および講演の内容が優れていると認められた者に贈られます。田中さんの論文『上面増厚後に層間剥離が生じた道路橋RC床版の再補修工法に関する検討』は、一般財団法人首都高速道路技術センター、ショーボンド建設株式会社、株式会社NIPPOとの共同研究による成果を発表したものです。

 田中さんに受賞の喜びと研究について詳しくお話を聞きました。

―年次論文奨励賞受賞おめでとうございます。感想をお聞かせください。

 学会発表は学部4年次に1回、大学院に進学して2回経験しましたが、賞をいただくのは初めてです。実は今回、賞を狙っていました。研究で良い成果が得られて、それをまとめた論文でしたから、気合いを入れて発表に臨みました。ただ、質疑応答では納得いく答え方ができず駄目だったかもしれないと思っていたので、受賞できた時は大変嬉しかったです。ご指導くださった岩城先生や前島先生のおかげであり、深く感謝しております。

―研究内容について詳しく説明いただけますか。

 高度成長期に一斉整備された、都市内の高速道路をはじめとする道路橋の鉄筋コンクリート床版(RC床版)では疲労損傷が進行し、緊急的に補修・補強が必要になるケースが多発しています。現在、RC床版の補強工事として、既設のRC床版の上面に繊維補強コンクリートを増厚する上面増厚工法が多用されていますが、施工後数年で層間剥離が生じることや水平方向に損傷した床版は剛性が著しく低下することが課題として挙げられます。そこで私たちは、高速道路の複合防水工法の一次防水層として利用されている高浸透型防水材を補修材料として利用する手法を提案しました。舗装や防水層の更新工事であれば早急に補修・補強ができ、橋の架け替えといった大規模な工事を行わずにRC床版の延命につながれば、コスト面でも削減できます。

 学部4年次に行った研究では、疲労損傷度の高いRC床版に対して高浸透型防水材を用いた結果、RC床版の耐疲労性が向上するという結果になりました。さらに本研究では、課題になっている既設RC床版と補強された上面増厚部との界面のひび割れに防水材を充填する手法とその効果について検討しました。

 RC床版の供試体をつくり、輪荷重走行試験装置を使って疲労試験を行い界面剥離の状態にします。その供試体の上部にドリルで穴を開けて、接着効果があり小さなひび割れに入りやすい水のような液状の防水材を流し込み、再度疲労試験を行います。充填前と後の走行回数、床版のたわみ、打音検査、目視によるひび割れ性状、局所振動試験による共振周波数などを計測し、耐疲労度を比較しました。

 防水材によって界面剥離を起こしていた床版が、1枚板のようにしっかり接着された効果により、約60%の延命効果をもたらすことがわかりました。ざっくりとですが、100年持つ橋にこの手法を適用した場合、160年持たせることができるというわけです。現状、緊急で掛け替えを行わなければならない橋が多数ありますが、この補修方法を導入することで延命化できると考えられます。従来の補修方法よりも省力化できる手法であり、実験では防水材の浸透を促進するために人力で振動を起こしていますが、これを機械的に作業できれば、すぐにでも実装できるのではないかと思っています。

―どのような点が評価されたと思われますか。

 橋の架け替えといった大規模な工事を行わずに、疲労損傷した道路を早急かつコストを削減して補修・補強ができる手法を提案したことが、評価されたポイントだと思います。適切な補修方法はまだ確立されていない状況ですので、有効的な手段になると思っていただけたのではないでしょうか。

 本研究は企業との共同研究ということで、私たちの研究室は防水材による補修と床版内部の損傷度を評価する実験を担当しました。データの取りまとめは大変でしたが、より精度の高い実験データを提示できたことで、論文の価値を高められたと思います。また、自信を持って発表できたことも評価につながったのかもしれません。学部4年次に大学院生の先輩が丁寧に指導してくださり、さらに岩城先生や前島先生に発表練習を見ていただいたおかげで、段々とプレゼンスキルが向上し、今回の発表でもその力を発揮することができました。

―今後の目標についてお聞かせください。

 これまでは損傷が著しく掛け替えが必要な橋を対象に研究を行ってきましたが、もしかしたら損傷がひどくなる前の段階で補修をすれば延命効果がもっと上がるのではないかと考えました。今後は損傷の少ないRC床版を対象に実験を進める予定です。

―なぜ、大学院に進学したのですか。

 大学院への進学を決めたのは、仕事を任せられるチャンスがより増えると考えたからです。もともと、道路関係の企業に就職したいと思いこの研究室に入りました。大学院進学を視野に入れて研究テーマを選ぶ時、輪荷重走行試験装置を使って実験してみたかったことや研究している先輩に憧れたことがきっかけでこの研究に携わってきましたが、橋の補修や維持管理にもの凄く興味が湧いてきて、将来その仕事に携われる企業を志望しました。

 大学院に進んで後輩に研究を指導する立場になり、リーダーシップや人に伝える力が鍛えられたと実感します。実際、就職試験で面接が5回あったのですが、伝える力が備わっていたことが採用の決め手だったかもしれません。将来は、高速道路の維持管理システムを刷新するようなプロジェクトの責任者になって、安全安心な社会に貢献することが目標です。父や親戚が建設業界で働いていて、幼い頃から身近な存在だったこの業界で、自分も大いに活躍できたらと思います。

―最後に、後輩にメッセージをお願いします。

 土木は人生に大きく関わるもので、研究対象の規模が大きく影響力もあります。特にこの研究室では社会実装につながる実践的な研究が多いので、自分が研究したことが世の中の役に立つと思うと、ますますモチベーションも上がります。しかし、研究していく中で、高い成果が得られるかどうかは運もあり、上手くいかないことも多々あります。それをいかに価値のあるものに発展させるかは、本人の努力次第。全力で努力すれば結果は後からついてくると思います。諦めずに頑張ることが成功への第一歩。後輩のみなさんも諦めず頑張っていってほしいと思います。

―ありがとうございました。今後益々活躍されることを期待しています。

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