半導体材料として注目を集めるハライドペロブスカイトを用いて高性能な薄膜の作製を目指す
この度、電気電子工学専攻博士後期課程3年の鈴木静華さん(薄膜機能材料研究室/髙橋竜太教授)が、独立行政法人日本学術振興会の令和6年度特別研究員(DC2)に採用されました。特別研究員制度は、我が国の優れた若手研究者に対して、自由な発想のもとに主体的に研究課題等を選びながら研究に専念する機会を与え、研究者の養成・確保を図る制度です。毎年申請者の2割程度しか採用されない狭き門と言われています。薄膜および表面界面物性関連区分での採用となった鈴木さんの研究課題「イオン液体を介した真空プロセスによるハライドペロブスカイト単結晶薄膜の創製」は、太陽電池などの半導体材料として注目を集めているハライドペロブスカイトを用いて、独自で考えた特殊なプロセスによって高性能な薄膜の作製を目指す研究です。
鈴木さんに、採用された喜びの声と研究について詳しくお話を聞きました。
特別研究員採用おめでとうございます。感想をお聞かせください。
DC1の時は叶わず2回目の挑戦となりましたが、採用されて大変嬉しく思います。研究が評価された証でもあり、ご指導いただいた髙橋先生や共同研究に携わっている皆さまにも感謝しております。また、研究者として書類を書く能力も大変重要なスキルですから、その技術が向上したことも私にとっては大きな収穫です。これからは研究に専念できる環境が整ったので、より一層、研究活動に励んでいきたいと思っています。
―研究について詳しく説明いただけますか。
これまでの研究では、Y2O3蛍光体の薄膜研究に取り組んできました。成果として、酸化物薄膜を高真空下で堆積するコンビナトリアルパルスレーザー堆積(PLD)手法による薄膜手法と、統計学の計算手法であるベイズ最適化と呼ばれるインフォマティクス手法を併用することで、10分の1の実験量でパラメータの最適値を導き出しました(S. Suzuki et al. Japanese Journal of Applied Physics 62, 117001 (2023))。
このプロセスを新たな材料探索のために活かしたいと考え、着目したのがハライドペロブスカイト半導体でした。光電変換率が高く、太陽電池や発光素子といった半導体としての応用が期待されている材料です。吸収効率の高いとされるハライドペロブスカイトは鉛とセシウムからなる材料で、中でもCsPbBr3は日本国内でも入手しやすいことから、多くの研究機関が注力している材料です。しかし、薄膜原料純度が低いことや薄膜結晶の結晶性が低いことが課題となっています。そこで本研究で、イオン液体を組み合わせた真空プロセスでハライドペロブスカイトのCsPbBr3薄膜を作製し、高純度化と高結晶化を目指します。通常、真空中の液体は低温で蒸発してしまうのですが、イオン液体は100℃まで蒸発しないという特長があります。真空下で安定的に存在するイオン液体を薄膜成長に利用することにより、薄膜作製プロセス上の課題を解決することができ、従来にはない新機能を発揮するハライドペロブスカイト単結晶薄膜の創製につながるものと考えています。
―採用されたポイントは何だと思われますか。
イオン液体を介した薄膜プロセス技術の開発、プラス機械学習を用いたベイズ最適化というインフォマティクス手法によるプロセス開発を行う点がこの研究の特長であり、評価のポイントになったと思います。共同で研究を進めている生命応用化学専攻の加藤隆二教授が開発したマイクロ波を用いた光伝導度測定(TRMC測定)もユニークな評価方法で、独創性の高い研究と言えるでしょう。さらに太陽電池などの新しい発光デバイスの材料開発につながることが、この研究のメリットとして捉えられているのではないでしょうか。
―どんなところに研究の魅力を感じますか。
どうなるのか先がわからないものを追究していくことに面白さを感じます。実際に計画通りに行かないことも多々ありますが、そこも研究の妙味。本研究で生成した薄膜材料も、上手くいくまで100サンプルほどつくりました。CsPbBr3のみを析出して薄膜をつくるのは容易ではなく苦労しました。実験が成功する鍵は“運”もあります。運を引き寄せるためにも、最後まで諦めずに粘り強く実験データと向き合うことが重要なのだと学びました。研究を通して、忍耐力や継続力が身につくことも魅力と言えるかもしれません。また、他分野の研究者の方々と議論する機会もあり、様々な考え方を学ぶことで自分自身の成長にもつながります。
―今後の目標をお聞かせください。
これまでに構築した機械学習によるベイズ最適化プロセスを使って、イオン液体を介した高純度化・高結晶化の成膜技術の確立を目指します。それにより、ハライドペロブスカイトの機能を最大限に活かした新しい発光デバイスの開発につなげていきたいと考えています。
将来は、自分が携わった研究の成果が社会に実装されるところを見てみたいという思いがあり、企業への就職を考えています。研究者として、より幅広く最先端の研究に従事し、様々な研究者の方々の思考や技術を学ぶとともにマネジメント力も身につけたい。そして、研究や人材育成を通して社会に貢献していくことが大きな目標です。
―ありがとうございました。今後益々活躍されることを期待しています。
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