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建築学科専攻1年の田端萌美さんが『JIA東北学生卒業設計コンクール2024』で最優秀賞を受賞しました

新たな地域産業の展開から町の賑わいを創出する建築が
高く評価される

 『JIA東北学生卒業設計コンクール2024(公益社団法人日本建築家協会東北支部主催)』の審査会が2月20日(火)に行われ、建築学専攻博士前期課程1年(当時建築学科4年)の田端萌美さん(建築計画研究室/指導教員:浦部智義教授)の作品『眠る資産、再び芽吹く-辺縁を使い切る-』が最優秀賞を受賞しました。審査会は、Zoomを使って画面を共有しながら発表8分、質疑応答7分、計15分のプレゼンテーションによって行われました。各大学・高等専門学校の代表として選出された卒業設計11作品の中から、JIA各県地域会代表6名、東北支部支部長1名、計7名の審査員がひとり3票の持ち票を投票して、得票数の多い3作品が優秀賞以上に決定。この結果、最優秀賞に輝いた田端さんの作品は、6月29日(土)に行われる『JIA全国学生卒業設計コンクール2024』の東北支部選考作品として選出されることが決まりました。本学部から11年連続の全国大会出展となります。
 田端さんに受賞の喜びと作品について詳しくお話を聞きました。

―最優秀賞受賞おめでとうございます。感想をお聞かせください。

 満票で最優秀賞を受賞できたことを大変光栄に思います。当日はオンラインでの発表だったため、審査会場の雰囲気や反応が掴めず不安でした。原稿を用意していたのですが、私の前に発表された方がとてもプレゼンテーションが上手で、それがプレッシャーになり焦ってしまい、思うように伝えることができませんでした。審査員の方々の反応も薄かったので、これはダメだなと思っていたところ、投票の際にはたくさんの票が入り、驚きとともに嬉しさで胸が一杯になりました。卒業設計展後、コンクール出展に向けご指導いただいた浦部先生、模型づくりに協力してくれた研究室の仲間には大変感謝しております。

―作品について詳しく説明いただけますか。

 卒業設計は、私の出身地栃木県を題材にしたいと考えていました。敷地に選んだ宇都宮市大谷町は、かつて大谷石の採石、加工、運搬を行う採石産業で栄えていましたが、コンクリートなどの新建材の台頭により大谷石の需要が無くなり、さらに落盤事故が起因となって、昭和をピークに産業は衰退。採石業者も減り、過疎化が進んで空き家や廃屋が増え、旅館なども廃業し、現在は、閑散としたまちになってしまいました。まちを活性化するためにはどうすればよいか、その課題に対して何か新たな提案ができないかと考えた時に、近年、新しい農法として実験的に行われている「半地下農業」に着目しました。

 大谷石の採石跡地地下に溜まっている雨水を地上に汲み上げて冷熱エネルギーに変換し、農業ハウス内を冷やす栽培方法で、真夏でもエアコンを使わずにイチゴを栽培することができます。大谷石の特性である保水性を利用して気化冷却と輻射式冷房を用いた農法で、半地下にすることで外からの熱を遮り、内部の地下空間温度を保ちつつ、程よく太陽光を取り入れている農業ハウス。地元のエネルギーで地元の素材をつくる、その手法に魅かれ、半地下農業を活用した今までにない提案をしたいと考えました。

 農業ハウスをどのようにしてまちの風景に落とし込み、かつ人をどう呼び込むかが大きなポイントでした。農業体験や栽培したイチゴの加工販売までを取り入れて、道の駅のような人が集まるシンボリックな場所になることを目指しました。
 昨今、大谷石の採掘場跡につくられた大谷資料館は観光地として集客はありましたが、そこから先の道はまだまだ賑わいを取り戻せていないのが現状です。そこで、使われなくなった廃屋や旅館などを再編集し、観光地、住宅街から半地下農業へ人々を誘導する新たな歩行路を提案することで、農業従事者、石工職人、住民、来訪者のネットワークを構築しました。メイン施設となる耕作放棄地に新設した『半地下農業施設』には、大谷石蔵の育苗室や農業体験者のための多目的棟のほか、飲食スペースやハウスとハウスの間にアーケードを設けるなど、一般の利用者が農業空間に入り込めるような仕掛けも施しています。

 メインの建物だけで人を呼び込むことは難しいと考えて、分棟も設置しました。石切り跡地に立つ3 階建ての元旅館を改修した『地域情報センター』、耕作放棄地にある標識柱のみとなったバス停に新設した『トゥクトゥク乗車場と東屋(休憩所)』、大谷石貼りの外壁の平屋の空き家を改修して工場跡地に農業体験者が宿泊できるように新設した『宿泊施設と石工工房』、元住宅だった既存の大谷石蔵を改修した『設計事務所』の4つの施設を提案。それぞれの施設には、まちの資源を利活用し課題解決につながる機能を付加しています。また、建物の高さを低くし、大谷石の美しい山の景観を損ねないように設計しました。街道と平行する新しい歩行路が建物同士をつなぎ、人の流れをつくるストーリーを描いているところが、この提案の大きな特徴になっています。

―どんなところが評価されたと思われますか。

 廃れゆく地域の資源を利活用し、半地下農法という新しい産業をはめ込む計画が面白く、メインの半地下農業施設は外観や内部空間も魅力的に出来ているという講評をいただきした。他の4施設の提案についても好印象だったようで、各施設を繋ぐトゥクトゥクにより点が線に昇華していくストーリー性や地域の修景をしていく点も評価されました。また、他の作品と比べて模型のインパクトはあったと思います。卒業設計展の時にはメインの半地下農業施設の模型しかなかったのですが、その後、研究室の仲間に手伝ってもらい、他の施設の模型もつくることができました。そのおかげで受賞できたと思っています。



―夢や目標はありますか。

 いろいろやりたいことがたくさんあって、大学院での日々は充実しているなと実感しているところです。当面の目標は、二級建築士の資格を取ること。現在、7月にある学科の試験に向けて勉強に励んでいます。学外コンペにも積極的に挑戦していきたいです。また、大学院に進学すると決めた時からの目標でもありますが、組織設計事務所や大規模な施設を手掛ける設計事務所への就職を目指しています。将来は、地域の人々に寄り添った建物をつくりたいと考えています。

―全国大会に向けての意気込みをお聞かせください。

 まだまだ改善の余地はあるのでブラッシュアップしながら、東北大会で学んだ表現方法にも磨きをかけて臨みたいと思います。全国各地から精鋭が集まってくるので、緊張感はありますが楽しみでもあります。なんとか賞に結びつくような結果を残せるように頑張ります。

―ありがとうございました。全国大会での活躍を期待しています。

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