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「第21回 主張する『みせ』学生デザインコンペ」において、建築学科の学生が入賞しました。

2040年問題の解決に向けた建築からのアプローチ
コンペを通して学んだことが更なる成長につながっていく

写真左から中田大翔さん、中島大翔さん、塚田響さん、松本一馬さん

 この度、公益社団法人 商業施設技術団体連合会が主催する「第21回 主張する『みせ』学生デザインコンペ」において、建築学科4年(当時3年)の中島大翔さん、塚田響さん、中田大翔さんの作品『Revival Market』、松本一馬さんの作品『笑顔に壁がお辞儀して』が入賞しました。このコンペは、商業施設等の設計・デザインを目指す次世代を担う学生を対象に、全国の大学院、大学、専門学校から「商い」の建築デザインを募集している大規模なコンテストです。今年度は426点の応募作品があった中で、最優秀賞 1点、優秀賞 4点、入賞 10点、奨励賞 27点が選ばれました。4人に受賞の喜びと作品について詳しくお話を聞きました。

『Revival Market』:中島 大翔さん、塚田 響さん、中田 大翔さん

 今まで参加したことのないコンペに挑戦してみたいと思った時に、先生から勧められたのがこのコンペでした。デザインコンペなら図面や模型そのものの提出がなく、課題とは違った表現ができるというのが決め手になりました。コンペを決めたのが夏休み頃で、就活も始まり互いに情報共有しやすくなると思ったのも理由のひとつです。

 「主張する『みせ』」は毎年テーマが出されるのですが、今回は特に何もありませんでした。しかし、告知のチラシをよく見てみると、背景に『2040』の文字が入っていることに気づき、これが、さりげなく求められているテーマではないかと思い2040年問題に着目しました。2040年問題に対し建築ができることは何だろうと考え、私たちは空き家問題をコンセプトにデザインを構築していきました。現在でも、地方の空き家は大きな問題となっていますが、空き家を単に解体するにもお金がかかります。そこで機能の異なる既存の空き家を積層し集合体として一ヶ所にまとめることで、交流の場にすることを提案しました。積層する際に生まれる建物の高低差を活かして、独自のコラージュ商業施設を形成。一概に空き家問題と言っても、地域によって状況が違うので、地域ごとの特有性を考慮することで、それぞれ異なる商業施設になると考えました。さらに、積層することで自分たちの地域に空き家がどれくらいあるか可視化され、そこに住む人たちが危機感を持ち自ら地域活性につなげていく狙いもあります。空き家の用途についても待機児童の問題や高齢者の働く場などにも目を向け、一つひとつの問題に当てはめて提案しました。

 過去の受賞作品や審査員についてレビューしたり、2040年問題について調べたり、普段の授業の課題とは全く違うアプローチで進めていきました。どこまで現実味を持たせるか試行錯誤はありましたが、このコンペでは、プレゼンボードのみでの勝負になるため、デザインのインパクトを重視。ダイヤグラムとコンセプトを汲み上げて(中島さん・塚田さん担当)、パースは3DCGソフト「Blender(ブレンダー)」を使って(中田さん担当)、約1か月で作り上げました。結果のメールが12月25日のクリスマスの朝だったということもあり、贈り物が届いたようなハッピーな気持ちになりました。初めてのコンペで入賞できたことに大変満足しています。

 講評はありませんでしたが、評価されたのは3Dでつくったデザインのインパクトはもちろん、2040年問題のテーマに添った内容で機能も練られている部分ではないかと思います。個々で取り組む授業の課題とは違い、グループでの協同作業はコンセンサスを取るのが難しくもありましたが、コミュニケーションの取り方を学び、グループで作業を進める際のワークフローもパターン化できたので、次にグループワークを進める時に役立つと思います。建物のことがベースだけれど、それだけの知識では、提案性のある建築はつくれない。2040年問題といったその時代の社会状況も重要な要素。そういったことを知れたのは大きな収穫でした。今後の設計にも活かせると思います。デザインの配色などプレゼンボードの見せ方も他の作品から学ぶ点が多々ありました。この経験を糧に、別のコンペにも挑戦したいと思います。

『笑顔に壁がお辞儀して』:松本一馬さん

 3年前期の課題作品が講評会に選ばれたのですが、それが外部への出展作品に選出されず、不完全燃焼で終わったので、その作品をモチーフにコンペに応募しようと考えました。もともとは好きなアーティストを用いた美術館・図書館を設計する課題で、私はバンクシーを選び、敷地は福島県双葉町にしました。

 ここでは、壁画アートで復興を後押しする『FUTABA Art District』というプロジェクトが展開されていることから、壁画アートと関連のあるバンクシーの建物をつくることを思い付いたのです。課題では、壁式構造にして駅からの道と復興の道をつなぐような建築を提案しました。その発想を活かして、本コンペでも壁を用いた建築を設計しました。高度成長期に建てられた建物が現在空き家になっている状況を鑑みて、このような壁だけが建っている建築が有効的ではないかという考えもありました。建築にとって、なくてはならない壁。雨風を凌ぎ、鳥獣の侵入を防ぎ、時には人と人との隔たりでもあると同時に、囲まれている安心感を与える役割を担っています。

 そんな安心感のある建築をつくりたいと思い、「笑顔に壁がお辞儀して」というタイトルにしました。人に対しお辞儀をしているような壁の上部には、庇の役割を持たせつつ、トンネルをくぐってみたくなる人の心理にも働きかけています。明るい空間だけでなく、薄暗い空間も人が寄り付きやすくなるものです。あえて高層化せず、畑で野菜をつくる1次産業、収穫した野菜を加工する2次産業、加工品を販売する店舗や宿泊施設を設けた3次産業をつなげた6次産業化を目指して設計しました。2040年問題である労働力不足や少子高齢化を解決するために、高齢者も自身の経験を活かせる、人々の居場所となる「みせ」を提案。子どもたちにいろいろなものに興味を持ってもらい、高齢者の知識や経験を子どもたちに継承していく場にしたいと考えました。壁が連続した建築物であるため、老朽化や景色の変化に対応する際も壁を増減するだけで多様な空間が生まれます。天井高の違いから空間の広さによってコミュニティを形成したり、壁をずらすことで生まれる休憩や遊びの場にはアイストップやボイドといった技法も組み入れました。

 提案や表現が、ある程度自由にできるコンペに参加したことで、逆に制限や条件がある建築について理解する機会になりました。また、表彰式の会場で審査員の方や最優秀賞受賞者など、建築以外のインテリアや都市デザイン分野の方の話が聞けて、視野が広がりました。大学での学びは魅力的ですが、少し建築に対する考えが凝り固まっていたので、柔軟かつ多角的に見れるようになったのは成長した点だと思います。前期課題で不完全燃焼であった点を何とかして区切りをつけたいと思って臨んだので、400点以上の作品の中から選ばれたのは大変嬉しかったです。6次産業化や、廃材を使うなど、単に壁を並べただけでなく、建築にとって欠かせないパーツである「壁」に意味を持たせた点が評価されたのではないでしょうか。

 昔からコミュニティが生まれる可能性が高いのは現代でもグラウンドライン、つまり平面上で自然に発生する確率が高いことはあまり変わっていない様にも思います。そうした意図も汲み取っていただけたのではないかと推察しています。しかし、ここはあくまで通過点。今回の経験を活かして、次は入賞ではなく最優秀賞を目指し、もっと自分自身が成長したと思える作品をつくれるように頑張りたいと思います。

第 21 回主張する「みせ」学生デザインコンペの結果はこちら