骨粗鬆症の治療に役立つ高分子ナノ粒子の研究開発が高く評価される
11月9日(木)、10日(金)に2023年度高分子学会東北支部研究発表会(主催:公益社団法人高分子学会東北支部)が開催され、生命応用化学専攻博士前期課程2年の山本真大さんが若手優秀発表賞を受賞しました。本会は毎年、東北地区の高分子科学に関わる研究者、技術者、学生の意見交換の場として開催され、特に優れた研究発表を選出し、その発表者を表彰しています。生体材料工学研究室(指導教員:石原務教授)では、既存の薬物に加工や修飾を施すことでその治療効果を向上させる技術であるDDS(Drug Delivery System)の研究に取り組んでおり、骨腫瘍や骨粗鬆症といった骨疾患に対して、よりよく薬を届けるための薬物キャリアの開発を行っています。山本さんが発表した『骨を標的としたビスホスホネート封入高分子ナノ粒子の開発』は、関節リウマチをターゲットに、骨粗鬆症の治療を目指した研究です。
山本さんに受賞の喜びと研究について詳しくお話を聞きました。
―若手優秀発表賞受賞おめでとうございます。感想をお聞かせください。
これまでポスター発表は何度か経験していましたが、学会での口頭発表は初めてでした。それなりに緊張はしていたと思いますが、しっかり発表練習をしていたので、当日は自信を持って臨むことができました。大学院2年間で積み重ねてきた実験の集大成を発表したので、それが評価されたことを大変嬉しく思うとともに、研究活動が充実していたことを実感しました。6年間の学生生活を通して、ご指導いただいた石原先生はもとより、根本修克学部長先生に相談にのっていただいたり、多くの先生方に大変お世話になりました。改めて深く感謝しております。
―研究について詳しく説明いただけますか。
本研究では、関節リウマチに伴う傍関節性骨粗鬆症の治療を目指しています。自己免疫疾患の一種である関節リウマチは、関節内の滑膜と呼ばれる組織の慢性的な炎症により、腫れや痛み、こわばり、変形などが現れる病気です。症状が進むと、炎症性サイトカインが破骨細胞を活性化し骨や軟骨の破壊を招き、関節近傍の骨密度が低下した傍関節性骨粗鬆症を併発する恐れがあります。骨粗鬆症を治すために必要なのは、破骨細胞の活性化を抑えることです。ビスホスホネートという製剤は骨に結合しやすい性質を持ち、破骨細胞のアポトーシスを誘導する薬物で、骨粗鬆症や悪性腫瘍による高カルシウム血症などに臨床応用されています。
しかし、全身の骨に拡散してしまい、炎症組織への集積性が低い点が課題として挙げられます。本研究室では、これまでに炎症部位への集積性が高いポリ乳酸(PLA)からなる高分子ナノ粒子を薬物キャリアとして作製しています。そこで、炎症組織近傍の骨にビスホスホネートを運搬できる高分子ナノ粒子の開発に取り組みました。本研究では、ナノ粒子表面への骨特異的リガンドの修飾法の確立、骨特異的リガンドのスクリーニング、リセドロン酸(RIS)のナノ粒子への封入と放出をポイントに研究を進めていますが、今回は重要となるリセドロン酸を封入したナノ粒子の作製方法に注力して発表しました。
薬物を封入した上で適切な大きさになるようナノ粒子を設計するのは容易なことではありません。試行錯誤しながら、どのような条件でデザインすればよいかを導き出し、実際に設計したナノ粒子を使って放出試験を行いました。骨に結合した後、薬物を放出できるかが重要な鍵になります。薬物が放出しやすくするために、生体内に近い液体を作製し、ナノ粒子に添加します。さらに生体の温度に近い37℃で温めながら、毎日サンプルを取ってHPLC(高速液体クロマトグラフィー)という機械で薬物の濃度を測り、どれだけ放出されたかを分析しました。10日間のデータをみると日数が経つにつれ、薬物が放出していることがわかり、デザインしたナノ粒子の有効性を示すことができました。
研究のテーマである骨に結合しやすいこと、薬物をナノ粒子に封入することをクリアしたので、現在は破骨細胞にリセドロン酸を封入したナノ粒子を添加して、細胞がどれだけ死滅するかという実験を行っているところです。
―どのような点が評価されたと思いますか。
この研究はどちらかと言えば薬学に近い分野になるので、高分子学会の方々に理解していただけるかという不安はありました。どういう話し方をしたら上手く伝わるか、発表の仕方を考え、原稿ではなく聴衆の方を見ながら話すようにしました。的確に答えられない質問もありましたが、想定していた質問にはしっかりと答えられたことなど、発表全体を通してコミュニケーションの高さが評価されたのではないかと思っています。また、賞につながったということは、ナノ粒子の調製方法の独創性にも着目していただけたのではないでしょうか。
―化学の魅力を教えてください。
突き詰めれば突き詰めるほどいろいろな結果が出てくるというところに面白さがあります。科学の事象を追究するため、やはり結果が出ないことの方が多いのですが、その中でも自分の努力次第で予想以上の結果が出た時は、大変嬉しいものです。そこが魅力だと思います。私自身、好奇心旺盛で、その性格が化学に向いていたのかもしれません。
―今後の目標をお聞かせください。
製薬会社に就職するので、薬が必要な患者さんやお客様の生活に関わっていく中で、より多くの人たちの健康や生活を支えられるような人になりたいと思います。生命応用化学科に進んだのも薬をつくりたいという思いからで、その夢が叶ったいま、将来に向けて益々意欲も高まっています。
―ありがとうございます。卒業後も社会で活躍されることを祈念しています。
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