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建築学専攻2年の吉澤伊代さんが日本インテリア学会第35回大会で学生優秀発表賞を受賞しました

開かれた庁舎の見地から半屋外空間の可能性を探った研究が高く評価される

 10月28日(土)・29日(日)に行われた令和5年度日本インテリア学会第35回大会(東海)において、建築学専攻博士前期課程2年の吉澤伊代さん(住環境計画研究室/指導教員:市岡綾子専任講師)が学生優秀発表賞を受賞しました。吉澤さんは昨年度も本大会において学生発表奨励賞に選ばれており、2年連続での受賞は快挙と言えます。発表した『開かれた庁舎建築に関する研究 -半屋外空間の変容 -』は、開かれた庁舎の見地から半屋外空間の可能性を探ったもので、動線に着目した類型化に基づき、該当空間が担う機能を年代別に独自の手法で分析した点が高く評価されました。
 吉澤さんの喜びの声とともに研究について詳しくお話を聞きました。

―学生優秀発表賞受賞おめでとうございます。感想をお聞かせください。

 昨年はオンラインでしたが、今回は対面での発表でしたので、刺激的で大変勉強になりました。発表終了後も、他大学の先生方と直接お話することができ、今後の研究のヒントになるようなアドバイスもいただけて、学会に参加して良かったと思いました。更に、このような賞までいただき大変光栄に存じます。表彰式も発表当日にありましたが、受賞者を発表する際、一番に呼ばれたことも嬉しかったです。研究テーマの設定から分析の方向性に至るまでご指導いただきました市岡先生にも深く感謝しております。

―研究について詳しく説明いただけますか。

 昨年までの研究では、東日本大震災以降に新築された福島県内の庁舎を対象に、市民スペースの設えに着目して「開かれた庁舎」の在り方を探ってきました。調査・分析を行った結果、設えの種類や配置によって、市民スペースがより快適な空間になる可能性があるという結論に辿り着きました。その研究の中で、三春町役場の多目的スペースが、ガラス張りの開口部を開放することで隣接するピロティと繋がることに関心を持ちました。庁舎内に留まらず、市民スペースから隣接する半屋外の中間領域を使えば、開かれた庁舎により有効的なのではと考えました。

 そこで本研究では全国に視野を広げ、文献調査を基に庁舎の半屋外空間の変容について探りました。調査方法は、日本の建築専門月刊誌『新建築』に1975年から2022年までに掲載された本庁舎の新築と庁舎への用途変更事例を対象に107事例を抽出。20世紀52事例、21世紀55事例を、半屋外空間への動線の特徴から独自に大きく4つに分類し分析を行いました。

 図Ⅰに示すような玄関口に部分的に存在する部分/点在型は20世紀に多く見られましたが、21世紀に入るにつれてⅢの囲われ型が多くなり、特にⅢbの建物の全周に屋根下空間が連続するタイプが顕著に見られました。このことから、雨除けや車寄せのための半屋外空間に留まっていたものが、より市民の利便性やアクセスのしやすさを意識し、動線を確保した囲われ型に変化していったのではないかと推察しました。

 次に、着目したのが半屋外空間を構成する部材です。キャノピーや庇、大屋根など、雑誌に書かれている名称を基に抽出しました。ピロティ・キャノピー・軒・庇は同じ部類ではありますが、軒や庇は連続的に長さを取って設計しているものが多かったので、本研究では短めのキャノピーとは区別しています。20世紀は西洋の影響を受けて車寄せのためのピロティが多く見られましたが、21世紀には軒・庇が増えていることから、日本の伝統的な建築要素の有用性が見直されているのではないかと考えました。Ⅲbの事例から軒や庇の屋根下空間がどう使われているのかを見ると、人が庁舎にアプローチするための回廊や、活動が可能な空間として使われていました。

 また、21世紀は大屋根が増えているのですが、半屋外空間が広場やテラスなどの憩いの場・活動の場として確保されていることが、この変化から読み取れました。特に一番面積を取る大屋根による屋根下空間の面積が、著しく増えている傾向から、半屋外空間は開かれた庁舎を目指す上で必要な要素として意識されたのではないかと考えられます。

 更に、庁舎と屋根下空間の設置面の長さと屋根下空間の面積を計測してみると、ともに21世紀に増大していました。この結果からも半屋外空間を積極的に確保する傾向が見られます。庁舎に囲まれるⅣの一体型の半屋外空間が増加していることも、その傾向を示しています。屋根下のデザイン一つを取ってみても、建築の移り変わりが見られ大変面白く感じました。日本建築の要素を変容して上手く使っていくことは、日本人には馴染みやすく、開かれた庁舎を目指すための重要な一つの要素になると思いました。このような庇や軒の多様化に魅力を感じています。

―どのような点が評価されたと思われますか。

 107の事例を細かく分析した結果を一覧表にまとめた資料を梗概に示したのですが、一つ一つ丁寧に分析した結果が評価につながったのではないかと思います。分類の仕方も空間構成だけでなく、アプローチ動線も併せて考えたもので、独創性もポイントになっているかもしれません。

 発表の際には、研究室の後輩が協力して作成した図面を使用し、事例を交えながら各類型を丁寧に説明できたことも研究内容を理解していただけたことにつながったと思います。一緒に作業を行った研究室の皆さんは大変心強く、感謝しています。発表後の質疑応答では、違う視点での分析方法についてアドバイスやご意見もいただき、大変参考になりました。その中で、1975年から2022年までの事例を見て、屋根下空間の変遷という点に関して、今後更に一つ一つ丁寧に見て分析したいと思っています。

-今後の目標についてお聞かせください。

 これまでの研究成果を論文にまとめることが最大の目標になります。今回の学会終了後に、質疑応答の内容も踏まえて市岡先生から今後の研究に対する視点をご教授いただけたため、多角的な視点でさらに研究成果をまとめられるよう尽力したいです。研究活動やフィールドワークを通して、そうした建築の奥深さを体感できたのは、私にとって大きな収穫です。建築は人が生活していく中で、ほぼ毎日関わっていくものであり、そういう大切な建築について学ぶことができ、とても楽しく充実した6年間でした。庁舎の研究を進めていく中で行政の仕事に魅力を感じ、公務員を目指すきっかけにもなりました。建築の役割を考えながら、地域の役に立ちたいという想いが叶い、大学院修了後は地元の神奈川県庁への就職も決まりました。地域に暮らす人々が、ここに住んで良かったと思えるようなまちづくりや公共施設の整備に携わり、研究で培った知識を活かして貢献できたらと思っています。

-ありがとうございました。今後益々活躍されますことを祈念しています。

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