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第27回JIA東北建築学生賞で建築学科4年の田端萌美さんが最優秀賞、同3年の三瓶夏蓮さんが特別賞を受賞しました

将来の可能性を期待させる2つの作品が
審査会で高い評価を受ける

田端萌美さん

三瓶夏蓮さん

 10月20日(金)に宮城県仙台市にある「せんだいメディアテーク」(1階オープンスクエア)において、第27回JIA東北建築学生賞審査会が開催され、厳選な審査により建築学科4年の田端萌美さん(建築計画研究室/指導教員:浦部智義教授)の作品『園路が紡ぐ人と文化』が最優秀賞、同3年の三瓶夏蓮さんの作品『想像のマチ』が特別賞を受賞しました。同4年の松田啓稔さん(建築計画研究室/指導教員:浦部智義教授)の作品は惜しくも入賞を逃しましたが、それぞれ個性溢れる作品でした。なお3名の作品は3・4年生前学期の建築設計演習の授業から学内選考により選出されたものです。

 本審査会には12校(10大学、1大学校、1高専)13学科から37作品の応募があり、壇上において公開ヒアリングの後、「コンセプトの導き方」「社会性・歴史性」「空間性・造形力」「表現力・対話力」などを軸に審査され、審査員の投票によって各賞が決定されました。受賞した作品は今後の可能性を期待させる大きな成果となりました。
 今回出展した3名に作品への思いを語っていただきました。

最優秀賞『園路が紡ぐ人と文化』

建築学科4年 田端萌美さん(建築計画研究室)

 本課題は「自然に足が向く、人が集う滞在型の建築」でした。その課題に沿うものは何かを考えた時に浮かんだ場所が「駅」でした。駅は生活の足となる電車の発着点であり人々の往来があります。また自分の経験からも待ち時間に目的もなく駅前の商業施設に足を運ぶなど、本課題と合致したものでした。現在、人口の減少や過疎化による地域の衰退が進んでいますが、ライフスタイルの変化で地方への関心が高まっています。そこで栃木県那須烏山市にあるJR烏山線の終着駅の烏山駅周辺をモデル地に設定しました。烏山市は和紙や酒づくりなどの伝統的な産業、山あげ祭に代表される文化も息づく地域資源が豊かな地域ですが、若者の人口減少や少子高齢化が進み、その文化が存続できるか懸念されています。そこで立案したのが駅を中心とした地域活性化と、産業や文化を持続させる施設の計画・設計でした。

 具体的には駅に沿った駅舎棟に貸出オフィスやライブラリー、飲食店などを置き、人が集まる場所を確保しました。また駅舎と駅前広場を受け止める棟には、市外からの人を受け入れられる宿泊施設を設け、駅前に人を留める仕掛けを施しました。さらに駅前にクラフト体験やギャラリーを備え、適度に開かれた和紙工房を配置することで伝統文化に親しむことができる拠点としました。

 隣接する住宅地から駅前へ緩やかにつながる導線を敷いています。駅前を囲む様に配置したそれらの施設を、庭園や広場と一体となった園路で柔らかくつなげることで、住民も来訪者も散歩感覚で施設に入り込める設計にしました。移動空間も軒下の通りや道幅の変化、曲線や建物の高低差による奥行の演出、駅反対側とのつながりなど、人々の往来や賑わいの創出を考えたものでした。

 今回の受賞は驚きと嬉しさ、建築の奥深さを実感したものでした。また、今回のコンクールの出展に当たりご指導いただいた浦部智義教授はじめ、学友の協力があってこそのものだと思っています。将来は設計や建設の観点から地域を活性化させる仕事に携わりたいと考えています。これからは様々な地域や人、文化に触れながら、知見を広げていきたいと思います。

特別賞『想像のマチ-AIと未来とドラえもん-』

建築学科3年 三瓶夏蓮さん

 課題は、自分にとって最も関心が高い芸術家の業績を記念する施設の設計でした。芸術家は設計者が決め、記念館を柔軟に解釈することが求められ、自由度が高い分、設定の難易度も高かったと感じました。芸術家は国民的アニメ「ドラえもん」の生みの親である藤子・F・不二雄氏を選びました。施設も記念美術館をメインに、ドラえもんの世界観を表現した「想像のマチ」を設計しました。

 ではドラえもんの世界観とは?まず浮かんだのが「AI」。ドラえもん自体、未来からやってきた人工知能を持つ猫型ロボットであり、登場するひみつ道具もまた未来の世界で使われているもので、設計にも取り入れたいと考えました。この世界観を表現できる場所は郡山市中心部の文教地区に近い荒池公園が理想だと思いました。実際に歩いてみて公園の近くには現実を感じさせる住宅街や未来へと続くような道もあり、まさにぴったりの場所でした。

 まず、荒池公園の中心に荒池に向かって道を走らせ、進むほどに建物のボリュームを大きくすることで、自分が小さくなっていく錯覚を起こさせるような仕掛けを施しました。これはドラえもんのひみつ道具である「ガリバートンネル」をモチーフにしたもので「ガリバートンネルの道」と名づけました。さらに住宅街から公園を縦断する柳の緑道は、過去や未来、時空を行き来する「タイムマシン」モチーフにしています。この道は柳が風に揺れる様や木もれ陽、さらに高さの異なる糸や布、照明を渡らせ時間の流れを感じる、まさに「タイムマシンの道」です。道の周辺にドラえもんの内部構造やひみつ道具の使い方を体験しながら学ぶ「体験型展示室」や、新しいひみつ道具を考えたり、実際に作るワークショップが開催できる「想像を育てるワークショップ室」を配置し、公園全体にドラえもんの世界観を散りばめています。この作品は、ドラえもんの世界観をモチーフにした建築と周辺の住宅街がボーダレスに繋がることで、AIを身近に感じながら進化に対する負のイメージや考え方を見直すことを提案しています。

 今回の入賞は、現実的な問題と対極の発想が評価されてのものだと思っています。将来的なことはまだ考えていませんが、これを機に枠にとらわれない自由な設計ができるように学んでいこうと思います。

作品『路地で繋ぐ宿坊-記憶を引き継ぐリノベーション-』

建築学科4年 松田啓稔さん(建築計画研究室)

 「福島を変える建築」という課題の下、東日本大震災で多大な被害があった浪江町の住宅街をモデルに「記憶を引き継ぐリノベーション」をカタチにしました。選定敷地は浪江町の住宅街で、現在は福島第一原子力発電所事故による全町避難の影響で空き家や空き地なっています。もともとは住民の営みや人々の交流など地区や地域、街の記憶を残す場所です。そこで敷地内に残る空き家の改修と空き地になってしまった場所に建物群を再現し、記憶を引き継ぐ住宅地を提案しました。

 現地や周辺地域のフィールドワークで、復旧が進んでいる道路や施設があるものの、窓ガラスが割れ壁の一部が剥がれ落ちている住宅や建物が取り壊され空き地となっている土地を目の当たりにし、復興はまだ先のことだと感じました。しかし現実をみたことで当時の賑わいや住民の生活感を想像することができ、さらに移住してくる新しい住民に何が必要か考えることができました。制作のポイントはこれまでの記憶を引き継ぎ、新しい営みをリノベーションすることでした。選定した敷地には現在4つの空き家が残されていますが、震災以前の資料では建物や道路もあったことが確認できました。これだけで人の行き交う様子や車の往来があったことが想像できます。

 そこで古くは江戸や京都などでは道としての機能はもちろん、人々のコミュニケーションの場として大切にされた「路地」に着目しました。敷地内に路地を作ることで人の流れを促し、その先に一休みできる広場やカフェなどを設け、憩いやコミュニケーションが生まれる仕組みを考えました。また浪江町を訪れたサラリーマンや二拠点で仕事をする人との交流の架け橋としてコワーキングスペースを設置し、町外の人と接する機会の増加を図りました。そして現代では珍しくなった銭湯を設け、古き良き交流を復活させる願いを込めました。

 今回の制作で目指したのは、空き家や空き地という点が結びつくことで、無限に広がる環ができるということでした。将来は文化や伝統、風習などの記憶を引き継げる町づくりに携わっていきたいと思います。

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