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生命応用化学専攻博士前期課程2年の渡部菜月さんが日本分析化学会第72年会で大阿蘇若手ポスター賞を受賞しました

健康や環境に悪影響を及ぼすマイクロプラスチック問題解決に向けた研究が高く評価される

 9月13日(水)から15日(金)に熊本城ホールで行われた、公益社団法人日本分析化学会第72年会において、生命応用化学専攻博士前期課程2年の渡部菜月さん(環境照射化学研究室/沼田靖教授)が大阿蘇若手ポスター賞を受賞しました。
 渡部さんがポスター講演で発表した題目は『加熱と光照射によるポリ塩化ビニルの塩素脱離反応と重合度変化』。この研究は、プラスチックの分解の反応機構を詳細に検討することにより再利用を促進することを目的としています。渡部さんはマイクロプラスチック問題に着目。プラスチックが熱と光によって分解の仕方が異なることを見出し、その構造変化の解明に取り組んでいます。

 渡部さんに受賞の喜びと研究について詳しくお話を聞きました。

―大阿蘇若手ポスター賞受賞おめでとうございます。感想をお聞かせください。

 日本分析化学会主催の学会に参加するのは3回目でしたが、賞をいただくのは初めてのことでしたので大変驚きました。学部4年生から取り組んできた研究でしたので、終盤に差し掛かっていますが、評価されたことを大変嬉しく思います。前日の夜まで発表練習した甲斐がありました。また、本研究では様々な装置を使って測定したデータの分析を行ったため、当研究室の沼田先生だけでなく、有機材料化学研究室の根本先生や市川先生にもご指導いただきました。そのおかげでこうして受賞に結び付いたものと深く感謝しております。

―研究について詳しく説明いただけますか。

 近年、マイクロプラスチック問題が注目されています。マイクロプラスチックは非常に細かいため、自然界から回収することはほとんど困難で、分解されないまま残り続けてしまいます。特に深刻なのが海の環境汚染で、世界の海には合計で1億5,000万トンのプラスチックごみが蓄積されていると言われています。プラスチックを回収し、燃やして固め、燃料にする方法はありますが、それよりもプラスチック自体に付加価値をつけることで廃棄されないようにし、結果マイクロプラスチックを減らしていきたいと考えたのが、この研究を始める発端でした。例えば、日常的に使われるおもちゃなどにはポリ塩化ビニルが使われています。このポリ塩化ビニルを効率よく分解して、再利用できるようにするためにはどうすればよいのか。まずは、ポリ塩化ビニルの構造について深く理解することが必要だと考えました。屋外で使われる洗濯挟みは長期間日光に当たっていると段々劣化していきますが、プラスチックが紫外線に対してどう変化していくのか、その仕組みを理解するところから進めていきました。

 これまでの研究から熱に対する変化については概ね明らかになっていますが、光照射に関してはどのように変化するのか詳しいことは明らかにされていません。そこで、様々な装置を使い、加熱と紫外線照射による分子構造変化を測定しました。主にラマン分光法を使って、分子の物性を評価しました。その他、有機材料化学研究室にある熱重量分析装置(TG)をお借りして、熱量によって重量がどう変化するかを調べたり、分子の大きさで分離させるサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)、構造解析や定量を行う赤外吸収分光法(FT-IR) を使って測定しました。どんな情報が欲しいかを考えて測定装置を選定し、データを得て分析を行うといったプロセスです。加熱した場合は桃色に、光を照射した場合は茶色に変化していたので、起こっている反応が違っていることは予測できました。加熱では、熱重量分析装置で質量の減少率を測定した結果、塩素の脱離反応が起きていることがわかりました。ポリ塩化ビニルは加熱して燃料にしたりすることが多いのですが、塩素はダイオキシンを発生させる原因物質であるため、かなりの高熱で分解しなければならず、エネルギーの観点からも熱効率の良い分解方法の検討が必要だと思われます。また、分子量は変わらないのですが、ラマン分光法で測定すると別の結合が起こっていることがわかりました。

 光照射に関しては、加熱とは違う反応が起こっていました。ポリマーとは、単量体(モノマー)が多数結合したものですが、光照射によってその結合が切れて分子量が減っていたのです。どのように結合が切れるのかはラマン分光法では確認できないため、サイズ排除クロマトグラフィーを用いて重合度の変化を分析しました。分子量が減っていることから、化学的な知見から見るとマイクロプラスチックになる要因としては光照射による影響が大きいと考えられます。ただし、重合度変化の場合、切断された部分の構造がどうなっているのかが判明していません。なぜポリマー中の結合が切れたのか、現在、分子の結合を見ることのできる別の装置で分析を行っているところです。

―どのような点が評価されたと思われますか。

 マイクロプラスチック問題への関心は高く、それを化学の視点からどう対処していくのかに注目が集まっているように感じました。そのうえで研究内容だけでなく、結果について自分自身が興味深いと思った点をアピールしたことが良かったのではないかと思います。ポスター聴講者から実験結果に関して不思議に感じたところを聞かれました。加熱と光照射で全く反応が異なる点や物性の変わり方が興味深いと感じてもらいました。特に分解されて分子量が小さくなっているのに溶けにくくなっていた点については、いろいろな方から考えを頂き参考になりました。また、たくさんの装置を使って検討していることも評価されたと思います。様々な測定データがあり、多方面から分析されていて面白かったと言ってくださる方もいました。研究室にはない装置を使って分析していたので、周りには相談できない状況で苦労したこともありました。特にTGやSECについては装置の構成やデータの見方など、原理から学ぶことが必要でした。どんな検出器を使っているのかと質問されることもありましたが、どういう理由でどの検出器を使ったかを的確に答えられたのは良かったと思います。

―なぜ、大学院に進まれたのですか。

 3年生までとは違い、4年生の卒業研究では自分で調べて実験を組み立てて実践することを経験しました。正解がない中、自分で道筋を立てて実践し、駄目だったら原因を探り再度トライしてみる。そういうものづくりに携わりたい、開発職に就きたいと思い、もっと研究のノウハウやアプローチの仕方を身につけるために大学院に進学しました。学会発表を通して研究内容についてわかりやすく伝えられるようになったのは成長の証だと思っております。就職活動でもそうでしたが、物怖じせず明確に伝える力は身についたと感じます。化学物質は使い方次第で人間にも環境にも悪影響を及ぼします。化学は生活をより豊かにするための学問であり、化学者には知識を正しく使うことが求められます。私はその化学の知識を正しく役立つように使いたいと思い、この道に進みました。実際に化学を学んでみて、しっかり知識を身につけることの大切さを実感しています。技術者として日々、恐怖心を持ちながら化学に向き合っていこうと思います。

―今後の目標をお聞かせください。

 福島県内の電子材料メーカーに就職が決まりました。地元福島から自分が携わった製品を世界に届けたいと思っていたので、その夢に一歩近づけたかなと思います。ここ福島で輝けるエンジニアを目指します。

―ありがとうございました。今後、益々活躍されることを期待しています。

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