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生命応用化学専攻博士前期課程1年の磯部虹希さんが化学工学会山形大会2023で学生奨励賞を受賞しました

CO2を分離・回収する技術に利用するための
イオン液体の吸収特性を解明する研究が評価される

 8月8日(火)・9日(水)に行われた、公益社団法人化学工学会山形大会2023において、生命応用化学専攻博士前期課程1年の磯部虹希さん(環境化学工学研究室/児玉大輔准教授)が学生奨励賞を受賞しました。
 磯部さんはエネルギー/基礎物性/分離セッションにおいて、『[N8881][TFSA]のCO2吸収特性と熱力学的評価』を発表。CO2吸収溶媒として注目されているイオン液体の中で、より吸収率を高める最適なイオン液体の合成に挑み、CO2溶解度の測定結果からその吸収特性と熱力学的評価を行ったものです。受賞者の多くを国公立大学の院生が占める中、見事奨励賞に選ばれました。

 磯部さんに受賞の喜びと研究について詳しくお話を聞きました。

―学生奨励賞受賞おめでとうございます。感想をお聞かせください。

 この研究は4年生の卒業研究の内容をベースに発展させたものだったので、これまで取り組んできた研究が評価されたことを大変嬉しく思います。口頭発表は初めてでしたが、1か月後に行われる秋季大会で発表する別のテーマと並行して進めていたため、十分に準備できたとは言えない中で、まさか賞をいただけるとは思ってもみませんでした。自分の名前がスクリーンに映し出された時は一瞬目を疑ったほどです。この大会ではディスカッションタイムが重要視されていたので、それに向けて質疑応答に対応できるよう児玉先生や上席研究員の横山先生、上席客員研究員の大場先生方からご指導いただいたおかげだと思います。試料を提供いただいた共同研究先の日本特殊化学工業株式会社の郡司様(環境化学工学研究室OG)にも深く感謝しております。

―研究について詳しく説明いただけますか。

 火力発電所などから大量に排出されるCO2を分離・回収する技術の一つとして、高圧下でCO2を吸収液に吸収させて分離する物理吸収法があります。現在、物理吸収液として使われている溶媒の一つにメタノールがありますが、CO2吸収時に多大な冷却エネルギーがかかるデメリットがあります。そこで私たちの研究室では、エネルギー低減化が期待できるイオン液体の開発に取り組んでいます。イオン液体は、陽イオンと陰イオンのみから構成される室温で液体状態の塩(えん)で、その組合せは無数にあります。物理吸収法に最適な溶媒を見つけ出すために、今回用いた液体は、陽イオンの[N8881]: methyltri-n-octylammonium+と陰イオンの[TFSA]:bis(trifluoromethyl)sulfonyl amideからなる[N8881][TFSA]: methyltri-n-octylammonium bis(trifluoromethyl)sulfonyl amideです。

 これまでの研究から、アルキル鎖を伸長するとCO2の吸収率が上昇するということが報告されていますが、これまでよりも更にアルキル鎖を伸長したイオン液体を使って実験を行いました。まず、[N8881]Cl: methyltri-n-octylammonium chlorideにフッ素系アニオンを置換することでCO2の親和性を高める[N8881][TFSA]を合成し、磁気浮遊天秤を使ってCO2の吸収量を測定しました。側鎖を伸長していないアンモニウム系イオン液体と比較してCO2の溶解度は大きくなり、よりCO2を吸収していることがわかりました。アルキル鎖が伸長したことによって、どのような影響を及ぼしたのかも検討しました。着目したのは、熱力学パラメータです。CO2溶解にともなうイオン液体とCO2の親和性を明らかにするために、エンタルピー効果とエントロピー効果を計算しました。するとアルキル鎖が長くなるとCO2との親和性を表すエンタルピーの値が低下、つまりCO2との結合が弱くなっていたのです。逆に乱雑さを示すエントロピーの値は大きくなりました。乱雑になったことでCO2が入り込みやすくなったと考えられます。

 この結果からCO2溶解度が増加した要因は、エンタルピーの効果ではなく、エントロピーの効果だったと推察できます。CO2との結合が弱まっていることから、アルキル鎖を伸長しても溶解度の増加には有利に働かなかったということになります。今後は、CO2との親和性を高めるために、伸長したアルキル鎖にもフッ素を導入するなどイオン液体の構造を見直し、実験を行っていきます。

―どのような点が評価されたと思われますか。

 なかなか伝わりにくいエンタルピーとエントロピーの概念を誰にでもわかるようにかみ砕いて説明できた点が良かったと思っています。専門分野外の方にどうしたらこの熱力学的解析を理解してもらえるかが鍵でした。先生方や先輩にもアドバイスをいただき、自分なりに上手く説明する手法を考えました。ただ、今回はカチオンだけを変化させたので、ディスカッションの際にアニオンを変化させた場合はどうなるのかといった指摘も受けました。それに対する答えは用意していなかったのですが、この研究における自分の持っている知識を使って、なんとか回答することができました。そうした点も評価につながったのではないでしょうか。

 他の方の発表も聞きましたが、皆さん素晴らしくて圧倒されました。そんな中で、奨励賞に選ばれたことは大きな自信になりました。

―なぜ、生命応用化学専攻に進まれたのですか。

 高校の時、物理は苦手だったのですが、化学は得意で好きな科目でもあり、将来は化学の先生になろうかなと思って、化学の道に進みました。でも大学で学んでいくうちに、化学工学に興味を持つようになり、環境化学工学研究室に入りました。他の研究室に比べると、物理を多く扱う研究室なので、いつの間にか化学より物理の方が楽しくなっていました。苦手のはずだったんですが(笑)。

―今後の目標をお聞かせください。

 この研究に関しては、今回はCO2溶解度だけでしたが、液体の粘性など違った視点からアプローチをしていきたいと考えています。CO2の分離・回収プロセスの研究は面白いので、将来、そうした事業に携わっていけたらいいなと思っているところです。

―ありがとうございました。今後、益々活躍されることを期待しています。

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