福島県内の企業で開発されたお米プラスチックを使った材料で環境にやさしい製造を体験できる事業を発案しました
建築学科研究生の園田駿希さんは、建築学専攻博士前期課程2年の時(建築・地域計画研究室所属/指導教員:宮﨑渉専任講師)に(公財)福島イノベーション・コースト構想推進機構が実施する『令和4年度 Fukushima Tech Create(FCT事業)』に応募し、「国産のバイオマスプラスチック製3Dプリンタ用フィラメントの製造販売およびエコマテリアルインテリアの造形販売」でビジネスアイデア事業化プログラムに採択されました。2023年1月24日、25日に行われた『令和4年度 Fukushima Tech Create成果発表会』では、『手に取るエコプラスチックー日本の未来をプラスチックで体験する-』と題して発表を行い、企業からも高い注目を集めました。現在、研究生として研究に従事しながら、ベンチャー企業立ち上げをめざしている園田さん。Fukushima Tech Createに採択されたビジネスアイデアとその活動についてお話を聞きました。
―なぜ『令和4年度 Fukushima Tech Create』に応募されたのですか。
私が所属している学生主体のものつくり団体『LohasProLAB』では、ものつくりに携わるにあたり持続可能性ということについてメンバー同士でよく話をしています。近年、ストローが紙ストローになったり、レジ袋が有料化になったり、そういったプラスチック廃止政策は、大学生の私たちにも少なからず影響を与えていますが、実際にどれくらいの効果があったかはあまり知られていません。プラスチックについていろいろ調べていく過程で、海や自然の中へ捨てられても、微生物が時間をかけて分解してくれる生分解性プラスチックというものが開発されていることを知りました。原材料は植物のデンプンで、福島県内のバイオマスレジンホールディングスという会社でも開発を進めていました。製品開発や分解処理方法、政策など、いろいろな方面でプラスチックを良くしていこうとする動きがある中で、実際に利用する側の私たちは、買う前の製造過程も捨てた後の分解過程もどうなっているのか知る機会がありません。そのため、プラスチック問題に関してあまり実感が湧かないという人が多いのではないでしょうか。もっとプラスチックを身近に感じられるような取り組みが必要だと思ったことが、応募するきっかけになりました。
―どのようなビジネスアイデアを考えたのですか。
微生物が分解するお米プラスチックを使って3Dプリンタ用材料を製作し、環境にやさしい製造というものを体験できるプランを考えました。バイオマスレジンのRiceResin(ライスレジン)ペレットを3Dプリンタ用フィラメント材料に変換したものを使って、実際に3Dプリンタでプラスチック製品の製造を体験してもらえば、一般の人たちがプラスチックでのモノづくりや処理問題について考えるきっかけになると思います。
さらにプラスチックの分解処理を体験するために、お米プラスチックで製作した都市模型に培養土を敷いて植物を育て、1年かけて3D都市模型が微生物のチカラで自然に戻っていく過程を体験できる商品を設計しました。今は、苔を植えていますが、今後はテラリウムやアクアリウムといったインテリアになるような商品や園芸用品などに展開していきたいと考えています。
また事業化するにあたり、どれくらいの市場規模があるのかも調べました。158大学を調査した中で、さまざまなモノづくりの施設設備を整えているところが約4分の1、そのうち94%の大学が3Dプリンタを導入しており、モノづくりの環境整備において3Dプリンタの注目度が高いことがわかりました。総務省や国を挙げて教育機関への3Dプリンタ導入を働きかけています。福島で開発した材料の体験、エコプラスチックによるSDGs教育と絡めてコラボしていければ、事業拡大にもつながるのではと考えています。
―起業しようと思ったのはなぜですか。
前々から、3Dプリンタのフィラメントを作るイタリアの押出機に興味があって、これを使って何かやりたいなと思っていて、うまくいけば起業したいなという考えはありました。実際にやってみたらなんとか形にできたことで、起業して本格的にやってみようと決意したのが今年の1月でした。福島の企業から材料を提供してもらえることになり、フィラメントの増産を進めているところです。フィラメントの材料としては完成しましたが、まだ生分解されるかどうかの検証ができていないので、今年1年かけて記録していく予定です。研究生として浦部智義先生の研究室に所属し、福島イノベ機構のプロジェクト「大学等の「復興知」を活用した人材育成基盤構築事業」の一環として、福島県浜通りでの技術教育やイベントの実施にも携わっていきます。そういった場面で、もし3D プリンタやレーザーカッターを使ったモノづくりのワークショップを通して、お米でつくったプラスチックを通して環境にやさしい製造について学んでもらえれば素晴らしいのではと考えています。そしてその考えの元、工学部の中では、学生を対象にしたモノづくりの活動を実施していきます。
モノづくりができる空間を設けている大学では、外部の事業社や技術者に運営を任せているところもあります。FABラボにそうした事例が多いのですが、私がそういう役割を担えたら良いのではと考えています。FABカフェのようなものを設立し、それを事業化して各大学内に導入してもらい、その中で3Dプリンタを使ったお米プラスチックモノづくり体験活動を展開していく、という事業展開を構想しています。特に福島県内にはFABラボが少ないので、ぜひ郡山にある日大工学部に設けて、他の施設と繋がれるような交流拠点にしていけたら良いのではないかと考えています。
―建築学科から、なぜモノづくりの道に進んだのですか。
将来は世の中に絶対必要な衣食住のどれかに関われるような仕事に就きたいと考えて建築学科を選びましたが、実は日本大学東北高校時代は理科部に所属し、ロボコンに参加したり、研究もしていて液体窒素を借りに工学部へ行ったりもしていました。建築学科では模型を作る時に、実際に現地の砂利や国産の杉の木材とかを使うヴァナキュラー建築の概念があります。このビジネスアイデアの発想に至ったのも、そういうヴァナキュラー的な考えからきており、材料系の企画ではありますが、根本には建築的な考え方があったと思います。配属になった研究室には学科で所有する3Dプリンタが設置されていて、そこで使わせていただいたのが始まりでした。自分の卒業設計でも3Dプリンタを使って模型をつくりましが、今では建築学科の多くの学生が3Dプリンタを使うようになりました。LohasProLABが立ち上がってから、建築学科に限らず、3Dプリンタを用いてモノづくりをする学生が増大しました。学外のワークショップや高校の文化祭でも利用されているので、全部合わせると266人が利用したことになります。益々需要は増えていくでしょう。研究や教育に限らず、人々の生活を豊かにすることを目的に、このビジネスを広げていけたらと思います。