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情報工学専攻2年の佐竹祐里奈さんの論文が国際学会誌『Remote Sensing』に受理されました

リモートセンシング技術により南極氷河の厚さを解析した研究

 この度、情報工学専攻博士前期課程2年の佐竹祐里奈さん(ジオインフォマティクス研究室/指導教員:中村和樹准教授)が発表した論文が、国際学会誌『Remote Sensing』に受理され、オープン アクセス ジャーナルに掲載されました。
 『Remote Sensing』 は、リモートセンシングやその他の地理学分野に関する研究に焦点を当てた、査読付き オープン アクセス 学術雑誌です。2009 年に設立され、 MDPIによって発行されています。
 佐竹さんが発表した論文『Temporal Variations in Ice Thickness of the Shirase Glacier Derived from CryoSat-2/SIRAL Data』はCryoSat-2 に搭載された合成開口干渉レーダー高度計 (SIRAL) を使用して南極にある白瀬氷河の氷の厚さを推定した研究成果をまとめたもので、リュツォ・ホルム湾における定着氷の流出イベントと白瀬氷河の氷厚変化に関連があることを示しました。

 佐竹さんの喜びの声とともに、研究について詳しくお話を聞きました。

―この度は国際学会誌への論文受理おめでとうございます。感想をお聞かせください。

 学部生の頃から続けてきた研究が成果として認められ、大変嬉しく思います。中村先生からご指導いただいたおかげであり、深く感謝しております。本論文は昨年の5月にオンラインで開催された国際学会で発表した内容を発展させてまとめたものですが、学会への参加を通じて、研究対象である氷河に関することだけでなく、リモートセンシングを応用した様々な研究について知ることができ、視野も広がり大変勉強になりました。さらに、論文の執筆を通して課題や次の目標も見えてきたので、論文にするだけで得るものが多かった上に、より一層研究を続けたいという気持ちが強まりました。

―研究の内容について詳しく説明いただけますか。

 地球上の氷の約90%は、南極氷床に存在していますが、この氷の全てが融解して海洋へ流出すれば、世界の海水面が最大で60m上昇すると見積もられています。そのため、南極氷床の氷の流出量を定量的に把握することは、地球規模の気候変動を把握する上で重要です。西南極氷床では氷の流出量が増えている一方で、東南極氷床においてはほとんど氷の流出量に変動がないと考えられていました。

 ところが、東南極において最も流動速度の速い白瀬氷河の氷厚は、数年前から温かい海水の氷河下への流入による底面融解の影響を受けることがわかってきました。この状況が今後も継続すれば、東南極でも西南極のように多くの氷が流出してしまうかもしれません。しかし、南極では極夜やブリザード、クレバスなどの影響で現場観測は困難な状況にあります。そこで、本研究では継続的な観測が可能な人工衛星に搭載された高度計データCryoSat-2/SIRAL(Synthetic Aperture InterferometricRadar Altimeter: SIRAL)を用いて、2011年から2020年における白瀬氷河の氷厚の経年変化を推定しました。

 南極氷床からリュツォ・ホルム湾へ流れ出た白瀬氷河の周囲には定着氷が存在しますが、この定着氷が崩壊して沖に流される現象が生じると、白瀬氷河の末端部も共に沖へ流出し、同時に氷河の流動速度が加速することが既往の研究により示されていました。本研究の解析結果により、白瀬氷河の流動速度の加速に伴い氷河の氷厚が薄くなることがわかり、この流出イベントと氷河の氷厚変動に関連があることが明らかになりました。

白瀬氷河の推定氷厚分布の色分けされたマップ

―どのような点が評価されたと思われますか。

 氷河からの氷の流出量を求めるには、流動速度、氷の厚さ、密度、流出幅という4つのパラメータが必要でしたが、白瀬氷河では一部分の現場観測データしかなく、これまでは氷の厚さについて十分な解析がされていませんでした。そのような中で、リモートセンシングの特徴を活かして広範囲かつ継続的な長期間のデータを解析することで、白瀬氷河の氷厚の時間的な変動を明らかにした点が評価されたと思います。南極大陸全体から見ると白瀬氷河という小規模な領域ではありますが、今後、どのように氷の厚さが変動し、白瀬氷河からどのように氷が流出しているのかを高精度に解析することで、南極全体の状況の詳細な把握に貢献できると考えています。

―なぜ情報工学を学ぼうと思ったのですか。どんなところが魅力ですか。

 中学生の頃にパソコンに触れて興味を持ったことがきっかけでしたが、情報工学科を選んだ一番の理由は、幅広い分野で利用され、今や私たちの生活には欠かせない情報工学の技術を学べば、将来の選択肢も広がるのではと考えたからです。3年生の後期に研究室を選んだ際には、大学院進学を視野に入れて、ジオインフォマティクス研究室に決めました。この研究室では、地球上で起きる現象を情報工学の技術を利用して解析し、その変動を定量的に明らかにすることを目的に研究を行っていると知り、スケールが大きくて考えるだけで楽しそうでワクワクしました。特に南極についてはわかっていることが少なく、自分で研究して解明できる面白さがあると思います。研究を進めるうちに地球科学に関する知識も必要になり、より深い知識や技術を修得したいと考えるようになりました。研究は試行錯誤の連続ですが、中村先生や研究室の仲間にアドバイスをもらったりサポートしてもらったりしながら、研究に邁進することができ、とても充実しています。

―今後の目標についてお聞かせください。

 白瀬氷河について深く掘り下げて調べていくことで、精度を高め南極全体の氷床の質量収支を明らかにし定量化していくことが目標です。博士後期課程へ進学し、さらに研究を続けていきたいと考えています。

―ありがとうございました。今後益々活躍されることを期待しています。

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