最新情報

建築学科の阿部佳穂さんが『JIA東北学生卒業設計コンクール2023』において最優秀賞を受賞しました

生業やそれを支える場づくりによって地域を活性化させる建築プログラムやデザインが高く評価され、最優秀賞に輝く

 『JIA東北学生卒業設計コンクール2023(公益社団法人日本建築家協会東北支部主催)』の審査会が2月24日(金)に行われ、建築学科4年(当時)の阿部佳穂さん(建築計画研究室/指導教員:浦部智義教授)の作品『生業を醸す-海と海抜460m-峠の集落-』が最優秀賞を受賞しました。審査会は、Zoomを使って画面を共有しながら発表13分、質疑応答7分、計20分のプレゼンテーションによって行われました。各大学・高等専門学校の卒業設計の代表である10作品から、各県地域会代表5名、事務局2名、計7名の審査員が一人3票の持ち票を投票して、得票数の多い3作品が優秀賞以上に決定。この結果、阿部さんの作品は、満票で最優秀賞に輝き6月17日(土)に行われる『JIA全国学生卒業設計コンクール2023』に支部選出作品として出展することも決まりました。本学部から10年連続の全国大会出展となります。 阿部さんに受賞の喜びと作品について詳しくお話を聞きました。

―最優秀賞受賞おめでとうございます。感想をお聞かせください。

 学内の卒業設計展のプレゼンテーション後、本コンクールに出展するにあたり、浦部先生には、学内の提出以前と同じくらい、改めて時間を掛けてエスキスをしていただき、デザインを再考し山側の模型も手直ししました。ご指導いただいたおかげで、審査会では満票で最優秀賞を受賞することができ、浦部先生には本当に感謝しております。また、卒業設計期間を通して、研究室の先輩にはアドバイスをいただいたり、同輩とは互いに励まし合ったり、後輩には模型作りを手伝ってもらったり、周りに助けられ、人に恵まれているなと感じました。その方々にも、少しは恩返しができたかなと思っています。もちろん受賞することだけが重要ではないと考えていますが、私自身、4年前期の作品を出展させて頂いたJIA東北建築学生賞で消化不良の部分もあり悔しい思いをしたので、今回、改めて思考と表現を見つめ直して、ある程度、納得できるプレゼンが出来て結果につながったことは、大変嬉しいです。

―作品について詳しく説明いただけますか。

 日本において衰退傾向にある第一次産業に着目し、私の地元である南三陸町を対象に新たな取り組みを支える場づくりを建築で表現したい、というのが本設計の出発点でした。南三陸町には、第一次産業としてカキの養殖など海の恵みによる水産漁業、南三陸杉に代表される山のめぐみによる林業等があります。そこにワイン造りという新たな産業をつなげてさまざまな生業をシンクロさせることで、個々の再構築を超えた新たな価値を生み出せる2つの場を、海と山を繋ぐ一連の建築として設計しました。  1つは、内海にある今は利用されていない漁港に、現在の加工場の機能を展開したワイナリーをはじめ、養殖棚にワインを括りつけて海に沈める海中熟成の拠点機能、水産漁業を体験できる機能等を持つ建築を計画。もう一つはブドウ畑を拠点にした山に、ワインを貯蔵する倉庫、ブドウの収穫体験や飲食体験ができるレストラン・宿泊施設の機能を持つ建築を、地場産木材を活用した建築を計画しました。そうしたワインでつながる海と海抜460mの場所にある2つの建築からまち全体を体感でき、農林水産業や製造工業など、建築物の維持管理を担う建設業を含めてさまざまな生業の価値を醸し出すような建築を設計しました。

 実際に敷地調査やプレハブを改修した仮設的なワイナリーで海中熟成を行いながら製造しているところに伺ってお話を聞いたうえで、自分なりに設計を考えました。山にはブドウ畑があってワインとのつながりを感じられますが、海の方をどうワインと結びつけるかが悩みどころでした。そこで、連なる山々をイメージした屋根の曲線やブドウ棚をイメージしたはさみ梁など景観から抽出して建物に意味を持たせる工夫をしました。

―どんなところが評価されたと思われますか。

 コンセプト、設計内容、全体のデザイン、模型の表現等を高く評価していただきました。南三陸町に対する想いが伝わり、実際こんな施設ができたらまちの人々にとっても、産業にとっても元気が出るのではないかと感じ、是非行ってみたい気持ちになったと講評をいただいて、大変嬉しかったです。ただ、図面の表現として内外部の繋がりや、内部から外側の見え方等一部わかりにくい、また表現しきれていない部分などがあるとの指摘もありました。研究室のみなさんにも協力して頂き、充実した模型となり、ある程度下地は出来ていると思いますので、後は図面やボードの完成度を上げるなど、精一杯ブラッシュアップして全国大会に臨みたいと思います。全国大会に参加させて頂ける機会を頂いたので他校の優れた作品を見て勉強したりして、自分自身も楽しみながら貴重な経験ができたらいいなと思います。

―4年間建築学科で学んできて、良かったことは何ですか。

 私は、建築の中身を考えるのは好きでアイディアも色々沸いてくるのですが、造形美や形を考えることが突出して上手では無かったこともあり、建築としてのデザインや空間性については、自作での物足りなさに悩んだ時期もありました。震災がきっかけで建築の道をめざしたこともあり、震災復興を意識しながら設計課題に取り組み、さらに、卒業設計では震災復興だけでなく、少子高齢化や産業の衰退など地域の課題に目を向けた計画・設計を目指しましたが、そのテーマ性からデザインよりプログラム優先になりがちでした。そんな中、先生がその雰囲気づくりを大事にされていると思うのですが、ゼミナール・研究室で、同じ目標に向かって頑張れる仲間や研究室の卒業生の方々はじめ多くの方々とのつながりが深まったことで、色んな価値観に触れ視野が広がったことが大きかったと思います。奇抜でなくても良いデザインはあると思えたり、中身を考えるのは重要だと再認識できたりして、やはり将来、建築の計画や設計の仕事がしたいと思うようになり、進むべき道が明確になりました。  
 この研究室を卒業された先輩には、コンクールに出展されていた先輩もたくさんいらして色々とアドバイスを頂いたり、自分の就職先に勤務されている方もいらっしゃるので、頼れる方がいて心強いです。これからの私もそうだと思いますが、人間関係を大事にして、いろいろな方と関わって、楽しんだり、励まされたり、刺激を受けたりしながら、多様な価値を理解し合えることは、全ての発想の源になる様な気がしますので、とても大事なことだと思っていますし、そういったことを建築を通して学べたことはとても有意義でした。

―今後の目標や夢についてお聞かせください。

 一級建築士の資格を早く取って、活躍できたらと思っています。仙台の設計事務所に勤務することになりましたので、地域の今ある良さを生かしつつ新しい取り組みを提案して、さらによりよい建築を形にしていきたいと思っています。将来、地元の南三陸町の建築に携わる機会があるかもしれないので、それも楽しみの一つです。

―最後に後輩にメッセージをお願いします。

 先ほど話したような伸びやかな研究室の雰囲気の中で、好きな建築家に触れたり、いろいろな建築を見たりして、幅広い刺激を受け、どういうものに興味があって何がやりたいのかという方向性が段々とわかってきました。私も悩んでいると内向きになりがちですが、身近なまわりにヒントが落ちていることもあると思うので、色んなものを見たり聞いたりする気持ちを持って、人と話したりすることで、少しずつでも何でも良いので創作や表現を続けられたら良いのかなと思ったりします。

―ありがとうございました。全国大会での健闘と今後益々活躍されることを期待しています。

JIA東北学生卒業設計コンクール2023の審査結果・作品講評はこちら