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富岡町文化交流センター「学びの森」で建築学科4年の深澤愛梨さんの卒業設計作品パネル展が開かれています

様々な人をつなぐ場所『道の駅「さくらの郷」』が
富岡町の新たな出発点になることを願って

建築学科4年 深澤愛梨さん(茨城県・太田第一高校出身)

 建築学科4年の深澤愛梨さん(住環境計画研究室/指導教員:市岡綾子専任講師)が富岡町に道の駅を設置する案を描いた卒業設計作品『道の駅「さくらの郷」-拠り道・新たな町への出発点-』のパネル展が、富岡町文化交流センター『学びの森』で開催しています。深澤さんは、帰還した町民の富岡町に対する強い思いを感じ、多くの人々の拠り所になる場所を提案しました。4年間の集大成として作品に込めた深澤さんの思いなど、詳しくお話を聞きました。

―まずは、深澤さんが日本大学工学部建築学科に入った理由と4年間の思い出についてお聞かせください。

もともと絵を描くことや工作が好きで建築学科に入りたいと思ったのが発端でした。工学部を選んだのは、過ごしやすそうな環境だったからです。人見知りの性格なので、友だちができるか不安でしたが、入学して早々に1泊2日の新入生学外研修があり、すぐにみんなと打ち解けて仲良くなれました。この研修が工学部での一番の思い出でもあります。

 建築に関しては何も知識もありませんでしたが、工業高校出身の友人からいろいろ教わりながら、少しずつ建築を学ぶ面白さがわかってきました。ものづくりが好きだったので、課題で模型をつくるのが楽しくて、特に2年生の時に二世帯住宅の模型をつくったことが印象に残っています。サークルは建築研究会に所属し、みんなで近くの建物や美術館を見に行ったりしていましたが、2年生になってコロナ禍の影響で活動ができなくなり、授業でも友人になかなか会えなくなった時は寂しかったです。

 3年生の頃から将来について考えるようになり、公務員と一般企業のどちらがよいか迷いましたが、自分に合っていると思った公務員をめざすことにしました。研究室も興味のあった意匠・計画系の中で、市やまちなど地域活動に携われる機会が多い市岡先生の研究室を選択。今回の卒業設計制作に至る、体験がここから始まりました。

―実際にどのような活動に携わったのですか。

 最初に富岡町に行ったのは、特別養護老人ホームの工事現場の見学の時でした。実際まちに足を踏み入れて、震災から10年以上経っているのに復興が進んでいない状況を目の当たりにしました。まだ帰還困難区域のバリケードがあって入れない場所があったり、たくさんのトラックが入って解体工事していたり、まさに復興途中の様相でした。同じ県内に住んでいるのに全然知らなくて、ショックを受けました。その後、研究室の活動の一環で、高齢者のための健康散歩マップを作りました。歩きながら、高齢者の方のお話を聞く機会もありました。また、NPO法人富岡町3.11を語る会が主催する『語り人育成講座』に参加して震災の体験を聞いたり、帰還した方々の富岡町への思いやまちの復興のために尽力する姿を見て、私も何かできることはないだろうかと考えるようになりました。その方たちと帰還を悩んでいる人や帰還しないと決めた人、観光客など様々な立場の人々をつなぐ場所が必要だと感じました。そこで私は、卒業設計で『道の駅』を提案しようと決めたのです。

―卒業設計作品について詳しく説明いただけますか。

『道の駅』にした理由は、富岡町は車で行き来する人が多いので、車で気軽に寄れる場所があればとよいと思ったからです。敷地を選定するにあたり、国道6号線の車通りが多いことに着目。アクセスの利便性を考慮して、町内の夜の森公園に近い場所を選びました。夜の森地区には、富岡町が誇る「桜のトンネル」と呼ばれる桜並木があることから、『道の駅 「さくらの郷」』とし、「桜」をモチーフにした建築を考えました。

 現在住んでいる町民にスポットをあてるとともに、帰還しない方たちにも富岡町に来て懐かしんでほしいと思い、「歴史棟」「交流棟」「食品棟」の3つの棟を計画しました。「歴史棟」は昔の町並みを感じる内装とし、震災の記憶を語り継ぐ場所としても活用します。富岡町の昔を懐かしんでもらいながら、今の町並みにも興味を持ってもらいたいと考えました。「交流棟」は現在の町民が避難民や観光客と触れ合う場所であり、離れてしまった人も気軽に訪れることができるように宿泊施設を設けました。富岡町の特産品を販売する「食品棟」では、今、人気の高い市民農園を計画し、栽培した玉ねぎなどの野菜や新名物になりつつあるワインを販売し、町民のやりがいも創出したいと考えました。

 桜をモチーフにした木造の建物には、桜の木に見立てた柱を設置したり、桜の木をイメージした屋根を展開。敷地の中心には桜を植えた中央広場もあり、新たなさくらの郷として、また町民の心の拠り所として、富岡町を活性化させる出発点になることを願い提案しました。



―卒業設計作品パネル展の感想についてお聞かせください。

 学生個人の作品が地域の施設に展示されることは滅多にない経験なので、大変ありがたく光栄なことだと思っています。この作品がお世話になった方への恩返しになれば嬉しいです。福島に来なければ、被災地に関わったり被災者の声を聞いたり、震災を肌で感じることもなかったでしょう。富岡町をどうにかしたいという方々の強い思いが伝わって、私も何か役に立ちたいと思ったように、復興にはそういう思いが一番大事だということを学びました。帰還していない人が今後富岡町に戻ってくることは難しいかもしれませんが、新たに富岡町を好きになって訪れてくれる人が増えたらいいなと思います。そして、作品を通して私の思いが富岡町のみなさんにも伝えられたら幸いです。

―今後の目標をお聞かせください。

 念願叶って、国家公務員になることができました。県や市も受けましたが、最終的には大規模な事業に携われる国土交通省関東地方整備局に決めました。人口が多い関東で大地震が起こった場合、建物崩壊による被害が増大する危険性が高いので、しっかりと建物の耐震化を図り、安全なまちづくりに貢献したいと考えています。まずは、仕事を早く覚えて何でも任せてもられるように一人前なりたいです。そして一級建築士の資格取得もめざします。

―最後に、卒業式表彰者として学長賞に選ばれたとのこと、誠におめでとうございます。

 ありがとうございます。普段から授業を休まず、遅刻せずに真面目に受けて、多岐に亘る建築の学びに向学心を持って臨み、試験勉強も人一倍頑張った成果だと思います。4年間、地道にコツコツ努力してきてよかったです。また、助け合える仲間がいたことも頑張れた大きな要因だと思います。これからも工学部で学んだことを糧にして精進していきたいです。

―ありがとうございました。今後益々活躍されることを祈念しています。

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