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建築学専攻博士前期課程1年の田中秀暉さんが日本建築学会大会学術講演会若手優秀発表賞を受賞しました

ポーラスコンクリートの性能改善を試みる研究が
高く評価される

 この度、建築学専攻博士前期課程1年の田中秀暉さん(建築材料学研究室/指導教員:齋藤俊克准教授)が2022年度日本建築学会大会(北海道)学術講演会材料施工部門において、若手優秀発表賞を受賞しました。この賞は30歳未満を対象に、若手による学会活動を奨励し、プレゼンテーション力の向上促進と材料施工部門の活性化を目的に贈られる賞です。本年は審査対象者238名の中で32名が受賞しました。田中さんが発表した『各種ポリマーセメントモルタルを結合材とするポーラスコンクリートの圧縮及び曲げ強度』は、ポーラスコンクリートの耐久性を改善させることを目標にした研究で、その研究内容のレベルやプレゼンテーションのわかりやすさ、質疑応答の対応が評価され若手優秀発表賞に輝きました。
 田中さんの喜びの声とともに、研究について詳しくお話を聞きました。

―若手優秀発表賞受賞おめでとうございます。感想をお聞かせください。

 学術講演会は9月にオンライン形式で開催され、発表会特有の会場の雰囲気がつかみにくく、当時はやりきったという手応えはありませんでした。しかも、4か月経ってから突然賞状が届いたので、正直驚いたというのが率直な感想です。齋藤先生からお褒めの言葉をいただきましたが、まだ実感が湧かないといったところです。賞に結びついたのも自分だけの力ではなく、ご指導いただいた齋藤先生や名誉教授で上席研究員の出村克宣先生、実験に協力してくれた研究室の仲間のおかげであり、深く感謝しています。

―研究について詳しく説明いただけますか。

 研究対象のポーラスコンクリートは環境配慮型コンクリートに分類されます。ポーラスコンクリート内部に連続した空隙、つまりたくさん穴が空いているので透水性、排水性に優れています。普通のコンクリートとは用途が異なり、例えば、屋上や河川の緑化法面の基盤としての利用や、道路に使用することで水たまりができにくく、雨水を地中に戻すことができるなど、ロハス工学にもつながっています。最近では、構造的用途に関する研究も行われています。ただし、空隙が多いことから、強度や耐久性が低いことがデメリットとして挙げられます。そこで、ポーラスコンクリートの性能改善を試みるために、樹脂エマルション系2種類とゴムラテックス系1種類のセメント混和用のポリマーを使用したポリマーセメントモルタル(以下、PCM)とそれを結合材とする空隙率を変化させたポーラスコンクリートについて圧縮および曲げ強度を評価しました。さらに、JCI(日本コンクリート工学会)の「性能設計対応型ポーラスコンクリートの施工標準と品質保証体制の確立研究委員会」(以下、JCIポーラスコンクリート研究委員会)がポーラスコンクリートの強度管理方法として提案している圧縮および曲げ強度比-空隙率関係を用いた強度推定式の本研究結果への適用性についても検討しました。

 まずは、様々な実験水準のPCMとポーラスコンクリートの供試体を作製しました。それぞれ圧縮強度試験と曲げ強度試験を行い、実験データをもとに考察しました。その結果、PCMとそれを結合材に使用したポーラスコンクリートは、どの種類の場合でもポリマー未混入のものより圧縮強度は若干低くなりましたが、曲げ強度に関しては高くなりました。また、PCMを結合材とするポーラスコンクリートにおいても、JCIポーラスコンクリート研究委員会による強度推定式が適用可能であることもわかりました。



―どのような点が評価されたと思われますか。

 ポリマーの混入によるポーラスコンクリートの性能改善効果を示すだけではなく、JCIポーラスコンクリート研究委員会による強度推定式の適用性についても検討したことが評価につながったと思います。発表の時の司会がJCIポーラスコンクリート研究委員会の委員をされていた先生だったので、実験結果に対し、興味を持って聞いていただけたと思います。他の分野の先生方からも貴重なご意見やアドバイスをいただき、大変参考になりました。

―今後の目標についてお聞かせください。

 今回発表した研究を発展させた内容で、審査論文として投稿したものが採択され、3月末に発刊予定です。今後は構造的な用途で使用されるときに必要な静弾性係数の推定や耐久性改善を目標に研究を進めていきたいと考えています。

―どんなところが研究の魅力ですか。

 建築材料の研究に携わっていますが、やはり建物を建てる時と同じように、チームで実験を行うところに魅力を感じています。仲間と共に一歩ずつ研究を進めていくプロセスに面白さがあり、成功した時には達成感も倍増します。たとえ実験が上手くいかなかったとしても、失敗の原因がわかれば次に生かすことができる。失敗と成功を繰り返しながら、検討してもわからなかったことに関しても徐々に理解が深まっていき、研究の成果とともに自分自身も成長することができます。大学院に進学してからは、学会で発表したり論文にまとめて投稿したり、研究成果を報告できることにやりがいを感じています。将来についてはまだ模索中ですが、研究職の道に進めたらと考えています。

―ありがとうございます。今後益々活躍されることを期待しています。

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