地球温暖化対策につながるCO2分離・回収に関する研究が企業から高く評価される
令和4年11月17日(木)・18日(金)に、『分離技術会年会2022』がオンラインで開催され、生命応用化学専攻博士前期課程2年の鈴木祐輝さん(環境化学工学研究室/指導教員:児玉大輔准教授)が企業奨励賞(東洋エンジニアリング賞)を受賞しました。分離技術会は、蒸留、相平衡、晶析、吸着、吸収、抽出、膜分離、流体固体分離、シミュレーション、その他さまざまな分離操作や分離プロセスに係わる技術者と研究者の会です。年会では学生会員の活性化と支援を目的として、優れた研究発表を行った学生に対し、企業から奨励賞を授与しています。鈴木さんが発表した『プロトン性イオン液体のガス吸収特性とCO2/CH4選択性の評価』は、新しい酸性ガス吸収溶媒として期待されるイオン液体に関する実験的な研究で、産業技術総合研究所と共同で進めているもので、企業からも注目を集めています。
鈴木さんの喜びの声とともに研究について詳しくお話を聞きました。
―企業奨励賞受賞おめでとうございます。感想をお聞かせください。
今後の研究のさらなる進展を期待して、企業奨励賞に選んでいただき大変光栄です。実はこの年会の1週間ほど前に別の学会があり、頑張って発表したのですが、賞には選ばれず少し落胆していました。おそらく質疑応答が上手くいかなかったことが要因だったと思います。その点を反省して、質問を想定し準備して臨んだ結果、このような賞をいただくことができました。挽回できて、とても嬉しく思います。
―研究について詳しく説明いただけますか。
私たちの生活にも幅広く利用されている有用でクリーンなエネルギー資源である天然ガスは、採掘の際にCO2などの不純物も含まれるため、これらを除去する方法として、現在、アルカノールアミン類などの化学吸収液やSelexolなどの物理吸収液が利用されています。しかし、天然ガスの井戸元によっては、CO2と同時に有用な資源であるエタンを始めとする天然ガス液(NGL: Natural Gas Liquid)も多く溶解してしまい、その大半を回収できずに棄却されてしまっていることが課題として挙げられています。そこで私たちは、酸性ガスを選択的に吸収できるイオン液体に着目し、よりCO2を選択的に吸収できるイオン液体を見出す研究に取り組んでいます。本研究では、カチオンのアルキル側鎖をプロトンに置き換えたプロトン性イオン液体を使って、どれくらいCO2とCH4(メタン)を分離できるか、その選択性について評価しました。CO2とCH4の溶解度の差が大きければ大きいほど、選択性が高いということになります。まず溶解度を測定し、その結果を踏まえてCO2とCH4の選択性をシミュレーションで算出しました。
さらに、メチル基の有無がガス溶解度に与える影響を熱力学的に考察しました。その結果、CO2の溶解度はエンタルピー(熱含量)による寄与が大きく、CH4溶解度はエントロピー(乱雑な状態)による影響が大きいことがわかりました。この研究のゴールは、現在、使われている溶媒よりもCO2とCH4の選択性を高めることにあり、そのためにはそれぞれの溶解現象を明らかにする必要があります。メタンの溶解度を下げるためにはエントロピーの影響を受けない構造にすることが効果的だと推察できます。本研究により、選択性の高いイオン液体の構造を導き出す手掛かりにもなりました。
―どのような点が評価されたのですか。
個々の物質に起因する溶解度に対するエントロピー効果項とエンタルピー効果項を測定データから算出し、吸収溶媒としてのイオン液体分子設計に対する指針を与えている点が評価されました。口頭試問においても適切に対応し、好感を持っていただけたようです。
―どんなところが研究の魅力ですか。
化学工学、特に熱力学に面白さを感じます。実験して終わりではなく、なぜこのような結果になったのかを深堀するところに、研究の醍醐味、面白さがあります。もっと研究を続けたいという思いが強くなり、ドクターコース(博士後期課程)に進むことを決めました。今年の5月にスペインで開かれる国際会議(PPEPPD 2023: International Conference on Properties and Phase Equilibria for Product and Process Design)で発表する予定で、今、英語の勉強にも励んでいるところです。昨年7月に、アメリカ化学会のジャーナル『Industrial & Engineering Chemistry Research』に私が筆頭著者となった論文を投稿し、受理されて10月に世界に発信されました。それが大きな自信になって、海外に挑戦する意欲にもつながっています。
―今後の目標をお聞かせください
今回はCO2とCH4のみの測定でしたが、エタン、エチレン、プロパンについても測定したいと考えています。実際に井戸元から天然ガスを採掘する状況に近づけることで、より優れたイオン液体をつくることが目標です。さらに、ガスを分離するプロセスモデルを構築して、イオン液体の有効性を検証することが最大の目標になります。資源の有効活用につながるような研究開発に取り組むとともに、将来、化学プラントの設計や操作などで活躍できるエンジニアを目指します。