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生命応用化学専攻1年の豊川茉那さんが化学工学会第53回秋季大会学生優秀講演賞を受賞しました

CO2吸収溶媒として注目されているイオン液体の物性を
解明する研究が高く評価される

 9月14日(水)から16日(金)に信州大学長野(工学)キャンパスで行われた化学工学会第53回秋季大会において、生命応用化学専攻博士前期課程1年 豊川茉那さん(環境化学工学研究室/児玉大輔准教授)が学生優秀講演賞(基礎物性部会セッション)を受賞しました。講演した「イミダゾリウム系混合イオン液体のガラス転移温度」では、CO2吸収溶媒として注目されているイオン液体について、分子運動が凍結するガラス転移温度と粘性との関係を明らかにし、新たな相関式を開発することを目的としています。今回、報告例の少ない高粘度イオン液体のガラス転移温度を精密に測定した点が高く評価されました。
 豊川さんに受賞の喜びと研究について詳しくお話を聞きました。

―学生優秀講演賞受賞おめでとうございます。感想をお聞かせください。

 今回は初めての口頭発表だったので大変緊張しました。発表自体はしっかり練習していたので、上手くできたと思いますが、質疑応答での予期せぬ質問に的確に答えられなかったこともあり、賞をいただけるとは思っていませんでした。学会で発表することは自分にとっても大変貴重な経験になりますし、この賞を今後の研究の励みにしていきたいと思います。

―研究について詳しく説明いただけますか。

 当研究室では、深刻化する地球温暖化対策として、CO2をはじめとする温室効果ガスの回収技術について研究を行っています。中でも、CO2吸収溶媒として利用できるイオン液体の開発に力を入れています。イオン液体は電気を通すことができ、蒸発しないため、人に害を与えないなどの利点があります。これまでの研究では、比較的粘度が低い[Bmim][TFSA]: 1-Butyl-3-methylimidazolium bis(trifluoromethanesulfonyl)amideと比較的粘度の高い[Mmim][Me2PO4]: 1,3-Dimethylimidazolium dimethylphosphateの2種類のイオン液体を混合したイミダゾリウム系混合イオン液体を使って実験を行ってきました。今回は新たに[Bmim][PF6]: 1-Butyl-3-methylimidazolium hexafluorophosphateと[Hmim][Cl]: 1-Methyl-3-hexylimidazolium chlorideを加えた4つの液体をいろいろ組み合わせて比較検討を行いました。1つ目は[Bmim][TFSA] と[Mmim][Me2PO4]を組み合わせたもので、前回の測定データを使いました。2つ目は[Bmim][PF6]と[TFSA]を組み合わせたもので、当研究室の前任者が行ったデータを使いました。3つ目として、新たに[Hmim][Cl]と[TFSA]を組み合わせた混合イオン液体を使って実験を行い、独自にデータを出しました。

イオン液体でガラス転移温度を持つものは稀で、その中でも特に[Hmim][Cl]は、これまでのものより粘性が高いことが特徴として挙げられます。混合の割合を変えてイオン液体の密度・粘度を測定し、さらに粘度挙動を知るための重要なパラメータになるガラス転移温度を測定しました。このガラス転移温度の測定機器は、東北大学多元物質科学研究所(現在:日本大学工学部上席研究員・横山千昭先生)で製作され、当研究室に移設したものです。測定後、3種類のデータを比較した結果、2つ目と3つ目は粘性が下がるとガラス転移温度が低くなりガラス化しにくくなるという挙動が見られましたが、1つ目は粘性が下がってもガラス転移温度は下がらないという全く逆の挙動が見られました。3種類とも[TFSA]を使っているので、[Mmim][Me2PO4]が原因ではないかと推察しました。[Mmim]と[PF6]、[Me2PO4]と [PF6]を組み合わせてどのような挙動を示すかがわかれば、原因を特定できるのではと考えています。

―どのような点が評価されたと思われますか。

 粘度や密度を測定する研究は多くありますが、イオン液体のガラス転移温度を測定している研究は少ないので、その点が評価されたのではないでしょうか。また、自分のやっている研究は自分が一番よく理解しているという自負があるので、自信を持ってしっかり伝えようと心掛けて説明できた点も良かったと思います。ご指導いただいた児玉先生にも、ハキハキと発表できていたと誉めていただきました。質疑応答で上手く答えられなかったことは心残りですが、粘度と密度の相関データをガラス転移温度にも使えるのではというアドバイスをいただいたので、今後の検討課題にしていきたいと思います。

―なぜ、大学院に進学したのですか。

 就職は2年後でもできますが、研究は今しかできないと考えて、大学院に進みました。学部の時は、なんとなく化学がやりたいと思っていただけで、これがやりたいという明確なものはなかったのですが、何かしら専門的な知識を身につけたいという気持ちはありました。両親も、勉強したい気持ちがあるなら挑戦してみればと背中を押してくれました。大学院での研究は自らこれがやりたいと思って取り組んでいるところに違いを感じますし、日々楽しみながら研究しています。自分で実験の計画を立てて進めていくので、計画性も身についたと思います。これまで学んできたことを活かせる道に進みたいという目標ができたのも、学部の時からは進化していると感じます。

―今後の目標をお聞かせください。

 様々な用途に応用できるようにするためにも、基礎物性データを蓄積していくことは重要です。いろいろなイオン液体を組み合わせて、粘度とガラス転移温度との相関性を示すなど、物性を明らかにするとともに、相関式を開発することが目標です。将来、機能性の高い混合イオン液体をつくることにつながればいいなと思っています。

―ありがとうございました。今後、益々活躍されることを期待しています。

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