最新情報

土木工学専攻1年の土屋貴一さんが第57回地盤工学研究発表会優秀論文発表者賞を受賞しました

地盤防災を目的とした液状化現象の
再現実験の成果が高く評価される

 7月20日(水)から22日(金)に公益社団法人地盤工学会第57回地盤工学研究発表会が行われ、土木工学専攻博士前期課程1年土屋貴一さん(地盤工学研究室/仙頭紀明教授)が発表した「液状化後に発生する時間遅れを伴った流動変形の再現実験」が優秀論文発表者賞(地盤防災/液状化②セッション)を受賞しました。地盤工学会は、地盤に関する技術の進歩や技術者の資質の向上等を図ることを目的として1949年に設立された学会です。本研究は地盤防災を目的に液状化現象を明らかにするために行った卒業研究の成果をまとめたもので、流動変形を再現するという難しい実験に独自の手法で挑戦していることが評価されました。
 土屋さんの喜びの声と研究について詳しくお話を聞きました。

―優秀論文発表者賞受賞おめでとうございます。感想をお聞かせください。

 1年余り取り組んだ研究の成果ではありますが、評価していただけて大変光栄なことだと思っています。学会発表は2回目で、どちらもオンラインでの口頭発表でした。賞を取れるとは思っていませんでしたし、受賞の知らせが学会発表から約1か月後だったこともあり、あまり実感がないというのが正直な気持ちです。ご指導をいただいた仙頭先生のおかげであり、学部4年の時に一緒に研究をしていた仲間にも深く感謝しています。

―研究について詳しく説明いただけますか。

 地震によって地盤が液体状になる液状化現象が発生することがありますが、揺れの後に時間遅れを伴って流動変動し、建物に被害が出る場合があります。具体的には、1964年の新潟地震において、信濃川の川幅が約20m狭まったことで新設の昭和大橋が落橋しました。なぜ、そのような現象が起きるのかを解明するために、再現実験を行っています。地震の揺れが収まると地盤の流動も止まってしまうので、なかなか再現するのは難しいのですが、本研究では被圧に着目しています。

地震によって液状化現象が発生した場合、液状化層の上部が被圧して高い圧力が保持されて液状化した状態が続きます。ただし、土の詰まり具合である相対密度が高ければ高いほど硬い地盤であり、液状化が起こりにくくなります。そこで、相対密度をマイナス20%というかなり緩い状態の地盤をつくって、3つのケースで模型振動実験を行いました。

 全ケースで加振波は正弦波2Hzの最大加速度100galとします。難透水層はケース1で無し、ケース2,3で有り、波数はケース1,2で4、ケース3で2の条件とします。なお加振方向は斜面と直交方向としました。被圧状態を保つために、ポリエチレン製、厚さ0.015mmのビニール製の薄層を地盤の中に入れ、通水により地盤内を飽和させるために直径2mmの穴を30個設けて難透水層を再現しました。1のケースでは揺れが収まると地盤は動かなくなり、2のケースでは流動が激しく起こり、時間遅れの流動変形を再現することはできませんでした。3のケースでは、揺れの回数と時間を減らすことで目的とする再現に近い状況をつくることができました。難透水層が存在するとその直下地盤で高い被圧状態になり、流動変形が大きくなること、地盤傾斜による駆動力が残存している場合、時間遅れを伴った流動変形を再現できることを明らかにしました。

ケース3の実験終了時の変形状況(破線:加振終了時)

地盤の残留変位 ケース3(実線:実験終了後、破線:振動前、紫:地表面、緑:難透水層)

―どのような点が評価されたと思われますか。

 セッションごとに発表していたのですが、私のセッションには学生が一人だけで、他は企業の方でした。しかも発表の順番が最後だったので、とてもプレッシャーを感じました。でも、企業の方々は、これまで行ってきた研究の延長であるのに対し、この研究は新しいことに挑戦しているので、その点で評価されたのではないかと思います。誰もやったことのない研究に取り組めるのは面白いです。また、解析データについての質問がきましたが、仙頭先生に相談した際に想定された質問と同じ内容だったので、練習していてよかったと思いました。

―なぜ大学院に進学したのですか。

 もともと地盤や地震に興味があり、3年の時のゼミナールで液状化に触れて面白かったのが理由の一つです。また、コロナ禍の影響で実験の授業があまり受けることができなかったため、このまま卒業してしまうのはもったいないと思い、大学院で勉強してから社会に出ても遅くはないと考えて大学院に進みました。4年の時は何もわからない状況で実験を行っていましたが、今はこうしたらいいのではないかと自分で考えられるようになったところは成長したなと感じます。人前で話す機会もなかなかないことなので、学会発表も貴重な経験になっています。

―今後の目標をお聞かせください。

 まずは本研究の再現性を高めることが目標です。現在、相対密度を0%にした状態の地盤をつくって、再現実験を行っています。また、実験で得られたデータを解析して定量化できたらと考えています。将来は、これまでやってきたことを活かせるように、地盤に関わる会社への就職を目指します。

―ありがとうございました。今後益々活躍されることを期待しています。

第57回地盤工学研究発表会優秀論文発表者賞はこちら