温かく支えてくれる人がいる福島だから
まちや人とつながり、やりたいことに挑戦できる。
『Chi 縁』(代表:建築学科 3年 永見政悟さん)は、建築学科の学生を主体に、地域の人々との交流の中でまちの魅力や課題を発見し、カタチだけのデザインに留まらない、「モノ」、「コト」の広義的なデザインをすることを目標に活動する団体です。空き家のリノベーションとストリートファニチャーを中心に、郡山市・福島県の企業とのコラボで様々な活動を展開し話題を集めています。北桜祭では、『Chi 縁』が制作した休憩所や、建築研究会と協働で制作した休憩所が、多くの来場者を和ませてくれました。単にものづくりを楽しんでいるだけではない、『Chi 縁』ならではの視点や考え方に共感する企業や高校などが増え始め、活動の場も広がっています。
代表の永見さんに、『Chi 縁』の活動について詳しくお話を聞きながら、その魅力に迫りました。
―まずは、『Chi 縁』を立ち上げた理由をお聞かせください。
私は大学に入ってから、いろいろなプロジェクトに関わってきました。やりたいことに挑戦できれば、多くの学生が福島県での学生生活を楽しむことができると思い、2年の時に本当の意味で学生が主体のチーム『Chi 縁』を立ち上げました。「都会と比べて福島県には何もない」という人がいますが、それはちょっと違うと思うんです。私もコロナ禍で入学したので、なかなか外部と交わることができない状況でしたが、建築を学ぶには建築を使う人のこともよく知るべきだと思いました。そして、地域コミュニティに身を置くために地域消防団に入りました。福島県だからできることを経験すれば、その印象も変わるのではないかと思っています。大学生もまちと関わって、やりたいことができればきっと楽しくなって、福島県に対する印象も変わってくるはずです。ただ、まちの中でやりたいことをやるためには、大人のサポートも必要ですし、社会的な責任も出てきます。活動自体の社会的意義も必要になるでしょう。例えば、空き家のリノベーションをやりたいと思っても、自分たちの力だけでできるものではありません。大人のサポート、つまりは地域の縁があってできるもので、その縁は活動を楽しくするはじまりになると思っています。
そして、私たちが地域に入り込んでつくった建築から地域とつながり、縁が生まれていく。そうすることで、私たちから見えるまちが変わり、まちが違って見えてくるのではないかと考えました。そこで、地域の縁と、知人の縁と、置く物で縁をつくる、それが重なり合ったところから知識にする「知 en」という考え方を基に、空き家のリノベーションとストリートファニチャーを軸にして、カタチのデザインにとどまらない、建築と人との間に生まれる「コト」・「仕組み」のデザインから地域に入り込むというスタンスで活動を展開しています。また、まちのことをデザインの力で知ってもらうという観点から、産業ロスに対する取り組み「SS01(アップサイクル)」 も進めています。
―具体的にどんな活動をしているのですか。
現在は、「まちのたまり場(子ども食堂)」オープンのための空き家のリノベーションを行っています。敷地のもつ可能性や子ども食堂の課題などの分析を行い、子どもたちにとって楽しい居場所、まちのたまり場として機能することで本当に必要としてる子たちにも届くという考え方をもとに、オーナーさんと一緒に進めているところです。また、子どもたちや地域の方々と一緒にこの場所をつくり上げるために、施工を段階的に進めて、定期的にワークショップを開催しています。子どもたちとその空間のインテリアをつくったりしています。もちろん、子どもたちの手で基地をつくり上げるように思い入れをつくることが目的ですが、私たち自身が頭の中で施工とワークショップをいったりきたりするのを繰り返しながら、子どもたちや地域の方々と時間を共有することで、本当につかわれる空間を設計することも目的です。そしてこのプロジェクトでも大工さんや建築家の方など、あえて様々な大人に関わっ ていただきサポートしてもらっています。一人の大人に頼るのではなく、いろいろな方に支えてもらいながら、あくまでも自分たちが主体となって進めている点が『Chi 縁』の特徴でもあります。また、私たちの活動に共感し、企業から協賛をいただいて活動することもあります。活動への支援を求めるだけではなく、直接伺って、まずは相手のことをよく理解した上で、自分たちがどんなことを考えてやろうとしているのか、どうして支援してほしいのか、なぜその企業に支援してほしいのかをお伝えし、協力を得られるように進めています。
―北桜祭で設置されていた休憩所も『Chi 縁』で制作されたそうですが。
はい。もともと建築研究会と共同で3つのストリートファニチャーを制作する予定でしたが、それに加えて北桜祭実行委員会から設計を依頼され、『Chi縁』として2つの休憩所を製作しました。「ひとまくプロジェクト~人を巻き込む、一幕。~」と題して、作品が意図して設計段階で描いた「ひと」と「ストリートファニチャー」の間に生まれる物語が、人々を巻き込みながら、滞在や交流を通じて一幕を生むデザインをすることを大切にしました。そのテーマをそれぞれのモノが体現するために、場所の魅力、地域コンテンツ、ロハスといった様々な視点で取り組みました。またそれとは別に、北桜祭は2日間の短期イベントで、その場限りになってしまうので、その後の活用法も考えています。『Chi縁』 単独で制作した「床組茶室」は、今、私たちが行っている「まちのたまり場(子ども食堂)」オープンのための空き家のリノベーションでやってきたことを魅せることと、上手く絡めてウッドデッキにコンバートできるように制作しました。床の構造がむき出しになっていて、どこでも自由に座れる休憩所になっています。実は、みなさんの自宅の家の構造がこうなっていることも魅せたかったというのもポイントです。
もう一つ制作した「名前のない休憩所」は、あえて用途を決めないで自由にイスとしてもテーブルとしても使えるようなさまざまなボリュームの立方体のボックスを設置しました。例えばイスが4つある空間にも、テーブルが2つでイスが2つある空間にもなれることは空間を豊かにすると思ったからです。この立方体は、子ども食堂の棚に転用されることを想定して設計しています。これらの木材は、いろいろな事業所の倉庫や作業現場で余った木材などをいただいて制作しています。また、インテリアとして置いた一輪挿しはいろいろな産業のロスで制作したものです。木材は、私たちの作業現場や工業団地の廃材となっ た木製パレットをきれいにカンナ掛けしたもの、金物は施工会社が現場で余らせていたもの、お花はお花屋さんでフラワーロスとなるものです。パーテーションも霊園で捨てられてしまうお花を使用しました。
―「廃材で作る一輪挿し作り体験」を『魅力発見!こおりやま』のイベントで実施しましたね。
郡山青年会議所からお声掛けいただいて、10月16日(日)に行われた『魅力発見!こおりやま』のイベントにも参加させていただくことになりました。企業と一緒に企画した「廃材で作る一輪挿し作り体験」は、様々な産業ロスをひとつのカタチにしたプロジェクトです。私たちのコーナーには150人ほどの方がいらっしゃってくださり、一輪挿し作りを楽しんでいただきました。この取り組みは SDGsの観点から同様の課題を抱える企業や、多くの高校に興味を持っていただいています。実際に郡山北工業高校の文化祭で「廃材で作る一輪挿し作り体験」のワークショップが開催されました。私たちの考え方やデザイン、企業とのコラボのやり方などをお伝えしましたが、考え方や大切にしていることを広めていくのも大事かなと思っています。
―今後、『Chi 縁』をどのように発展させていきたいと考えていますか。
現在は、幹部10人、お手伝いをしてくれるメンバーが10人ほどいて、活動の都度お手伝いをしてもらっています。ほぼ、建築学科の学生ですが、やはり、空き家のリノベーションをやりたいという後輩が多くいます。後輩たちがやりたいことに挑戦できる環境をつくるためにも、各プロジェクトを責任もって遂行していくことが大事だと思っています。いろいろ活動を始めるには最初が大変ですが、プロジェクトを成功させて後輩たちに繋いでいけるようにしたいですね。やりたいことをやる。それを一番大事にして、自ら学びのフィールドを切り拓いていく。私たちが「0」を「1」にして、それを後輩たちに「10」や「100」に展開してほしいと思っています。こうした活動も福島でなかったら、できていないと思いますし、私自身いろいろな方に支えられ、まちに育ててもらってい ると感じています。これからも人との縁を大事にして、地域とともに歩んでいきたいと思います。
―ありがとうございました。今後益々活躍されることを期待しています。
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