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建築学科卒業生の吉田奈未さんが日本インテリア学会『第29回卒業作品展』で優秀作品賞を受賞しました

インテリアと一体となった新しい街への衣替えを提案した作品が高く評価される

 この度、日本インテリア学会 『第29回卒業作品展』において、2021年度建築学科卒業の吉田奈未さん(建築計画研究室/指導教員:浦部智義教授)の作品『布降る街、商いを導く知との邂逅 ―ファッション的な空間構成―』が優秀作品賞を受賞しました。この作品は、学部4年の卒業設計で取り組んだもので、学内の卒業設計優秀作品10点にも選ばれていました。その中で最もインテリアの要素を建築空間に上手く取り入れた秀逸なデザイン性から、日本インテリア学会第29回卒業作品展に出展され、国内の大学を主とする全国48の教育機関の代表作品が出展する中で、見事、最優秀に次ぐ優秀作品賞に輝きました。街の特性を建築化するような手法で、インテリアと一体となった新しい街への衣替えを意識した作品で、繊維問屋街、街なかの卸売団地の更新を、建築のファッション性の可能性に絡めて表現した点が高く評価されました。

 現在、株式会社シー・アンド・スタイル設計部に勤務する吉田さんの喜びの声とともに、作品について詳しくお話を伺いました。

―優秀作品賞受賞おめでとうございます。感想をお聞かせください。

 受賞の知らせをいただいた際は、大変驚きました。8月末にインテリア学会に向けてプレゼンボードを仕上げていた時も、学生時代にまとめ切れなかった考えやアウトプットしきれなかった表現にぶつかり、これでいいのだろうかと悩みながら提出したので、受賞できたことは想定外でした。学生の時の積み重ねが社会人となってから評価されたことを大変嬉しく思いますし、今後の励みにもなります。

 また、浦部先生には、卒業設計時はもとより、今回の出展に当たってもエスキスでたくさんご指導いただきましたし、辛い時に励まして引っ張ってくれた友人や後輩、相談に乗ってくれた先輩方など、本当にたくさんの方に支えていただいたので、感謝の気持ちでいっぱいです。研究室の仲間や後輩たちは、私が最後まで悩みながら作品に取り組んでいたのを見ていたので、受賞のことを知らせたら「よかったね!」と大変喜んでくれました。模型作りに携わってくれた後輩たちは、今、卒業設計で頑張っているところなので、今度は私が励ましてあげたいなと思っています。

―作品について詳しく説明いただけますか。

 この作品は布をテーマにしています。近年、建築プロジェクトの中で建築家と布をデザインするテキスタイルデザイナーがコラボして注目されてるような建築が多いと感じていました。そうした中で、私は布の空間性を活かした都市空間を提案したいと考えました。選定した敷地は、布やファッションの卸問屋が軒を連ねる「仙台繊維街」です。エスキス時に色々相談して、そこに敷地を絞ったのですが、そこを丁寧にリサーチしてみるといろいろな課題があることがわかりました。

まずはハード面の問題です。「仙台繊維街」がある卸町が整備されたのは40年前のことで、現在は建物の老朽化が進み、それに伴って企業の流出が目立つようになりました。そして、ソフト面の課題もあります。ネットショッピングが拡大した今、繊維問屋にも企画力が求められる時代。そこで「仙台繊維街」もクリエイターと新しい商品の起案に取り組んでいるのですが、既存の仕組みもあり、クリエイターが伸び伸びと活動できる基盤を築けていないという課題です。

そこで、繊維街としての機能を失いつつある状況下で、私は街の特性である布を表面に出しつつ、個々の問屋とクリエイターが出会い協働できる卸町全体のプラットフォームになるような建築を提案したいと考えました。新たな開発などで外的要因が増えない様にすることをイメージし、空き地を利用して4つの建築を計画しました。それらは卸町駅から繊維街を縫うように、新たな軸(街のランウェイ)を形成します。



 1つ目の敷地では、卸町駅から見て一番の顔となる街区にあるデザイナーのプラットフォームです。ファサードに布をかけるフレームを設置しているのが特徴で、歴史ある卸町のボリュームを引き継ぎつつ、自由な建築操作を可能にするファサードをメイン通りに配置しました。ファサードのテキスタイルを状況に応じて開閉することで、内部空間が持つ自由な方向性を保ちながらフォーマルな街並みを演出したり、内部の活動を見せることが可能になっています。

 2つ目は、建物の老朽化が進む繊維街における受け皿となる、繊維街の新陳代謝を促すための問屋の賃貸テナントです。各問屋が建て替えを進めていくために、一時的に入居できる賃貸テナントとショールームを設けて、繊維街の機能を維持しつつ、タイミングに応じて建て替えを進めていきます。問屋の中の事務所や倉庫、ショールームなどの機能を大きな敷地にそれぞれ分解することで、余剰スペースを各問屋がシェアして使えるようにしています。

 3つ目の建築は、卸の売り方に付加価値をつけるために布の研究をするテキスタイル研究所や商品を宣伝するための素材を作る撮影スタジオなどのメディアファクトリーです。内部空間においても布で仕切っているのが特徴で、撮影スタジオの使用時開け、使用時外は開けるなど、布の可変性を生かした空間にしました。

 4つ目はクリエイターのためのシェアハウスです。現在、この街には居住の施設がないため、夜間は誰もいない街になります。卸町を拠点とするクリエイターのためのシェアハウスをつくることで、街の活気に繋げられるのではと考えました。居住空間においては、建物の外部にカーテンレールを配置し、動線を引き込みつつ都市空間と個人空間を緩やかに区切ることで、動線と視線を操作します。布は室内に飾るものと思われていますが、ここでは建築の外に配置することで、プライベートな空間と街の抜け道になる通りを区切ってプライバシーを確保しつつ、街の特色である布を使い繊維街の更新を建築のファッション性の可能性に絡めて表現しました。

 なお、この作品をまとめるにあたり、仙台卸商センターや「So-So-LAB.」の方、そして浦部先生からご紹介頂いて、この地域にある文化創造拠点「10-BOX」のプロジェクトに関わった方にお話を聞くなど、様々な人と関われたことは大きな収穫でしたし、この作品に大きく影響していると思います。

―どのような点が評価されたと思われますか。

 コンクールの主旨からして、ある意味、インテリアと建築の境目がなく、つまり、内部と外部の区切りも曖昧で、自由に区切ったり囲ったりできることで、この街に必要とされる人の行動をより促していくような空間づくりをしている点が評価されたのではないかと考えています。学内の卒業設計の際の講評では、「商店街ではなくて、卸商団地のリノベーションをテーマにした着眼がよい」「対象地域を詳細に調べて、都市の更新の問題を商いも含めて解決しているプログラム力が素晴らしいと」など、作品の一つの柱でありますが、どちらかと言えば布の空間形成に対するものではなく、街の課題にどう応えているかを考えている点が評価されていたように思います。ですので、今回の受賞で、もう一つの柱である「空間づくり」という視点で評価していただけたとしたら、取り組んだ卒業設計を多くの方に理解して頂けて大変嬉しく思います。

―なぜ建築の道に進んだのですか。

 もともと祖父が大工をしていたこともあり、幼少期から積み木で家を作ったり、絵を描いたりすることが好きで、中学生の時に建築を学びたいと考え工業高校に進みました。大学に進学し本格的に建築を学ぶと、図面を書く技術や一つの建築としてまとめることはもちろんですが、まちや地域に対してどうアプローチするのかといった考え方を学び、ただ建築をデザインするだけではなく、街の課題にどのような建築で応えていけばいいのかをソフトとハードの両面から考え、プログラムを組み立てるようになりました。特に浦部先生の研究室では、建築について仲間と意見を交わす場面が増え、様々な考えに触れるうちに視野も広がりました。おそらく、そういうプロセスがなければ、卒業設計のような提案もできていなかったと思います。

 企画設計の仕事に就きたいと考え、現在の会社に就職しました。今は、敷地に対して周辺状況や法規制を調査し、事業性を含めてどのような建築を建てるかの検討、それからプレゼンテーションのためのモデリングやパース作成などの業務を行っています。やはりスピード感が学生の時とは違い、毎日毎日提案をまとめていくのは大変ですが、忙しさの中に身を置くのは苦にならないというか、むしろ自分に合っているなと思います。これまで建築士や宅建の勉強もしてきましたが、まだまだ知らないことがたくさんあり、吸収しながらどんどん成長している自分がいて、やりがいを感じます。プロジェクトの方針を考える企画段階の提案は自分のアイディアを盛り込みやすいので、早く一人前になり自分らしい提案をしてそれを実現させていくのが目標です。その先にあるのは、地元福島県に貢献したいという思いです。将来的には、今回の提案の様な、より多くの人に使ってもらえる様な空間をつくるプロジェクトに関われるデザイナーを目指して、頑張っていきたいと思います。

―ありがとうございました。今後益々のご活躍を祈念しています。

現在、本作品は秋田銀行郡山南支店に展示されています。

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