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建築学科の浦部智義教授をリーダーとするプロジェクト『スマート・ウェルネス・タウン・ペップ・モトマチ』が2022年度グッドデザイン賞を受賞しました

サステナブルな建築デザインとそこを拠点とした健康まちづくり活動が高く評価される

写真左から早川真介さん(工学部客員研究員)、浦部智義教授、菊池信太郎医院長、髙木義典さん(工学部研究員)

 この度、建築学科の浦部智義教授をリーダーとするプロジェクト『スマート・ウェルネス・タウン・ペップ・モトマチ』が、2022年度グッドデザイン賞(公益財団法⼈⽇本デザイン振興会主催)を受賞しました。今年度のグッドデザイン賞は、分野や領域を超えて⼈々の「意志」を互いに交わして、影響を与え合うことで新たな可能性を⾒出していく「交意と交響」をテーマに行われ、本プロジェクトの建築デザインやそこを拠点とした開かれた健康まちづくり活動が評価されました。『スマート・ウェルネス・タウン・ペップ・モトマチ』は、元気な子どもを中心にした健康まちづくり推進プロジェクトで、医療法人 仁寿会と工学部との産学協働でロハス工学の概念に基づいた計画を行ない、2020年に菊池医院を、2021年に付帯施設である山口薬局をリニューアルオープンしました。既存の医療関係施設に留まらない建築・場づくりと施設運営を目指し、地域医療と工学を融合させた健康で持続可能なまちづくりに貢献しています。グッドデザイン賞でも評価された縦ログ構法や震災時の木造仮設住宅の再利用、また郡山市内にコミュニティの核となるこどもの居場所を創出する診療所と薬局を実現した取り組みについて、プロジェクトに貢献した本学の卒業生・現役学生の視点を交えて紹介します。

「木」による新しいロハスの建築

―縦ログ×小児クリニック

 新診療所は、ロハス工学の一つの柱であるサステナブル性を意識して開発された新しい木構法『縦ログ構法』で建築されています。『縦ログ構法』とは、角材を一定の大きさに切り揃えて接着剤を使わずに金物で結束し、木の壁(パネル)をつくる構法です。通常の丸太組(ログ)構法にはない新しい空間をつくることができます。このパネル一つで構造材、内外装材、断熱材の役割を果たすこともできる多機能材であり、日本各地の山林に豊富に存在する木々をその地域にある製材所で加工・出荷することができるパネルのため、地場産業としての広がりもあります。浦部教授も参画する『縦ログ構法研究会(特定非営利法人 福島住まい・まちづくりネットワーク内)』が、その開発と普及活動を行っているほか、建築計画研究室(浦部智義教授)卒業生で客員研究員の渡邉洋一さんが実働の中心となり、様々な実験や試験を実施し、この構法の可能性を広げています。

福島県林業研究センターでの壁面内せん断力試験

新診療所工事での縦ログパネルの設置風景

―木造仮設再利用×薬局

 浦部研究室卒業生で客員研究員の早川真介さんは、『スマート・ウェルネス・タウン・ペップ・モトマチ』のメンバーとして、菊池医院の新診療所の設計とそれに先駆けて行われたワークショップを担当した。クリニックのスタッフの要望や意見、課題を取りまとめ、スタッフや患者さんの動線計画やフリースペースの活用の仕方などを検討し、平面計画に連動した木製の家具の配置や製作なども時間をかけて議論するなど、丁寧に建築をつくる良い経験になったと言います。さらに、まちの中で、開かれたクリニックと薬局がどうあるべきかを皆で考えた結果、クリニックらしくない建築デザインを目指したほか、子どもの遊び場を設けることにもなりました。薬局は、東日本大震災後に、浦部研究室で建設に関わった福島県内のログハウス型仮設住宅で使用されていた木材を再利用して建てられていますが、早川さんはその当時大学院生として、その仮設プロジェクトに関わり、修士論文ではその研究も行いました。「実際にその木材が再利用されている現場に関わることができたのは感慨深かったです。様々な立場の人が関わっているプロジェクト。関係者の協力し合う気持ちと努力が実り、その一人として受賞できて大変嬉しく思います。メンバー皆で目指した、クリニックらしくない建築、まちに対して菊池医院はじめプロジェクトチームの活動が見える建築であり、その使われ方も含めて評価されたことは良かったと思います」と感慨深げでした。

まちに開かれた木質空間の菊池医院景

仮設住宅をまちなかに移設再利用した山口薬局(2階建)

様々な人が関れる開かれた場・建築空間が、まちの価値を高めていく

菊池医院を対象とした研究を進めている霜鳥奈夏子さん(左から2番目)と奥山翔太さん(右から2番目)

―分野横断型ワークショップ&ものづくり

 薬局の広場(駐車場)にある歩道は遮熱性舗装になっており、横断歩道もあります。これは、土木工学科の構造・道路工学研究室(岩城一郎教授・前島拓専任講師)で研究開発した『ロハスの舗装』で、同研究室の学生たちの手で設置されたものです。そのほか、同学科の環境生態工学研究室(中野和典教授)の『ロハスの花壇』を大学内から移設したり、浦部研究室の学生が仮設住宅から再利用した木材を研磨したり、木塀の製作にも携わりました。これら学生が関わるワークショップやものづくりをガイドしているのが、浦部研究室卒業生で研究員の髙木さんです。また、現役の大学院生で浦部研究室の奥山翔太さん(建築学専攻博士前期課程2年)は、その木塀づくりのワークショップで実働したほか、現在、前述の早川さんから始まった仮設住宅の研究を引き継いで行っています。その研究では、ログハウス型仮設住宅の実態を追う中で、建築主が再利用を行った動機やその評価を調査し、今後の仮設住宅再利用の指標となるデータの構築を目指しています。奥山さんは、「社会実装に関われることは、学生ではなかなかできない経験。やりがいがありましたし、完成した時は達成感も感じました。それも評価の一部になっているとしたら、とても嬉しいです。これから実際に仕事に就いた時、この経験を活かしていけたらいいなと思います」と将来を見据えていました。

移設再利用した仮設住宅の木材を磨く現役の学生たち

建築学科の学生が製作に関わった木塀と土木工学科の学生が実装に関わった遮熱舗装

―健康まちづくり&子育て支援

 菊池医院の1階には待合と連動したどこでも本が読めるこども図書スペース、2階にはイベントスペースや病児保育スペースがあり、 「まちの保健室」として気軽に健康相談や、地域の人が立ち寄れるような場所を設けています。また、敷地内の広場スペースを活用し、薬局と連動した健康イベントを行うことで、まちなかの健康サポートの中核となるエリアづくりを目指しています。そうしたイベントのお手伝いをしているのが、建築・地域計画研究室(宮﨑渉専任講師)の現役の大学院生である霜鳥奈夏子さん(建築学専攻博士前期課程1年)です。霜鳥さんは菊池医院で行っている病児保育の実態についての調査研究をしています。働くお母さんのために、病気になった児童を一時的に預かる病児保育は、病院に併設されていることが多く、菊池医院は郡山市内で最も多くの子どもたちを受け入れています。その運営の仕方や保育室の環境、スタッフの働きやすさなど、様々な視点から病児保育の在り方を探っています。「木のぬくもりを感じられる解放感のある空間は、安心感があり、子どもたちに良い印象を与えていると感じます。お母さん方にとってもイベントを通じてコロナ禍のストレスを解消できたり、子育ての悩みを相談したり、必要な場所になっていますし、まちの活性化まで考えた病院づくりをしていることは素晴らしいと思います」と話す霜鳥さん。菊池医院に何度も足を運んでいる中で、建築と人の関わりについても学んでいるようです。

英語や科学など子ども向けイベントの
お手伝いをする霜鳥さん

病児保育スペース(撮影:早川真介さん)

 学生たちのワークショップや研究フィールドとしても大いに活用されている『スマート・ウェルネス・タウン・ペップ・モトマチ』。髙木さんは、「大学以外での学びも学生にとっては大切なことで、こうしたフィールドワークによって建築が地域の人々にどのような影響を与えているのかを実感できます。プロジェクトを通して学生の有意義な経験の場を増やしていければ」と考えています。更に、「建てて終わりではなく、様々な人が関わって活動していることなど、ソフトも含めた持続可能性がこの建築の価値を高めている」という見方をしています。 かつては、旧街道や駅近くとしての賑わいもあったが、時が過ぎ、再び活性化が望まれる本町。新たなまちづくりの拠点を目指す本プロジェクトの「活気に溢れていた頃の本町を、また違った形で現代に合わせて取り戻したい」というプロジェクトメンバーの思いを形にした木のあらわしや開放性が、今まさにまちの表情を変えようとしています。 浦部教授は「このプロジェクトは、菊池先生も含め、関係者の皆で色々と知恵を出し合った結果、新しいロハスの建築デザインが表現でき、それを評価して頂いたことは、関係者のみんなでの喜びです。また、これからの診療所やまちなかの建替え・更新といった視点で見ると、研究対象としても面白い気もします。仮設住宅の移設再利用も、単に震災復興と関連付けるだけではなく、一般的なリユースとして見れば、違った可能性を生むかも知れません。また、非日常性を味わえる大きなイベントも大事ですが、時と場所によっては、手作りでできる催しなど、日常の延長線上にある様な身近なイベントで小さな変化を継続していくことが、活性化には大事かも知れません。菊池医院や山口薬局が医療施設としてだけではなく、日常的に地域の人々が関わり活動できる拠点であり続けるように、今後も、関係者の方々はもちろん、卒業生や現役学生とともにプロジェクトを少しでも推進できれば」と考えています。  グッドデザイン賞受賞によって『スマート・ウェルネス・タウン・ペップ・モトマチ』に注目が集まる中、もとまちを動かす推進力となるように、プロジェクトの更なる発展にも期待が高まっています。

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