骨腫瘍治療に役立つ薬物キャリアの開発研究が高く評価される
9月17日(土)、18日(日)に公益社団法人日本化学会東北支部令和4年度化学系学協会東北大会(盛岡大会)が開催され、生命応用化学専攻博士前期課程1年の山本真大さんが優秀ポスター賞を受賞しました。会員約3万名を擁するわが国最大の化学の学会である公益社団法人日本化学会。本大会はその東北支部が主催するものです。生体材料工学研究室(指導教員:石原務教授)に所属する山本さんが発表した『骨ターゲティングを目指したペプチド修飾ポリ乳酸ナノ粒子の開発』は、高分子化学/繊維化学分野での受賞となりました。本分野では33件の発表のうち3件が優秀ポスター賞に選ばれています。
山本さんに受賞の喜びと研究について詳しくお話を聞きました。
―優秀ポスター賞受賞おめでとうございます。感想をお聞かせください。
初めての学会発表での受賞に、最初は大変驚きました。実は学会前に石原先生に発表練習を見ていただいたのですが、上手く言葉で説明ができなくて焦りを感じました。準備は十分とは言えなかったのですが、事前練習のおかげもあり、持ち前のプレゼンテーション力を駆使して、なんとか発表を乗り切ったという感じでした。だから、受賞できて大変嬉しいです。学会に出るからには、賞を取りたい気持ちはあるので、結果を残せてよかったと思います。
―研究について詳しく説明いただけますか。
私たちの研究室では、DDS(Drug Delivery System)の研究に取り組んでいます。DDSとは既存の薬物に加工や修飾を施すことでその治療効果を向上させる技術のことです。例えば、投与された薬物は通常体内の病変部位以外にも拡散してしまい副作用が出てしまうこともありますが、DDS技術を使うと薬を体内の病変部位に集中して届けることができるので、副作用を軽減することができます。その中で私は、骨腫瘍や骨粗しょう症といった骨疾患に対して、よりよく薬を届けるための薬物キャリアの開発を行っています。本研究では、まず骨に結合しやすい物質を見つけることから始めました。実験では人工骨に使われる同成分の粒子を使いました。一粒150~200ナノメートルの超微粒子の生分解性ポリマーに抗がん剤の薬を混ぜ合わせると、ナノ粒子が抗がん剤を覆ってカプセル化します。生分解性ポリマーは体内に入ると粒子が分解され、放出された抗がん剤が骨に届く仕組みになっています。ただし、体内に入った際に、細胞を越えて骨に届くようにしなければなりません。実験の結果、ナノ粒子に対してペプチドを付与することで、細胞に取り込まれず骨に結合しやすいことがわかりました。
―どのような点が評価されたと思いますか。
ポスター発表の際には、他分野の方が多く聞きに来られていましたので、わかりやすく説明することが求められました。また、同じナノ粒子の研究をされている大学の教授からナノ粒子の作製方法についてご指摘をいただいたり、細胞に取り込まれないようにする方法についての質問などもありました。上手くコミュニケーションを取りながら、自分の考えを伝え、質問にもしっかりと答えられたのが良かったと思います。高分子分野ではこうした医療系の研究例は少ないので面白いと思っていただけたのではないでしょうか。
―大学院に進学した理由をお聞かせください。
大学に入学する前からずっと、この研究室に入りたくて、入ることができたら大学院まで行こうと思っていました。生まれつき皮膚が弱くて薬を使っていたこともあり、小・中学校の頃から薬に興味がありました。将来は薬関係の仕事に携われたらいいなと思っていましたが、薬学より工学からのアプローチの方が面白そうだと思ったことや教員の免許も取りたいと考えて、いろいろ選択肢が広がる日本大学工学部を選びました。実際にこの研究室に配属となり、益々研究への興味が深まったこともあり、入学当初の想いのまま必然的に大学院への進学を決めました。日々実験結果を石原先生に報告してご指導していただきながら、自分自身でも考察して答えを導き出していく大学院での研究活動はやりがいがあり、とても充実していています。
―今後の目標をお聞かせください。
骨に結合しやすいナノ粒子を確立することができたので、今後はその粒子の中に薬物を入れて、実際に骨に結合した際にどのように作用するのかを研究していく予定です。しっかり骨に届いているか検証できる方法の確立も目指していきます。そして将来は、薬や化粧品などの開発に携わるようになりたいと思っています。
―ありがとうございます。今後益々活躍されることを期待しています。
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