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建築学科の鉄筋コンクリート(RC)構造・材料研究室の学生4名が日本建築材料協会優秀学生賞を受賞しました

建設業界の課題解決に向けた最先端建設材料の研究開発が高く評価される

 この度、建築学科の鉄筋コンクリ―ト(RC)構造・材料研究室(指導教員:サンジェイ・パリーク教授)の大越康貴さん(当時学部4年)、河合奎亮さん(当時学部4年) 、川崎浩長さん(当時博士前期課程2年)、國井弘樹さん(当時博士前期課程2年)が、一般社団法人日本建築材料協会優秀学生賞を受賞しました。この賞は、建築材料を主として勉学する大学院生、大学生および専門学生等に対し建築材料の普及啓蒙に努めるため、建築材料の調査研究、新たな開発および発展に寄与した学生を高く評価し、優秀な人材の育成を応援することを目的としています。同じ研究室内から4人の学生が選ばれることは稀で、快挙と言えます。鉄筋コンクリ―ト(RC)構造・材料研究室では、最先端建設材料や耐震技術などの研究開発を行っています。

 まずは、パリーク教授に研究の背景と現在取り組んでいる研究についてお話を伺いました。

“福島から世界へ”、持続可能な社会形成への貢献を目指して

 建築分野のCO2排出量を削減しようとする動きが活発になりつつあります。環境汚染の問題解決に向けて、建設材料や技術が果たす役割は重要です。私たちの研究室では、環境負荷を軽減し、「持続可能な社会形成」への貢献を目指して、自己修復機能型コンクリートやジオポリマーといった最先端建設材料や技術の開発など、様々な角度からアプローチしています。


【主な研究テーマ】

  • 自己修復機能型(インテリジェント)コンクリートの研究開発
  • ジオポリマー(セメント未使用)コンクリートに関する研究開発
  • 建築用内・外装材料の防耐火性能の評価に関する研究開発
  • 超高強度コンクリートの研究開発
  • 高密度コンクリートの遮蔽性能に関する研究開発
  • 長・短繊維によるコンクリート構造部材の補強工法の研究開発
  • インドのCO2排出量削減を目的に未利用資源を有効利用した無焼成レンガに関する研究開発
  • インドの歴史的構造物及びインド住宅に関する調査研究

 現在、行政や民間企業などと連携し、福島県内の新規トンネル工事やプレキャストコンクリート製品での自己修復コンクリートの技術検証を計画しています。国内での実用化だけでなく、世界規模で広く普及させることが目標です。自己治癒・自己修復コンクリートのほか、相変化材料の建築材料への応用や福島の技術開発からインドへの無焼成レンガ導入の提案を進めており、SDGsの達成に向けた持続可能性という視点でも大きな意義があると考えています。
 建設材料に関する「福島発」の技術を世界に広げ、SDGsへ貢献しているという使命感を持ち、今後も研究に従事してまいります。

 それでは、4名の学生の喜びの声とともに、研究内容について詳しく紹介いたします。

大越 康貴さん
(2021年度建築学科卒業)

『各非破壊検査法による自己修復コンクリートのひび割れ修復度の評価』


 RC構造の弱点であるひび割れに対処しようと考え出されたのが自己修復システムです。まず、コンクリート中にネットワークと呼ばれる細孔を設けて修復剤を充填します。ひび割れ発生後、次第に漏れ出した修復剤がひび割れ中に充填され硬化することでコンクリートの強度を回復し、更に水分や塩分の侵入を防ぐという仕組みです。既往の研究では曲げ強度試験及び非破壊検査のひとつである超音波伝搬時間の測定により、自己修復システムによるコンクリートのひび割れ修復の評価を行ってきました。本研究では更に2種類の非破壊検査を行い、それぞれの有効性を検証して、修復度評価手法の幅を広げることを目的としました。
 データのばらつきに差があるものの、3種類の非破壊検査はいずれも自己修復セメントモルタル梁の修復度評価に有効であることが分かりました。そのうち、共振振動数測定による非破壊検査の標準偏差は最大で6%ほどに留まり、3種の非破壊検査法の中では最もデータのばらつきが小さいことが分かりました。この新たな測定方法の検証により実用化に寄与できたことが評価されたと思います。最先端の研究に携わっていたので、毎回新鮮な発見があり大変有意義でした。


修復剤注入

曲げ強度試験

非破壊試験

河合 奎亮さん
(2021年度建築学科卒業:現建築学専攻博士前期課程1年)

『脱炭素社会の実現を目指した二酸化炭素固定化コンクリート(CCC)及び無焼成レンガの開発』


 地球温暖化対策のひとつとして、火力発電所などから排出されるCO2を回収し、コンクリートに固定化させる技術が注目されています。コンクリートが硬化する過程でCO2を取り込ませたり、硬化後に固定化させたりする技術で、現在、当研究室では企業と共同で開発を進めています。本研究では、高圧注入装置を用いて、効率的なCO2固定化の条件について検討を行いました。結果、CO2注入圧力が高いほど、また、注入時間が長いほど固定化が促進することが分かりました。
 更に、焼成レンガ製造過程で大量に排出されるCO2の削減を目的とした無焼成レンガ製造に関する研究にも取り組みました。火力発電の副産物であるフライアッシュを多量に使用しているため、環境にやさしいレンガです。工場で作製したレンガに対して当研究室で強度低下の確認を目的とした乾湿繰返し試験や圧縮強度試験を行いました。その結果、全てのレンガにおいて作製直後からIS 規格を満たし、養生することでJIS規格も満たすことが分かりました。どちらの研究もSDGsに貢献できることが評価されたと思います。環境問題解決に役立つ研究ができることに魅力を感じています。大学院に進学し、更に研究を深めていくことはもちろん、建築士の資格を取得したいと思っています。


高圧注入装置

CO2を固定化し中性化が促進したコンクリート

無焼成レンガの乾湿繰返し試験 

川崎 浩長さん
(2021年度建築学専攻博士前期課程修了:現建築学専攻博士後期課程1年)

『コンクリートのひび割れの自己治癒を目的としたバクテリアの適用性に関する基礎的研究』


 本論文は、これまで行ってきたバクテリアによるコンクリートのひび割れ自己治癒の研究成果をまとめたものです。私が発案した円柱の型枠で試験体を保護する通水試験方法により、これまでよりも正確な実験結果を得ることができました。早いものでは3週間程度で修復しており、その有効性を明らかにしました。バクテリアを使うことによって、人の手を掛けずに自然に補修することができ、治癒することで水密性が回復し、劣化しにくくなることが大きなメリットです。
 学部の卒業論文でも同じ優秀学生賞をいただきましたが、大学院2年間の研究は学部1年間の時とは費やす時間や労力はもちろん、質も違いますので評価いただいたことを大変嬉しく思います。オリジナルの試験方法の開発に加え、社会が要請する建物の長寿命化や耐久性の向上に貢献する建築材料について検討した点が高く評価されたと思います。将来は大学教員となって教育・研究に携わることが目標です。博士後期課程ではバクテリアを用いた自己治癒コンクリートの研究だけでなく、様々な研究テーマに挑戦して、研究者としての実力を高めていきたいと考えています。


オリジナル試験法

バクテリアによるひび割れの修復の状況  

実験の様子 

國井 弘樹さん
(2021年度建築学専攻博士前期課程修了)

『ジオポリマーの建築物適用に向けた耐火性状の把握及び複合材料の開発を目的とした実験的研究』


 近年、地球温暖化対策として、建設業界でもセメント製造時に大量に発生するCO2の排出を抑制する取り組みが行われています。中でも、火力発電所で燃料を燃やした際に発生する産業副産物であるフライアッシュを使ったジオポリマーは環境にやさしく、耐火性に優れているという特長があり、次世代の耐火材料として期待されています。そこで本研究では、繊維を添加し機械的性能を向上させたジオポリマーモルタル加熱後の残存強度及び強度回復の検討として、曲げ強度を向上させた際の耐火性を調査し、更に耐火試験後の強度回復の評価方法として非破壊試験を提案しました。ジオポリマーモルタルは普通セメントモルタルと比較して耐火性に優れることを確認。強度回復については、400、600℃加熱後の供試体の回復の程度を把握することができましたが、800℃加熱後の供試体では回復は見られませんでした。研究を通して、調合や温度の変化でもコンクリートの性質が変わる面白さを実感しました。また、木材、ジオポリマーといった二つの環境負荷低減材料を使用した木質複合部材の開発にも取り組みました。研究の集大成に対し、このような賞をいただけて大変嬉しく思います。


加熱試験の様子 

ジオポリマーモルタル 

ジオポリマーを打設した木製梁

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