地球温暖化対策につながるイオン液体を利用したCO2吸収溶媒の研究が高く評価される
・10月2日(土)・3日に令和3年度化学系学協会東北大会(郡山大会) がWeb を利用したオンライン上で開催され、生命応用化学科4年の豊川茉那さん(環境化学工学研究室/指導教員:児玉大輔准教授)が優秀ポスター賞を受賞しました。本会は会員約3万名を擁するわが国最大の化学の学会である公益社団法人日本化学会の東北支部が主催するものです。豊川さんが発表した『イミダゾリウム系混合イオン液体のガラス転移温度』は、化学工学分野での受賞となりました。発表者のほとんどを大学院生が占める中で、学部生が受賞したことは快挙と言えます。
・豊川さんに受賞の喜びと研究について詳しくお話を聞きました。
大学院進学への大きな励みになりました
ポスター賞受賞おめでとうございます。感想をお聞かせください。
・ありがとうございます。学会で発表するのは初めての経験で、卒論の練習のつもりで参加しました。他の方の発表も聞けるのでデメリットになることは何もないと思っていましたが、ポスター賞に選んでいただき大変嬉しく思います。本当に参加して良かったです。大学院生の方が多く、英語でポスターを作成されていたり、レイアウトや色などポスターの見せ方についても学ぶことができました。また、深く掘り下げられた専門的な質問にもきちんと答えられていて、私もそうなりたいと思いました。来年、大学院に進学するので、実験の精度をあげて、学会発表の質疑応答への対応力も高めていきたいといったモチベーションにもなりました。
研究について詳しく説明いただけますか。
・当研究室では、深刻化する地球温暖化対策として、CO2をはじめとする温室効果ガスの回収技術について研究を行っています。中でも、電気を通すことができ、蒸発しないため人に害を与えないなどの利点を持つイオン液体に着目して、CO2吸収溶媒として利用できるイオン液体の開発に力を入れています。本研究では、比較的粘度が低い[Bmim][TFSA]:1-Butyl-3-methylimidazolium_bis(trifluoromethanesulfonyl)amideと比較的粘度の高い[Mmim][Me2PO4] 1,3-Dimethylimidazolium dimethylphosphateの2種類のイオン液体を混合したイミダゾリウム系混合イオン液体を使って実験を行いました。前者は水のようにサラサラした液体、後者は粘々している液体で、2つを組み合わせることにより粘性を抑え、利用しやすくすることが狙いです。まず、混合の割合を変えた3種類の混合イオン液体の密度・粘度を測定しました。さらに、粘度挙動を知るための重要なパラメータになるガラス転移温度を測定しました。水は温度が下がると結晶化し氷になりますが、イオン液体の場合は分子が不規則に並ぶ液体構造のまま硬質のガラス状態になります。このガラス状態になる温度がガラス転移温度です。これまでの研究では、混合イオン液体のガラス転移温度については、あまり調べられていません。様々な用途に応用できるようにするためにも、基礎物性データの蓄積は重要と考えて実験を進めました。結果、[Bmim][TFSA]組成の増加とともに密度の増加や粘度の低下が見られました。ガラス転移温度も計算値では粘性と類似する値だったので、実測値もそうなると思っていましたが、実際は異なる挙動が見られました。この結果は、以前、当研究室で行った実験データとも違っていました。想定していなかった結果になった要因については、現段階で特定することができませんでしたが、学会ではこの実験結果について報告しました。
研究がとても楽しくてやりがいを感じます
どのような点が評価されたと思われますか。
・ポスター発表はオンラインで行われ、審査員からの質疑応答もありましたが、イオン液体の研究そのものが珍しいようでした。発表を聞いてくださった方からは、どのような用途に使われているのか、組み合わせるメリットは何かなどについて質問されました。特に、混合イオン液体の粘度を測定したデータはあまりないため、そこに関心を持っていただいたようです。独創的な研究という点や今後の研究成果への期待も含めて評価されたのかなと思います。審査員の方から、「どんな結果になっても実験を楽しんで進めてください」とアドバイスをいただけたのも励みになりました。今回、発表用のポスター作成を通して、児玉先生(写真右)とディスカッションしながら、改めてこの研究の意義や実験内容について勉強することができました。一緒に研究を進めていただいている元東北大学の横山千昭先生(上席研究員:写真左)のお話も理解して吸収できるようになったのは、私にとって大きな収穫です。
今後の目標についてお聞かせください。
・今回、明確にできなかったガラス転移点の実験値と計算値との挙動の違いの要因や粘度とガラス転移温度の間に関連性があるのかを解明していきたいです。さらに、異なるアニオン構造を持つ混合イオン液体で実験を重ねながら、いろいろなイオン液体の物性を明らかにすることが目標です。将来、機能性の高い混合イオン液体をつくって、環境だけでなく様々な用途に活かせたらいいなと思っています。もともと実験が好きですし、この研究室では測定するだけでなく、自分でイオン液体を合成できるから、研究がとても楽しくてやりがいを感じます。大学院では、さらに研究に励み成果を出したいと思っています。