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情報工学専攻を修了した澁谷拡世さんが2021年度精密工学会春季大会学術講演会ベストプレゼンテーション賞を受賞

橋梁点検を支援する情報技術開発の研究が高く評価される

3月16日(火)から22日(月)に公益社団法人精密工学会主催『2021年度精密工学会春季大会学術講演会』が行われ、当時情報工学専攻2年だった澁谷拡世さん(生産システム工学研究室/指導教員:溝口知広准教授)が、ベストプレゼンテーション賞を受賞しました。精密工学会では設計・生産システム、精密加工、メカトロニクス・精密機器など「ものづくり」に関わるテーマを広範囲に探求しており、研究開発成果や製品群を発表し情報交換する場として、年2回学術講演会を開催しています。昨年の秋季大会からオンライン開催となりましたが、今回も431件の講演があり、活発な意見交換が行われました。その中で、41名がベストプレゼンテーション賞に選ばれ、澁谷さんはサイバーフィールド構築技術セッションでの受賞となりました。発表した『橋梁レーザ計測点群の部材別分解と3次元モデル構築手法』は、ロハス工学センタープロジェクトの『ロハスのドローンプロジェクト【橋梁点検チーム】』の研究成果の一つでもあります。
澁谷さんに受賞の喜びの声とともに、研究内容について詳しくお話を伺いました。

ドローンで取得した橋梁の画像から、点検の指標となるモデルを構築しました

ベストプレゼンテーション賞おめでとうございます。感想をお聞かせください。

就職後に受賞した知らせを聞いたので大変驚きました。学生生活最後の発表会で受賞したので、3年間の研究成果が評価され、実を結んだのだと実感できました。先生に論文や発表資料の添削をしていただき、同研究室の先輩や後輩、友人に研究の手助けをしてもらうなど、多くの人に支えられたおかげだと思います。研究に携わり、ご協力いただいた方々に深く感謝しています。

発表した研究について詳しく説明いただけますか。

鋼桁橋

私は、橋梁のレーザ計測点群から維持管理用の3次元モデルを自動で作成する研究に取り組んでいました。高度経済成長期に一斉建設された社会インフラが老朽化し、さらに予算や技術者が不足しています。そのような状況下で、全国に約70万ある橋梁に対し、5年に1度の実施が義務付けられている近接目視点検を行うのは難しいという問題があります。そこで、点検を支援する情報技術開発が求められています。近年、橋梁点検への3次元モデルの活用が注目されており、モデルを構築するためのさまざまな手法が提案されてきました。本研究では、点検は部材ごとに行われるという点に着目しました。部材が複雑に配置される鋼桁橋のレーザ計測点群から床版、主桁、横桁という3つの主要部材の点群を抽出した後に、点検時の最小評価単位となる点検要素単位ごとに分割し、分割要素ごとに3次元モデルを構築するという手法を提案しました。これにより、文書や画像などの点検結果を該当するモデルに紐づけて管 理でき、点検の効率化に寄与できます。

計測点群

(例)主桁の点検要素単位

本研究は、主成分分析やロバスト推定のような統計学的手法を点群処理に応用し、プログラミングによる自動モデリングを行いました。また、実際の現場に足を運んで計測し、土木分野の専門家や企業の方々の意見を参考にして研究を進め、結果としてすべての部材の抽出、分割、モデリングに成功しました。

どのような点が評価されたと思われますか。

 他分野の専門家や企業の方々の意見を参考にしたことが評価されたと思います。私の専門は情報工学ですが、研究対象が橋であるため、土木工学の知識が必要になります。そこで、研究を進めていく中で出てきた疑問点を土木工学の専門家や企業の方々に聞き、意見を取り入れていったことが今回の成果に繋がったのだと思います。異分野の方々と連携する機会は研究に限らず、今後仕事でもさまざまな場面であると思うので、大変良い経験をさせていただきました。また、発表後に他大学の専門家や企業の方から多くの質問をいただき、それら1つ1つに対して丁寧に返答するように心がけました。その点も評価されたのだと思います。

大きなプロジェクトに携われたことは貴重な経験
将来は多くの人を救えるような防災システムを開発したい

工学部で学んで良かったことは何ですか。

もともとゲームが好きで、小さい頃からプログラミングに興味を持っていました。日本大学工学部を選んだのもプログラミングが学べる情報工学科があったからです。実際に入学してみると予想していたよりも本格的に学ぶことができ、設備も充実していたので楽しく学ぶことができました。そして、学内で進めているドローンによる橋梁点検プロジェクトの一部として本研究を実施させていただきました。大きなプロジェクトに携わることができたのは貴重な経験であり、それがこの研究の魅力でもあると思います。将来的には、自分の研究成果が実際の橋梁点検の現場で使われると嬉しいです。また、研究を通して、相手の要求を理解し、的確に返答することがコミュニケーションにおいて重要であるということを学びました。相手が知りたい情報は何かを理解し、誰にでも伝わるように返答するスキルは、研究に関して質問されたときや後輩から疑問点を質問されたときなど多くの場面で必要とされます。研究では資料作成時や学会発表の質疑応答など、このスキルを高める機会が多くあり、今後の生活でもさまざまな場面で役立てられると思います。

就職先を志望した理由と採用の決め手についてお聞かせください。

私は、大学院1年生の10月に台風で河川の氾濫による洪水に被災しました。この経験から、学んだ情報工学の知識を活かして一人でも多くの人を救えるような防災システムを開発したいと思いました。就職先の富士通株式会社(※)は、防災システムの開発に古くから着手しているため多くの実績があり、それにより得られた社会からの多大なる信頼があるため志望しました。学内推薦をいただいたこと、先生やOB・OGの方々の支えが大きな力になりました。面接では、どのようなシステム開発に携わりたいのか聞かれ、現実的で実用可能なシステムを具体的に説明できたことが評価されたと思います。実際に研究を通して、コミュニケーションスキルや人前で発表するスキルなど、多くのスキルを身につけることができました。培ったスキルを今後の仕事に活かし、この人がいれば安心だと思われるような人材になりたいと思います。

※就職先:富士通株式会社 社会システム事業本部 防災システム事業部

最後に後輩にメッセージをお願いします。

 今のうちにさまざまなものごとに挑戦してみてください。社会人になると自由な時間が少なくなるので、資格を取る、旅行してみるなど、やりたかったこと、やってみたいことはすべて経験しておくと良いです。後になってやっておけばよかったと後悔することがないように、時間を大切にして学生生活を楽しんでください。また、研究に関しては、私は既に卒業してしまったので、後輩が私の研究を発展させてくれることを期待しています。

 

ありがとうございました。今後益々ご活躍されますことを祈念しています。

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