甦る歴史「能・狂言」。工学部が文化振興を通じて復興に貢献
・11月3日の文化の日に、福島県双葉郡葛尾村「葛尾大尽屋敷跡公園」で行われた『能・狂言』に、葛尾村との包括連携協定や『大学等の「復興知」を活用した人材育成基盤構築事業(福島イノベーション・コースト構想促進事業)』の一環として、建築学科の浦部智義教授と建築計画研究室の学生が仮設の能舞台の計画・設置及び小道具の制作、また運営サポートなどで貢献しました。この葛尾大尽屋敷跡は、その名の通りかつて富豪が住んでいたお屋敷で、敷地内には「能見ケ池」という名称の池もあり、江戸時代には屋敷内で能を楽しんだと言います。
・同所でのイベントとして、2年前の2019年9月28日に仮設の舞台を設置し「薪能」を行い、約160年ぶりに葛尾大尽屋敷に能が復活。その際にも、浦部教授と同研究室の学生が仮設の能舞台の計画や設置、呈茶、アート制作などで運営に貢献しています。2年前に、葛尾村関係者と宝生流の能楽師の方との古くからの交流があったこと、また、村民の中から「復興への1つの契機として、大尽屋敷での能を復活させよう」という声もあり、村民を中心とした実行委員会が立ち上がりました。その趣旨に、葛尾村や日本大学工学部並びにそれらの関係者などが賛同し協働する形で具体化していったもので、震災後10年の節目となる今年、2年ぶりに開催されました。
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・浦部教授は、「昨今は、研究室で様々な建築・都市を研究・活動の対象としていますが、初期は文化施設の中でも、特に劇場・ホールや文化施設を専門としていたことから、お声がけ頂き冥利に尽きます。また、現在でも様々な地域で継承されている芝居やその建築、再生についても継続的に研究・活動していますので、大変興味がありました。初回であった2019年はもとより今年も、事前準備も含めますと数ヶ月以上に及び、学生さん達も慣れない作業もあり大変だったと思いますが、役割を無事に終えられたことと、彼らは本格的な舞台芸術を間近で初体験できたこともあって充実した様子でした」とのことで、自分の専門分野で、キャンパスでは味わえない体験を学生さん達と共有できたことが新鮮だった様です。
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・また、今年は、高木義典研究員(浦部研究室)が中心となって、学生達と本番で使用する小道具である「葛桶(かづらおけ)」も制作しました。高木さんは、「研究室では毎年様々な研究、プロジェクトが動いています。震災以降は特に被災地域における活動にも力を入れており、葛尾村では2015年復興交流館『あぜりあ』の計画段階から活動がスタートし、今年で7年目となりました。地域の方はもとより、浦部先生はじめ、先輩・同輩・後輩、協力者など世代や学年の枠を超え協働した、これまでの一つ一つの活動が、何となく持続可能な活動になりはじめていることを実感しました」と感慨深げでした。そういった活動の持続は、地域内外の交流という意味でまちづくりに寄与し、工学部が福島イノベーション・コースト構想促進事業で目指す、「ロハスコミュニティ」の構築につながるものと言えるでしょう。
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・また、今年は、新型コロナウイルス感染防止対策を講じてのイベント開催でした。当日は、村外からも多くの観客が訪れ、無事、成功裏に終わりました。広報活動時も含めて「かつらお」という地名や場所を、より多くの方に認知してもらえただけでなく、来場者の方に、かつらお文化の奥深さも知ってもらえたことは、村の復興に資するイベントと言えるでしょう。
撮影:早川真介(日本大学工学部客員研究員)
・なお、同研究室がプロジェクトとして深く関わった復興交流館『あぜりあ』も、このイベントのバスの発着場や同時イベント会場として使われ、同日の賑わい創出の一翼を担いました。浦部教授は、「この能・狂言も、『あぜりあ』での盆踊りや盆野球の様に、葛尾村が復興する中で地域特有の恒例のイベントの一つとして定着すれば、地域のアイデンティティにつながる可能性がありますね」と、期待を寄せていました。