ロハス工学センタープロジェクト『スマート ウェルネス タウン ペップモトマチ』が、日本住宅・木材技術センター理事長賞を受賞
建築学科の浦部智義教授をプロジェクトリーダーとするロハス工学センタープロジェクト『スマート ウェルネス タウン ペップ モトマチ(SWTPM)』の菊池医院棟が、一般社団法人 日本ログハウス協会の令和3年度(2021年)ログハウス建築コンテストで見事、優秀賞(公益財団法人 日本住宅・木材技術センター理事長賞)を受賞しました。このコンテストは、建築技術や地域材利用等の点において優秀と認められたものを顕彰し、木材需要の拡大、森林資源の循環的活用の促進による地球温暖化防止及び国民生活の向上に寄与することを目的としています。郡山市本町にあるこの建築は、SWTPMプロジェクトの第一段として、2020年6月、医療法人仁寿会菊池医院の創設70周年を機にオープンした新しいスタイルの診療所です。プロジェクトリーダーである浦部教授(写真左)に受賞作品等についてお話をうかがいました。
受賞おめでとうございます。
ありがとうございます。このSWTPMプロジェクトの建築の部分は、新しいスタイルの診療所、また、まちづくりに寄与できる施設をつくりたいという医院長の菊池信太郎先生のご意志に応えることからスタートしています。それがカタチとなり、まず一つの成果となったことは、関係者で喜びをわかちあえる契機となってとても良かったと思います。
プロジェクトの特徴をお聞かせください。
SWTPMプロジェクトは、工学部の教育・研究のコンセプトである、健康で持続可能な生活を支える『ロハス工学』の考え方をなるべく数多く取り入れ、これから多様化するであろう医療福祉系の施設の新しいあり方や郡山市街地の活性化に対応可能な拠点づくりを目指したもので、工学部の教員や学生・研究員はもとより、福島県内の企業も数多く参加してプロジェクトの骨格をつくりながら、郡山市のご支援、さらにはワークショップなどで本町にお住いの方にもご協力頂きながら進めています。産学連携を中心としながらも、官民にもご協力頂きながら進めているプロジェクトです。地域・まちづくり的には、『ロハス工学』に基づいた診療所とその関連施設を中心に、地域の子どもたちの健康を守り、地域の子育て子育ちを支援し、まちの活性化を実践する基地づくりに取り組んで行くものです。『ロハス工学』がキャンパス内に留まらず、郡山のまちなかに、地域・まちづくりの意味合いを持って出て行くことは、意義深いと思います。
建築で工夫されている点はどこでしょうか。
菊地信太郎先生のご意向でもあるのですが、診療所らしくない建築を目指しました。そのために、現在の医療施設では事例が少ない、木質の内装や外部(通りやまち)に対しても大きく開かれた建築デザインとしています。それらが相俟って、通りや周辺に木の温かみや人の賑わいが表出され、空洞化等が進むまちなかの空気を一変させる起 爆剤になれる様に意識しました。
基本機能としては、医院棟には小児科と病児・病後児保育機能が入り、間もなく完成するⅡ期工事で薬局・オフィスや子どもの遊び場などが整備されるのですが、特に医院棟の方は、多目的室や大きめの待合空間も含めて、診療所としてだけでなく、地域の方々の利用も含めて様々な用途に応じてフレキシブルに使用できる場所・空間を計画し実現することが出来ました。このあたりは、時間が経つ中で求められる機能の変化に、柔軟に対応できることにつながる可能性が高くなることから、サステナブルな建築になるための大事な要素だと思っています。
また、私たちの「縦ログ構法研究会」で開発や普及を進めている、接着剤を用いず、かつ大きな機械を導入しなくても地元で製材できる木パネルを用いた、縦ログ・パネルログ構法を建築の中心に据えて実践させて頂き、木の地域循環といったロハス的な視点のみならず木の建築としても特徴ある空間が出来たのではないかと思います。
その他、ロハス工学に関係するものはありますか。
医院棟では、玄関のアプローチ部分で、土木工学科の岩城一郎教授・前島拓助教に舗装と共に遮熱塗料の実践、内部空間で、機械工学科の橋本純 元教授と土木工学科の中野和典教授にアクアポニックスの設置をお願いしました。それらの実装やこれからの効果検証、また改善・改良もロハス工学に大きく関係しますね。
また、先に述べた建築の工夫と重複しますが、屋上から飛び出した木の箱など、今後も、温室効果ガスの排出抑制の観点からも注目され続けるであろう、地域で伐採・製材した木材の利用を判りやすくインパクトがある形で見える化することは、ロハスにつながることだと思います。その他にも、例えば、特徴ある木の家具を待合空間に設置したり、チームメンバーである、はりゅうウッドスタジオさんの本拠地の南会津では広葉樹も豊かなことなら、様々な樹種を階段の踏板に使うなどして、木に慣れ親しんでもらう工夫なども行っています。
さらに、医院棟の外装の緑化など追加で検討しているコンテンツもありますし、Ⅱ期工事もあります。ですので、今後も、例えば、出村克宣名誉教授による塗料など建築材料に関するご指南はじめ、建築学科の齋藤先生・宮﨑先生・堀川先生や先に述べた土木工学科の先生方とご相談しながら、可能な限り様々なロハス工学のコンテンツを実装できればと思います。なお、機械工学科の宮岡先生、電気電子工学科の村山先生・村上先生や生命応用化学科の春木先生はじめ、ご関係の先生方のお力もお借りして、新しいこの施設の様々な環境的側面を分析したり、利用される方々の心理・行動などを研究させて頂くこと自体が、ロハス工学に深く関係する活動であり、人の健康や持続可能な社会につながるロハス工学の新たな展開となる可能性があると思っています。
今後の抱負についてお聞かせください。
今回の受賞は、医院棟を対象としたものでしたが、間もなく完成するⅡ期工事で薬局・オフィスや子どもの遊び場などの整備が終わりますと、SWTPMのグランドオープンということになりますので、先ずはそれに注力したいと思います。Ⅱ期工事は、医院棟から道を挟んだ旧菊池医院敷地で行われており、その一部、山口薬局元町店が5月にリニューアルオープンしました。1階の薬局は、ドライブスルーや調剤室が薬局待合から視覚的に見えるなどの特徴を持つほか、2階にオフィスが入る(木を横にして積み上げる)ログハウス2階建で、医院棟の縦ログ構法と対比的なデザインとして、こちらもまちの雰囲気を変えられる様な特徴を持たせています。この建築は、東日本大震災の時、私や浦部研究室の当時の学生もメンバーであったログハウス型仮設住宅建設チームでつくった二本松市内の仮設住宅2棟を移設再利用したもので、2層に積み上げてつくられています。この移設再利用が、持続可能な建築そのものであり、ロハス工学の実践として意義深いと思いますが、木工事の後、研究室の学生たちがログ磨きを担当してくれ、新品さながらにピカピカに磨きあげてくれました。Ⅱ期工事全体は未だ途中ですが、今後も、そういった工学や建築的なものでなくても、ここを訪れる方たちが、ロハスな体験が実感できる場所・空間になる様に、『スマート ウェルネス タウン ペップ モトマチ』プロジェクトメンバーで、様々な分野から知恵とアイディアを出し合いながら計画・運営が出来ればと思います。
グランドオープンが楽しみですね。
その時には、菊池先生はじめSWTPMプロジェクトメンバーや関係者とは、達成感を共有しつつも次の段階の取り組みについて話し合いをはじめるタイミングだと思います。また、工学部長の根本修克教授、ロハス工学センター長の岩城一郎教授をはじめ、日頃からご支援頂いている教職員の皆さまにも改めてご報告したいと思います。