復興プロセスを継続させていくための
拠点としての役割を担う建築が高く評価される
この度、建築学科の浦部智義教授(写真左)と建築計画研究室が計画・設計および運営に携わった葛尾村復興交流館『あぜりあ』が2020年度グッドデザイン賞を受賞しました。この施設は、福島第一原発事故により全村避難した葛尾村における避難解除後の住民はもとより、一時帰宅や村を訪れる人の交流施設として、2018年6月に開館しました。工学部は2015年に葛尾村と包括連携協定を結んでおり、以来、この『あぜりあ』のプロジェクトを含め復興に向けて多方面で支援を行うとともに、様々なプロジェクトを展開してきました。葛尾村の篠木弘村長(写真中央)は、開館当初に「村全体の復興に向けたスタートにしたい」と期待を寄せ、復興に尽力されておられます。
今回のグッドデザイン賞の受賞では、「長い復興プロセスを継続させていくための拠点としての役割を担う建築である」ことが評価された点でもあります。まさに、この賞は、工学部もその一翼を担わせて頂いた、これまでの復興への取り組みや活動の成果の証しとも言えます。葛尾村復興交流館『あぜりあ』の計画・設計・運営に関わる一連の活動について、浦部教授に詳しくお話いただきました。
土地の記憶と住民活動を継承していく新たなコミュニティの場として
葛尾村は2011年の福島第一原発事故により全村避難となりました。2016年に避難指示が解除された後、一定の帰村者はいらっしゃいますが、未だ多くの方が村外にいらっしゃる状況です。葛尾村復興交流館は、帰村や一時帰宅された村民の方々、さらに村を訪れる人々との繋がりをベースとして、また一度は避難し途絶えた土地との繋がりも取り戻しながら、新しい活動を生み出すことを目標に計画されたものです。計画段階から、施設としての質を高めることや長く地域に受け入れられていくために、交流の場としてどのように活用していくかといった”使われ方”をワークショップ等でシミュレーションをしたり、ハード的にもソフト的にも詰め過ぎずに余白をつくり、開館後に必要に応じて様々な機能を付加・変化できる様な建築づくりを意識して進めて来たことも特徴でしょうか。
また、敷地内にあった小さな蔵を村民の方々と協働しながら修繕・整備し、交流館の一部として新たに『ロハス蔵』として甦らせました。これまでの土地の記憶と住民活動を継承していくことが、村民の方々の心の拠り所になり、復興に向けた活力となるのではと考えました。なお、この敷地はかつての村の産業であった赤松の産出が行われ森林鉄道の起点でもある場所です。村民の誰もが知る古民家で、震災後に解体された百石の家に使われていた赤松を、棟木の部分や家具、また蔵まわりなどに使用しデザイン上のポイントとするなど、物語性も意識しました。
一方で、物語をより未来につなげるために、ロハス工学の観点から地域材の木材の利用を積極的に推進する中で、私たちのチームで開発等に取り組んでいる「縦ログ構法」も随所に実践させて頂きました。つまり、古材等の震災前との繋がりはもとより、先進的な要素を取り入れた建築とすることで、過去の時間も未来の時間も大切にすることを意識しました。
『あぜりあ』に人と人との繋がりが生まれ、村が活性化する仕掛けを続ける
建築の配置計画に目を向けますと、葛尾川とのつながりを感じる空間となるように、川の蛇行に合わせて配置し、建築に囲まれた感じの駐車場スペースは、盆踊りなどの外部イベントを行う際には広場としての役割も担います。その本体建築と川に挟まれた細長いスペースには、縦ログ構法から派生して開発した木質パネル構法を用いて本体とシンクロする様な事務所機能を拡張した別棟をつくり、また、本体建築の迎え入れる様な大屋根とロハス蔵の間の人が集まるスペースには、村で眠っていたトレーラーハウスを利用して外部イベントにも有効な新機能を付加させました。
それらは、『あぜりあ』本体の開館後、管理・運営の状況等を分析し補完する形で、敷地全体でのデザインやバランスを考慮しながら、計画当初から想定していた、さらに多様な人どうしの繋がりが生まれる様な機能を付加できる建築づくりを具現化した、ハードでの一面だと思います。そのトレーラーハウスの改修工事については、手づくりで出来るところは学生にも参加してもらいました。
『あぜりあ』の計画・設計・運営が起点となってスタートした、工学部が教育・研究のキーワードに掲げる「ロハス工学」を住民の皆さんと学生で村内に実装し、健全で持続可能なまちづくりを目指す事業として、福島イノベーション・コースト構想推進機構『住民と学生の協働による『ロハスビレッジかつらおプロジェクト』もその一つですが、学生たちが様々な取り組みに参加していることも、村の活性化に寄与できていると思います。学生たちは、『あぜりあ』の家具のほか、特に『ロハス蔵』そのものや、蔵周辺の橋・植栽などの整備を住民の皆さんと協働で行ってきました。学生にとっても、住民の皆さんと触れ合い、またにぎわいの創出に挑戦する中で、復興のみならず日常のまちづくりに大切なものは何かを実践的に学ぶ場となっていると思います。
また、2018年12月には、土木工学科の中野和典教授が開発したロハスの花壇が『あぜりあ』の敷地内に設置されました。隣接する公衆トイレの排水を浄化し芝生や道路のプランターの水遣りに利用されています。こうした研究成果の実装も村を活性化させる効果につながれば良いなと思っています。
“ものづくり”とともに、“ことづくり”を大事に、復興への貢献を目指して
このプロジェクトは、『あぜりあ』の計画・設計という“ものづくり”という目に見える形だけでなく、運営という意味では『あぜりあ』の利用と絡めた“ことづくり”にも、深く関わっていると思います。例えば、昨年、村内の歴史ある名所の大尽屋敷跡地において約160年ぶりに行われた「薪能」上演にあたり、仮設の能舞台の計画・設計・施工はじめ運営に、私の研究室はじめ工学部が共催として尽力しました。当日は村内史跡ツアーやお茶会、物産販売なども開催されましたが、学生たちがスタッフとして奮闘してくれました。そのイベントの事前に行われた「能楽ワークショップ」が、『あぜりあ』の多目的スペースで開催されたり、「薪能」当日は『あぜりあ』が大型バスの発着場に使われるなど、イベントを通して村内外の交流の輪を広げる機会を創出する、“ことづくり”にも一役買っていると言えるのではないでしょうか。
なお、今回のグッドデザイン賞の審査会場展示用の模型は、研究室の学生たちに制作してもらいました。学生も意欲的に取り組みながら、建築の計画・設計手法について学ぶとともに、“グッドデザイン”とは何かを考える良い機会になったようです。こうしたことも今後につながる貴重な経験になったと思います。グッドデザイン賞はデザインによって人々の暮らしや社会をよりよくするためのものであり、モノとしてのデザインはもとより、人が何らかの理想や目的を果たすために築いた“ものごと”も評価の対象とされます。『あぜりあ』に関する評価は、建築の計画・設計はもとより、その運営に関わる一連の活動を含めて評価されたことに大きな意義があると思っています。これからの時代は、恐らく“ものづくり”だけでなく、“ことづくり”も大事になってくるでしょうから。
この度の受賞に際し、ご理解とご支援いただいている葛尾村の村民の皆様に厚く御礼申し上げます。また、葛尾村との包括協定の実現のみならず、この活動に直接ご助言も頂戴した出村克宣前工学部長(現日本大学名誉教授、常務理事)をはじめ、現在の活動をご支援いただいている根本修克学部長や事務局の皆さま、そして葛尾村での研究活動等を一緒に行わせて頂いている岩城一郎工学研究所長はじめ多くの先生方に、この場をお借りして深く感謝申し上げます。
今後も葛尾村での地域・まちづくりを継続し、復興への貢献を目指すとともに、様々な経験を活かして活動の幅を広げていきたいと考えています。
■2020年度グッドデザイン賞受賞詳細ページはこちら
■工学部HP内関連リンク:2018年9月12日 日本大学工学部が葛尾村復興交流館の建築と運営に貢献
■工学部HP内関連リンク:2019年2月22日 葛尾村復興交流館に『ロハスの花壇』を設置しました