クローズアップ工学部

第22回産・学・官連携フォーラムを開催いたしました

産学官の視点で新しい木構法の課題を検討し、森林資源の有効活用をめざす

 12月6日(火)、工学部50周年記念館(ハットNE)3階大講堂にて、公益財団法人郡山地域テクノポリス推進機構との共催による『第22回 産・学・官連携フォーラム』を開催いたしました。テーマは『森・まち・産業を支える建築の作り方~ふくしまでの産・学・官連携の取組み~』。建築における新しい木構法の開発・展開やそれを取り巻く「木」の現況を中心に、「産」「学」「官」の立場から講演を行いました。福島県内の森林や木をあらゆる視点で考える方が集まり、今後の課題や森林資源の有効な活用について議論を交わす場となりました。なお、新型コロナウイルス感染拡大防止のため、YouTube配信を併用したハイブリッド形式で実施しました。

開催にあたり、公益財団法人郡山地域テクノポリス推進機構評議員の伊藤清郷氏がご挨拶しました。伊藤氏は、本フォーラムの概要について説明し、ご参加いただいた皆さま方にとって有意義なものとなることを切に願いました。
 続いて、産学官の代表にそれぞれの視点からご講演いただきました。

《学を代表して》『新しい木構法の開発・展開の契機となった3.11』

日本大学工学部 建築学科 浦部 智義 教授

 浦部教授は、東日本大震災時に行われた木構造による仮設住宅建設を挙げ、木材供給から加工、施工まで短期間での決断を迫られる中、様々な人が関わる産官学連携がなされたことが契機となり、新しい木構法の開発につながったと紹介しました。地方における建築の在り方について、自身のみならず、ともに研究に携わった学生たちも学ぶことが多かったと語ります。

 当時を振りかえり、木があらわしとなった仮設住宅が立ち並び新しいまちの風景を創り出していることに木の可能性を感じ、再利用を前提にした構法の開発を進めるに至った経緯について説明しました。さらに、震災復興に向けた活動の中で創り上げた産官学の協力関係を日常にも活かしたい、山や地域を扱う時にそういった協力関係は不可欠であると強調。また、木造住宅の工業規格化に向けた構法を開発することで、平時においてもコスト面や大工人口の減少などのさまざまな問題解決の糸口となるだろうと示唆しました。各種の実験を進め、常設建築に縦ログ(パネルログ)構法を取り入れた実例として葛尾村の復興交流館(あぜりあ)や郡山市内の菊池医院を挙げ、今後はさらにいろいろな人の協力を得ながら皆の力でこの工法や連携の仕組みを広め、福島県発信の産業や地域の流れに繋げたいとの抱負を述べ、話題提供としました。

《産を代表して》『ゼロカーボン時代における川下からの挑戦 』

株式会社はりゅうウッドスタジオ 代表取締役 滑田 崇志 氏

特定非営利活動法人福島住まい・まちづくりネットワーク 三浦 翔太 氏

 木材の流通においては一般的に「木材を生産する川上(林業)」「川中(プレカット・木材加工業)」「利用する消費者=川下(設計事務所)」という呼び方があります。標高700メートルにある設計事務所として森のことをよく知る滑田氏は<産>、そして<川下>の立場からこれからの時代と環境にふさわしい建築物の在り方を示しました。そして、木や森を活かした建築物をつくる意義や課題について述べました。建設時に排出するCO2(エンボディードカーボン)をどれくらい削減できるかは地球温暖化対策としてたいへん重要であると示しました。他の構造よりも圧倒的にエンボディードカーボンが少なく、また躯体の炭素貯蔵量は多いのが木造。理にかなっていることに加え、CO2削減は企業評価にもつながるため、多少コスト面で劣ったとしてもCO2の吸着率が高い若木の植林が必要であると示唆しました。

 続いて、住まい・まちづくりを通して福島県の震災復興に寄与することを目的とするNPOの三浦氏は、近年の技術開発で木造耐火構造が可能となっていること、耐震面で木造は軽く軟弱地盤で有利であり、それは中大規模木造建築においてより影響力が大きいこと、など木造建築の特長を生かす方向で不安解消策を示しました。そして今後の課題として、入手可能な木材情報と調達体制の把握が重要であると提言されました。工事発注の段階で流通環境が整うような情報共有と連携体制こそが地域材を活用した中大規模木造建築の実現には欠かせないと述べ、木材木造コーディネーターの選定や木造調達体制づくりが、福島県の高いプレカット技術力と全国8番目の素材生産量を活かす道であり、独自の建築コスト低減ポイントだと示しました。

 まとめとして滑田氏は、川上を意識しながらチャレンジした中大規模木造建築の実践例として福島県南会津町「きとね」、須賀川のこども園「らみどり」を紹介。ローテックで地域の誇りをつくること、縦ログ構法や重ね張りなど木材の技術開発は発展途上であり、これからもこの福島の地で、山の状況を肌で感じながらさまざまな可能性を広げていきたい意欲を見せていました。

《産を代表して》『持続可能な森林経営に向けて』

福島県森林組合連合会 代表理事会長 田子 英司 氏

 福島県森林組合連合会は県内17の森林組合を会員とする組織です。代表理事会長である田子氏は、福島県の森林・林業の現状を解説し、持続可能な森林経営に向けた施策を提示しました。

 木材価格の長期的な低迷、森林境界の不明確化と森林所有者の整備への意欲減退、林業就労人口の減少と高齢化。これらの課題解決に向けた国の制度は未だ認知活用が進まない中、福島県は独自に「皆伐再造林一貫作業に関する補助制度」という画期的な制度を打ち出しました。計画的に皆伐再造林する事業者に対する補助を行う画期的なものです。温室効果ガス削減や広域的機能発揮に繋がるとして、組合はこの事業を積極的にPRし、有効活用していきたいと抱負を述べました。また、「林業アカデミーふくしま」の開校やエリートツリーを活用した収穫期間短縮を「新しい林業」の展開として挙げ、トータル収支の黒字化を目指す意気込みを語りました。また、個人的な夢と断りつつ、J-クレジットというシステムを提案。2050年までに排出ゼロを目指すなら、川上側の森林整備状況や植林面積を正確に把握し、吸収源としての能力を正当に評価しクレジット化したいと述べました。川下側の事業体が購入した資金を還元することで、森林整備を図るものです。共につくる森林のために適切な評価こそが重要であると強調し、講演を締めました。

《官を代表して》 『県産材の生産・流通の現状と建築物の木造化・木質化』

福島県林業研究センター 副所長 遠藤 啓二郎 氏

 <官>からのテーマとして、福島県林業研究センターの遠藤氏が伐採から建築物に利用するまでの県内状況について説明しました。現在、日本の人工林の齢級構成の約5割が11齢級以上の50年生を超えている、つまり収穫時期を迎えている人工林が増えているのにその資源は十分に活用されていません。さらに木材の大径化で林業・製材機械の許容サイズを超えてしまい、設備を使えないという問題も大きいと示唆しました。下がった自給率はようやく4割を超えているということ等輸出入概況について説明。また、流通のフローについても解説し、全国的に製材工場数が半減し、県内においても大規模工場に集約されてきている傾向を伝えました。県産材を利用した木造化・木質化のポイントとしては、やはり他の登壇者と同様、今まで以上に建築物の設計段階から県産材の活用を検討することが望ましいとしています。

 最後に、林業アカデミーふくしまの木材試験研究施設(オープンラボラトリー)を紹介し、ぜひここでICTを活用した最先端の林業を学んで欲しい、と会場の皆さまへ研修生の募集についての協力をお願いされました。

産学官が連携することで可能性が広がる森林資源の有効活用

 まとめとして、講演した5名が登壇し(1名は遠隔参加)、フォーラムに参加した皆さまと意見交換を行いました。

 県内での木材安定供給と木造建築の拡大をめざすクラウド情報共有のプラットフォーム構築やスマート林業への取り組みをはじめ、川上から川下までの福島型チーム構成を発信したい、またそこに学生がコミットすることで大きな可能性が広がる、など前向きな意見が飛び交いました。会場からも積極的な発言があり、森林資源の有効活用に向けた取り組みをさらに活発にしようという意気込みが感じられました。

 日本大学工学部中野和典教授が閉会の挨拶に立ち、キーワードは「みんなでやる」ことだと示しました。今回のフォーラムの内容をもっと一般の方々にも知ってもらうことが何よりも重要であり、環境分野の<学>の立場からも木造建築の優位性を発言する空気を作っていかねばならないと自戒を込めて語られ、本フォーラムを締めくくられました。
 参加した企業の方は、互いに何をやっているのかをまず知ることが大事であり、敷居を低くして混ざり合うためにも、こうした機会が重要だと話していました。今後COの問題を含めて、世界有数の森林をどう生かすかという課題に向けて、ローテクでつくれる縦ログ構法の普及にも期待の声が上がっています。浦部教授は教育の一環として学生を絡めながら様々な立場の人をニュートラルにつなげていくことが必要であり、ロハス工学センター内にプラットフォームを構築することで促進できるのではと話しています。産学官連携において大学の果たすべき役割は益々大きくなっていくことでしょう。