クローズアップ工学部

建築学科住環境計画研究室が須賀川市翠ヶ丘公園で『ブックガーデン』を開催しました

自然の風を感じながら読書を楽しむ『ブックガーデン』が新たな公園の過ごし方として好評を博す

10月・11月の2か月間、須賀川市の翠ヶ丘公園にて、建築学科住環境計画研究室(市岡綾子専任講師)が企画運営する『ブックガーデン』が開催されました。この取り組みは、市岡専任講師が須賀川市から依頼を受け、公園を利活用するための社会実験として行ったものです。自然の風を感じながら読書を楽しんでもらおうと、憩いの広場に書籍約100冊を本棚ごと持ち込んで、公園利用者に本と場所を提供。火曜と土曜の週2回限定でしたが、子どもから高齢者まで多くの方が利用され、新たな公園の過ごし方として地域住民からも好評を博しました。
『ブックガーデン』の実施にはどのような意図や成果があったのか、市岡専任講師に詳しくお話を伺いました。

海外での経験を活かして、公園の“図書館化”を企画しました。

―ブックガーデンを実施した理由についてお聞かせください。

 住環境計画研究室では、これまでも須賀川市のまちづくりに関する様々な提案や取り組みを行ってきました。今回、日本三大火祭り『松明あかし』が行われることでも知られる翠ヶ丘公園を住民の方々にもっと活用してもらうために、社会実験を実施したいと須賀川市から相談を受けました。そこで提案したのが、公園を“図書館化”する企画です。私が4年前に海外派遣研究員として欧米に滞在した時、公園の管理者が毎週決まった日に書架を園内に置き、それを知っている市民が読書を目的に公園を訪れている光景を見て、いつか日本でもやりたいと温めていた企画でした。昨年度11月と今年度5月に数日間、実験的に開催したところ、大変好評だったことから、今回は10月・11月の2か月間、実施することになりました。本は会津坂下町の私設図書館『ふくしま本の森』からお借りしました。ベストセラーの文芸作品、料理本や健康に関する本、洋書の雑誌、郷土関連書籍から絵本まで、幅広いテーマで約300冊の本を集めました。持ち込んだ本棚を公園内の憩いの広場に点在させ、日によってラインナップを替えながら100冊ほどの本を並べるとともに、ブルーシートや御座、ハンモックなどを用意し、のんびり過ごせる場を提供しました。こうして、自然の風を感じながら読書が楽しめる“青空図書館”、『ブックガーデン』の社会実験が始まったのです。

―実際にどのように運営されたのですか。

運営の中心は、街づくりの視点で研究を進めている学生たちが担いました。火曜と土曜の午前10時から午後4時までの開催期間中は公園に常駐し、研究の一環として利用者への聞き取り調査を行いつつ対応にあたりました。簀の子を利用した本棚は学生の手作りで、学生自身も楽しみながら取り組んでいたようです。
雨天の場合は、公園内にある『老人憩の家』の広間をお借りしていましたが、冬が近づき、だんだん寒くなってからは、憩の家に少しずつ本を置かせていただき、室内版のブックガーデンも実施。また、11月17日(土)には、店舗を持たないコーヒーショップとコラボレーションし、お茶を飲みながら読書ができるイベントを開催するなど、いろいろとバージョンアップを図りながら、楽しみ方が広がる公園の利活用法を展開しました。

老若男女、それぞれの楽しみ方でブックガーデンを
利用いただけたのが一番の成果。
住民目線でまちづくりに取り組むことが大事だと考えています。

―どのような成果がありましたか。

公園を散歩されている方が興味を持ってくださり利用されるケースが大半でしたが、リピーターが多かったのは大きな収穫です。公園近くに住む主婦の方は、「10月下旬でも陽が出るとぽかぽかするので、読書するには絶好」だと話していて、買い物途中に何度も利用されたそうです。犬の散歩中に立ち寄られた主婦の方は愛犬を膝に乗せ本を読まれながら、「思い思いに時間を過ごせる。公園に本があるというのはいい」とおっしゃっていました。御座を敷いて健康本を読みながらストレッチ体操をする方もいたようです。本の中で一番人気があったのは絵本でしたが、いろいろな本と一緒に置いてあるので、お子さんだけでなく大人でも気兼ねなく絵本に触れることができたという声も聞かれました。

また、「お絵かきがしたい」と言うお子さんからのリクエストがきっかけで、クレヨンと画用紙、大人の塗り絵も置くようにしたところ、お子さんを連れた若いお母さま方も遊びに来てくださるようになりました。学生によると、あるお母さまから「子どもを遊ばせながら、自分ものんびり読書を楽しめてとてもいい」と声を掛けられたり、「ブックガーデンがあるから公園に来るようになった」と励みになるような言葉をいただいたそうです。学生たちもモチベーションがあがり、ブックガーデンの運営にやりがいを感じるようになったと言います。


土曜は利用者が多く、60人以上訪れる日もあるなど、予想を上回る反響がありました。老若男女問わず足を運べて、思い思いに時間を過ごせる公園という空間と読書の相性が良いことが利用の促進につながったと考えられます。このように地域住民の方にそれぞれの楽しみ方でブックガーデンを利用いただけたのが一番の成果であり、多くの方に利用していただき大変嬉しく思っています。
また、この取り組みが始まった時、新聞で告知を見た建築学科の卒業生で、須賀川にある久保木畳店に勤めている橋本文太さん(左の写真)が、畳のリサイクルとして作っている御座をぜひ活用してほしいと提供してくれました。以前から久保木畳店さんとは色々とご縁がありましたが、今回もご支援いただいて大変有難かったです。また、公園をジョギングされていた方が、たまたまブックガーデンのことを知ってハンモックを貸してくださいました。こうして、地域の方々に関心を持っていただき、様々な形で支援の輪が広がったことも成果の一つと言えます。

地域の中に心地よさを感じる場所がたくさん存在することが日常生活の豊かさにつながると考えています。その一つとして翠ヶ丘公園が選ばれることを期待しています。

―今後のまちづくりには何が必要だと思われますか。

社会の共同生活の中でどういう約束事をつくるか、また、どのような手段や方法で遂行するかを考えるのが都市計画です。これからは、住民が住みやすい環境を考えるのはもちろんのこと、次の世代に何を伝え、何を残していくのか、そしてどう守っていくかといった活動を支えるための考え方が必要になるでしょう。最近は行政主導だけでなく、地域住民との協働によるまちづくりの活動が増えてきています。まちづくりも住民目線で何ができるかを考えていくことが大事です。そういう意味で、今回の社会実験は今後のまちづくりの在り方につながる良い事例になったのではないでしょうか。イベントとして単発的に実施する社会実験もありますが、ブックガーデンを2か月間継続的に実施したことに意義があると思うのです。住民の目線で自分たちができることを始めてみると、多くの人たちの笑顔に出会える。それが活動を続けるエネルギーにもなります。ブックガーデンを通して、学生たちもそれを学んだと思います。これからも、様々なご縁を繋ぎながら、日常生活がもっと潤うために、そして地域の中で安心して誰かに出会える場所をつくるためのお手伝いができるように尽力していきたいと思います。

―ありがとうございました。地域発展のために、今後益々ご活躍されますことを祈念しております。