クローズアップ工学部

台風19号に伴う被災現象把握とそのメカニズムに関する特別講義を実施しました

土木工学の観点から水害について学び防災意識を高めていく

 土木工学科では1年生から3年生の学生(約500名)を対象に、台風19号に伴う被災現象把握とそのメカニズムに関する特別講義を1月24日(金)に実施しました。台風19号がもたらした豪雨により、工学部キャンパスやその周辺の学生居住地域も甚大な被害を受けました。しかし、この水害体験を単に被災として終わらせるのではなく、一つの教材と捉え、学生たちに土木工学の観点から学んでもらうことが重要だと考えました。どのようなメカニズムで被災現象が起こったのかを把握し、今後どのような対策が必要なのかを考える場として、水環境を専門とする土木工学科の教員等による講義を実施しました。はじめに、土木工学科の子田康弘准教授が講義の主旨を説明し、将来、土木技術者になる学生諸君に、自然災害からまちを守るための知識を学んでほしいと伝えました。
 まず、情報工学科の中村和樹准教授による『日大周辺の被害状況(ドローン・衛星を活用)』と題した講義を行いました。中村准教授は、情報工学的な視点から阿武隈川の氾濫状況を可視化しました。国土地理院が提供している空中写真をオルソモザイク処理し、取得可能な衛星画像から浸水域を推定しました。それにより、キャンパスとその周辺の浸水状況を明らかにするとともに、コンピュータシミュレーションを使った氾濫シミュレーションの結果からハザードマップを構築。特に浸水の被害が大きかった地域はどこかを推測しました。学生の行動に係る安全確保や二次被害の予防のために、防災に資する情報基盤の形成が必要不可欠であることを示しました。
 次に、『治水の歴史「日本人と水害」』と題して、土木工学科の知野泰明准教授が講義を行いました。古代から近世・近代の治水技術を辿りながら、水害に対して先人たちがどのような対策を講じていたかを紹介。具体的な例として、信濃川の洪水とその治水技術や洪水対策について説明しました。また、戦国時代の武田信玄の治水事業、寛保2年起こった利根川の大洪水と治水の考え方の変遷についても解説。近世の水制を施し自然を上手く利用して川の流れをコントロールする手法から、近代に入り、ヨーロッパの工法が導入され、さらに低水工事から高水工事への転換が行われ、戦後、規格化された治水事業に発展。知野准教授は日本とヨーロッパの川の違いに言及し、住まい方も含めた水害対策が必要であると示唆しました。
 続いて、数年前まで工学部で教鞭と執っておられた髙橋迪夫名誉教授(写真左)と長林久夫名誉教授(写真右)にご登場いただきました。髙橋名誉教授は、『気候変動と河川災害』と題し、地球温暖化が水分野にもたらす影響について説明しました。近年の気候変動や雨の降り方の特徴から、降水量増加に伴う治水安全度の低下を指摘。水害に備える工夫と対策が必要だとして、堤防の強化といったハード対策と洪水ハザードマップを活用したソフト対策などを挙げました。特に洪水ハザードマップを日頃から学習しておくことが大事だと示唆しました。『阿武隈川の水害に学ぶ』と題した講義を行った長林名誉教授は、まず、阿武隈川で水害が多発する要因について説明。平成の大改修による総合的河川改修により国の管理区間では効果が見られたものの、県が管理する河川では台風19号による破堤や越水が多数あったことを指摘しました。最大規模の洪水に備えたハザードマップの策定と、時系列で整理した防災行動計画(タイムライン)の作成が必要だと強調されました。

 郡山市建設交通部河川課の岩永尚士氏にもお越しいただき、『台風19号に伴う郡山市の災害対応について』講義していただきました。岩永氏は、記録的な降雨量が観測された台風19号による郡山市の水害状況を説明。緊急の復旧工事や減災対策協議会の開催など郡山市の取り組みについて紹介しました。減災型都市計画を展開させ各地区で整備を進めるとともに、カメラや水位計の設置などの危機管理対策も行っていると説明されました。今後は河川改修工事も行う予定だということです。
 続いて、『T19※浸水の機構解明にむけて』と題して、土木工学科の金山進教授が講義を行いました。どのようなことが、どのようなスピードで、どのような規模で生じるのか、機構を解明することが大事だと話す金山教授。外水(洪水)氾濫と内水氾濫をあわせた解析により、どこに、いつ、どの程度の浸水が生じたのかを連続式と運動量方程式を使って算定し、浸水の痕跡や体験報告などと比較して、さらに計算の検証・修正を行いました。今後、キャンパスの水害に対する粘り強さを強化する方策、より安全で迅速、確実な避難場所、避難方法などの提言を行う予定だと述べました。
T19は台風19号の意味
 最後に、朝岡良浩准教授による『水理学、河川・砂防学との関わりについて』の講義を行いました。朝岡准教授は、水理・環境系の科目についてふれ、堤防からの越流量の計算、氾濫過程の計算、円管の流入量の計算など、通常の授業で学んだことが川の氾濫をシミュレーションするときに役立っと説明。また、河川・砂防工学は河川を整備して被害を減災するための学問であると強調しました。現在のインフラは古い基準で整備されているため、近年の気候変動を加味していないことが課題であるとして、治水対策の見直しの必要性について言及しました。
 特別講義の最後に講師の方々にご登壇いただき、素晴らしい講義に対し感謝の気持ちを込めて拍手を送りました。

特別講義を通してどんなことを学んだのか

 講義を受けた学生たちに話を聞きました。1年の女子学生(写真左)は、「まだ授業で学んでいない内容もあったが、学んだことがどういうふうに活かされるのかがわかった。しっかり勉強することが大事」「自然現象も計算で見えてくるのが凄いと思った。何らかの対策をして災害を減らしていきたい」と話していました。1年の男子学生(写真中央)は、「土木にはこの先にもやるべきことがたくさんあることがわかった」「被災を体験して水害の恐ろしさも知った。インフラを整備していくことが大事」「学んだことを役立てていきたい」と意気込みを語っていました。3年生の女子学生(写真右)は、「いろいろ勉強になる有意義な講義だった。土木を学んでいる身として、この経験を糧にしたい」「水害は人命に関わること。気候変動についても学び、対策につなげたい」「ハザードマップも強化できるよう、インフラ整備についても学んでいきたい」「講義を受けて、私たちがどのように人々を守っていかなければならないかを再認識できた。土木技術者としてのビジョンが見えてきた」と、将来への展望につながったようでした。

 工学部では、水害のメカニズムの解明と災害対策の提言を目指し、土木工学科の教員を中心とした『キャンパス強靭化プロジェクト』を進めています。他地域にも応用可能な防災・減災モデルを作るとともに、今後も研究成果を教育に役立てて、防災意識の高い学生の育成を目指していきます。