社会的ニーズに応えるシステムインテグレーションの提案。実用性と完成度の高さに注目が集まる
この度、Sensing Solution ハッカソン 2024(共催:公益社団法人 計測自動制御学会/ソニーグループ株式会社)において、機械工学専攻博士前期課程2年(受賞時1年)の和内直也さん(サステナブルロボットシステム研究室/武藤伸洋教授・今林亘専任講師)が最優秀賞を受賞しました。このハッカソンは、Spresense※を利用し、カメラ、マイク、GPS、加速度センサー等といったセンサーから得られるデータ並びにAI等の技術を活用したシステムインテグレーションによって社会課題を解決したり、私たちの未来をもっと豊かにするようなエンタテイメント性のある提案等を幅広く国内の学生から募集するものです。今年のテーマは「イノベーションはキミの手のひらから」。受賞作品「バルブマネージャー」はアイデア提案の1次審査、そのアイデアをSpresenseを用いて実装し、作成したデモンストレーション動画による2次審査を経て、ファイナリスト15提案に選ばれました。昨年12月21日に開催されたオンラインでのプレゼンテーション発表会に臨み、見事最優秀賞を受賞した和内さんに、受賞の喜びの声とともに、作品について詳しくお話を聞きしました。
※ソニーセミコンダクタソリューションズ株式会社製IoT向けスマートセンシングプ ロセッサ搭載ボード
―最優秀賞受賞おめでとうございます。感想をお聞かせください。
とにかく驚いたというのが一番の感想です。他のファイナリストの皆さんの発表が素晴らしくて、興味深いものが多かったので、まさか自分が最後に呼ばれるとは思っていませんでした。自分のやってきたことが間違っていなかったという自信になりましたし、自分の発想が他の人から見ても良いものだと評価されたことが嬉しかったです。
―応募のきっかけは何でしたか。
実際の応募のきっかけは就活です。就活をスタートしたときに、自分がこれまで学んできたものを形にして見せる機会が無かったことに気づきました。コロナ禍に入学して、コンペティションやサークルにも参加してこなかったので、このままでは寂しいと感じていたところ、このハッカソンのことを知り、応募してみようと思い立ちました。最初の動機は就活でしたが、やはり自分の実力を試してみたいという気持ちが大きかったと思います。
―作品について、詳しく説明いただけますか。
少子高齢化と農業離れによって、社会問題化している農業従事者の減少という状況があります。少ない労働力でも効率よく働くための作業省力化で基幹的産業である農業を衰退させないために、既存インフラを活用しながら、効率的な自動化を実現することをめざしたプロダクトです。自動灌漑システムなどへの応用も考えられます。
アイデアの大元はガソリンスタンドでのアルバイト経験から生まれたものです。冬季に洗車機が凍らないように水抜きを行うのですが、氷点下の屋外で行う作業を「面倒くさい」と感じていました。当時は電動弁というものの存在を知りつつも自動化してしまうと今度は自分では回せないんだなとわかったところでそのまま放置していたんです。その記憶が残っていて、応募を思い立った時に、もしかしたら自分があの時「面倒くさい」と感じたことが他の人たちにとっても「面倒くさい」のではないか、バルブを自動で操作・制御できるシステムを考案したら、もっと色々な課題の解決に繋がるのではないかと考えました。水道の蛇口やガスの元栓など、流体の圧力や流量を調節するバルブは社会インフラとして日常的に使われていて、企業の規模を問わず、その種類は非常に多岐に及んでいます。それらに対応でき、かつ大掛かりに装置全体を刷新するのではなく、既存のバルブに外付けできるプロトタイプを作成しました。


システムには、サーボモータ、バッテリー、マイコンボード(ソニー社製Spresense)、カメラが含まれており、3Dプリンターで製作したケースに収められています。制御はSlackアプリケーションを通じて行われ、スイッチボットのように、単純にスイッチをオンオフにする、バルブを開ける、閉めるということをスマートフォンやパソコンから遠隔操作できます。さらに必要な開閉角度も制御するなど、状況を判断し、適したフィードバックを自動で行います。バルブの回転だけを目的とするのではなく、カメラなどを使って監視しながら世の中のインフラに使われている流体を制御できたらと考えました。
また、システムには予約機能も実装され、指定した時間に自動でバルブを制御することができます。バルブの回転機構には遊星歯車を採用し、多様な形状のバルブハンドルと必要なトルクに対応させました。カメラでアナログ計器の流量を読み取り、画像をサーバーに転送、サーバー内で画像認識AIを使用して認識した数値に応じた動作をスマホなどから設定できる、といったフィードバック制御を実現します。
元々画像認識AIを使ってロボットを動かす研究をしていて、ある程度知識はあったので、まずサーバー側のパソコンで画像認識を行うシステムにするということを決めて、そこからスマートフォンやサーバー、現地に設置するマイコンを繫ぐ方法や使用するアプリの検討、画像認識AIのファインチューニングに取り組みました。自分自身がすべての機構のプロフェッショナルではありませんが、幅広く多様なシステムやアプリケーションの知識を組み合わせることによって、「欲しいもの」をつくり上げていった感じです。
―どのような点が評価されたのでしょうか。
フィードバック制御についてしっかり検討されていたことが評価されたようです。既存のバルブやセンサーを外付けのシステムでインテリジェント化するというアイデアは、導入に関する障壁を下げることが出来て有用性が高い、というご意見も頂きました。改善の必要を感じていた箇所に対するご指摘も頂きましたが、実際に動作可能なデモ機を作成した点を含め、ものづくりのレベルを評価していただけたことはたいへんうれしく感じています。
―今回の受賞は和内さんにとってどんな意義がありますか。
これまでの努力が報われたという気持ちもありますが、何よりも自分がやってきた方向が間違いではなかったとわかったことは大きいです。自分が欲しいなと思ったものが、もしかしてみんなも欲しいのではないかと考えてものづくりをしてきました。その発想が良いものだと評価されたことはたいへんうれしく、自信に繋がりました。世の中に改善できるものはたくさんあると思うので、これからも自分の発想を大事に、皆さんに提案していく、伝えていく、ということをしていこうと思います。
―チーム名「靴屋の小人」の由来は。
自分のものづくりに対するテーマに関係しています。「靴屋の小人」という絵本がありまして、登場する小人たちが、靴職人が眠っている間に働いて手助けするお話からインスピレーションを受けています。自分が見ていないところでも仕事をしてくれる存在となるようなものをつくって世の中の役に立ちたい、という気持ちから付けたチーム名です。小人たちと異なり、今回私は一人で開発したこともあって、システム内外での粗さがあり、デザイン面でも改良の余地が大きいと感じていて、実用化に向けた改善策も検討しています。
―将来への展望をお聞かせください。
将来はやはりメーカーへの就職を希望しています。今回のプロトタイプ制作によって、人の役に立つものを作りたい、という気持ちはますます強くなっています。自分が一番携わりたいのは、インフラ点検のような人間の代わりに働くロボットをつくること。その実現方法にはいろいろなアプローチがあると思いますが、自らのスキルを上げつつ柔軟な発想を生かして、誰かのために働くロボットをメンテナンスしたり設計したりすることができるエンジニアになりたいです。
―ありがとうございました。今後のご活躍をお祈りしています。
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