日本の伝統文化の再活用を提案した作品が
プロの建築家たちの作品を抑えて頂点に立つ

 この度、『ICS Design Award2019』 において、建築学専攻博士前期課程2年の藤野純也さん(浦部研究室)が最優秀賞を受賞しました。このデザインコンペティションは、日本で最も歴史あるインテリアデザインの専門学校ICSカレッジオブアーツが主催するもので、今年は『Re』をテーマに、現代の生活に最適化し、新しい生き方や暮らし方を示唆してくれるような道具・空間の『Re』デザインを募集。100件を超える応募の中から、書類による1次審査を通過した9作品が12月8日、公開2次審査へと進みました。その結果、藤野さんの作品『祭構築 山車×空き家の日常』が、プロの建築家の作品を抑えて、一般の部(カテゴリー/建築・屋内・屋外空間)で頂点に立つという快挙を成し遂げました。
 藤野さんに受賞の喜びと作品について詳しくお話を聞きました。

―最優秀賞受賞おめでとうございます。感想をお聞かせください。

 ありがとうございます。大学院に進学してから、自分の作品についての外部評価や批評、意見を聞きたいと思い、様々なコンペに挑戦してきました。この作品は、学部4年次の卒業設計を本デザインコンペのテーマに合わせながら、再考・再構成して制作した作品です。これまでも幾つかのコンペで賞はいただいていましたが、最優秀賞はより嬉しいですね。正直、公開2次審査のプレゼンテーションを終えた時には、全く手ごたえを感じていませんでした。当日、表彰式も行われましたが、受賞できるとは思っていなかったので、下の賞から発表されていき、最後に自分の名前を呼ばれた時には大変驚きました。

「提案以上の何かが起こりそうな可能性を感じる」という言葉に感激しました

―作品について詳しく説明していただけますか。

 多様化する現代社会の中で役目を終えたものを、新しく最適化するというテーマに対して、私は埼玉県川越市を舞台に自治会の衰退に伴って管理が行き届かなくなった「川越まつり」の山車と花街の空き家を再活用した横丁の活性化を提案しました。敷地に選んだのは、私の出身地である埼玉県の川越市中心部に位置する花街の遺構である弁天横丁です。かつて花街の拠点だった置屋も今は空き家となっています。芸者たちが暮らしていた置屋は、真ん中に中庭があるのが特徴的で、その建築構成に着目し、その空き家群を改修して再活用し、小さいながらも横丁の中心・顔となるような建築計画を考えました。
 普段からサーベイ(調査)を重視して計画を進めていますが、地元の人の聞き取り調査するために、実際に「川越まつり」を訪れました。この祭りは絢爛豪華な山車が町中を巡行する有名な祭りです。以前から日本の伝統文化継承に関心があり、この祭りにも何度か足を運んだことがありました。祭り当日なら、地元の人もたくさん居るはずだし、横のつながりを頼りに様々な問題も聞き出せるのではないかと考えました。また、まちの人たちの思いも汲み取って、提案に反映させる狙いもありました。そこでわかったことは、自治会により各地域で保管・管理されてきた山車は、高齢化や後継者不足による自治会の衰退が要因となり、維持管理が難しくなってきているという現状です。格納庫に入ったまま廃れていく山車。私は新たな維持管理方法として、山車を横丁の演出装置として活用することを考えました。置屋と置屋の間に山車が入ることで、横丁の空間が一つにつながり、夜は飲み屋として置屋内を梯子させることができます。さらに、一部の地域でかつて盛んだった高張提灯産業の製作の場として活用することも考えました。提灯は人を元気にさせる演出効果があり、横丁の活性化にもつながります。古くから地域にある資源に焦点をあて、現代社会での新たな利用法を提案することで、伝統文化を継承し地域の活性化を目指しました。

『祭構築 山車×空き家の日常』PDF

―どんなところが評価されたと思われますか。

 プレゼン時間3分、質疑応答2分の中で、どうしたら作品の内容を十分に伝えることができるかを考え、公開審査用に新たに手書きのイメージパースを書き起こし、パワーポイントのスライドにして提示しました。プレゼン時間3分に収まるよう、前日夜遅くまで入念にチェックもしました。しかし、ファイナリストに選ばれたのは一流の建築設計事務所の建築家や優秀といわれる大学の大学院生ばかり。しかもプレゼンの順番が大取りだったこともあり、他の人たちの発表を聞いて圧倒されてしまいました。そんな中で、どれだけ自分が戦えるのか、全力を出し切ろうと思いプレゼンに臨みました。それが、審査員にも伝わったのだと思います。また、指導教員の浦部智義教授から指摘されていたウィークポイントと同じ質問をされたのにも驚きましたが、すでにスタディーを通して解決方法を考案していたので、審査員が納得する回答ができたのもポイントになりました。これまでの研究室活動やコンペで積み重ねてきた経験も活かせたと思います。「今後、人口減少から日本が直面するであろう日本の伝統文化の継承問題に対して、現実的に無理のない提案による解決方法を丁寧に計画・提示できており、最優秀賞にふさわしい」と評価していただきました。また、「提案以上の何かが、ここで起きそうな可能性を感じる」と講評していただいたのも大変嬉しかったです。
 最優秀賞を獲得したことで、川越市の問題を多くの方に知ってもらうことができました。自分の設計活動を通して、地域の問題を共有できる機会になったと感じています。

地域の資源を活用することを大事にしながら、建築設計に携わりたい

―藤野さんにとって建築の魅力とは何ですか。

 時代が変わるとともに、建築の使われ方も変化しながら、地域に与える影響も変化していくところに、建築の魅力を感じます。この作品もそうですが、その時代時代で建築にどういう役割も持たせるのか、それを考えてあげることが大事だと思うのです。地域にあるものは、そこに住む人たちが一番よく知っています。それを理解して提案していくことが大事なんじゃないでしょうか。研究室活動で、南会津の農村舞台を活用して村を活性化させるプロジェクトに参加 した時、模型などを使って説明し住民の方たちの意見も聞いて、一緒に大桃夢舞台をつくりあげた経験からも、それを強く感じています。大学での設計課題では、いつも現地調査はもとより文献調査も重視して進めてきました。資料館でその土地の歴史を調べ、こういう土地だったという時代背景が明らかになると関心も深まり、より面白くなってきます。これからも、文化継承を1つの大きなテーマとして建築を追求できたらと思います。

―今後の目標をお聞かせください。

 現在、地元の素人役者たちによって演じられる、地方に根付いた地歌舞伎を題材に修士論文に取り組んでいます。活動を停止しているところもあれば、ジャンルを変えて上演は継続しているところもある地歌舞伎。実際に、携わっている役者や関係者、また地元の方たちにヒアリングしながら、今後もそういった文化活動を継続していくために何が大事なのかを考察できればと思います。
 研究室で行われる、研究と設計などの活動については、私自身は「(地域資源)建築による地域活性化⇔(地域資源)建築の長寿命化⇔地域資源(建築)の活用⇔自身の活動」の連関を意識しています。大学院(博士前期課程)修了後は、主に公共建築を設計する都内の建築設計事務所で働かせて頂く予定ですが、新しいものを建てるだけでなく、前述の連関の中から学んだ1つ、今ある資源を活用して地域を活性化させることも大事にしながら、設計できる機会に恵まれることも期待しています。

―後輩たちにメッセージをお願いします。

 私は、特に大学院生になってから、たくさんのコンペに参加しましたが、外部の方からの意見を聞くことで多角的な考え方を取り入れられるので、皆さんにもぜひコンペに挑戦してよりよい作品をつくってほしいと思います。私自身も、作品をつくって終わりではなく、他者の意見を聞いてさらに進化させていくようにしています。特に大学院では、研究室の様々な活動や研究、またコンペへの参加を通して、自分の専門性をある程度伸ばせたと思いますが、社会に出てからもそういう姿勢を持ち続けることで、建物に対する感じ方がより深くより幅広くなる様に、さらに成長出来ればと思います。

―ありがとうございました。今後の活躍も期待しています。

 

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