薬を体内に安定的に運ぶDDSの研究が
高分子分野で高く評価される

 9月21日(土)、22日(日)に公益社団法人日本化学会東北支部2019年度化学系学協会東北大会(山形大会)が開催され、生命応用化学専攻博士前期課程1年の安田京磨さんが優秀ポスター賞を受賞しました。会員約3万名を擁するわが国最大の化学の学会である公益社団法人日本化学会。本大会はその東北支部が主催するものです。
 生体材料工学研究室に所属する安田さんが発表した『ポリ乳酸をブレンドした脂質ナノ粒子の開発』は、高分子/繊維化学分野での受賞となりました。本分野では40件の発表のうち4件が選ばれています。
 安田さんに受賞の喜びと研究について詳しくお話を聞きました。

大豆油とポリマーナノ粒子を混合させることで
効果的に投与できる薬物キャリアの開発を目指しました

―優秀ポスター賞受賞おめでとうございます。感想をお聞かせください。

 初めての学会発表だったので、発表をやり切ったことに満足していましたから、ポスター賞のことは全く頭にありませんでした。受賞したことは休み明けに大学に行って友人から聞いたので、その時はとても驚きました。でも、興味を持ってくださる方々と話すことができて大変有意義でしたし、人前で発表するのも楽しく感じられました。この賞を励みに、次につなげていきたいと思います。

―研究について詳しく説明いただけますか。

 私たちの研究室ではDrug Delivery System(DDS)の研究を行っています。DDSは既存の薬物に加工や修飾を施すことでその治療効果を向上させる技術のことです。合成高分子のブレンドを利用し、時間的(持続時間)及び空間的(体内動態)に薬理効果を制御できる高分子ナノ粒子型DDS製剤の開発を試みています。大豆油をレシチンで乳化した脂肪微粒子であるリピッドエマルジョンは、脂溶性薬物のキャリアとして既に慢性動脈閉塞症や関節リュウマチの治療で臨床利用されています。しかし、リピッドエマルジョンは薬物担持安定性が低く、血中投与後すぐに薬物が油相から遊離してしまうことが課題となっています。そこで本研究室では、大豆油をポリマーに変えて漏れにくくする研究に取り組んできました。これまで開発したポリマーナノ粒子は漏れにくくなったものの、溶け出しにくいという難点がありました。本研究では、大豆油とポリマーナノ粒子を混合させることで、リピッドエマルジョンより安定的に、かつポリマーナノ粒子より容易に薬物を放出できる新しい脂質ナノ粒子の開発を目指しました。


 作成したBDPという薬物を粒子の中に封入して、漏れないかどうかをチェックしたところ、担持安定性はリピッドエマルジョンと同等でした。溶け出しについても、ちょうど中間的な放出性が見られました。プロドラックAS013でも実験しましたが、同様の結果が得られたことから、ポリマーの種類に影響がないことがわかりました。これらを実際に細胞に取り込んで実験を行った結果、貪欲細胞への取り込みを抑制できました。また、ラットの血液中に入れて滞留性確認したところ、リピッドエマルジョンより高い血中滞留性を示しました。総合的にみると若干良かったという結果でしたが、ポリマーナノ粒子を改良することで、さらに機能を向上できるものと考えられます。

 

―どのような点が評価されたと思いますか。

 様々な分野の研究者が集まる学会なので、初めて聞く方にもわかりやすく簡易的に伝わるよう意識して発表しました。思い返すと、質問にもきちんと答えられていたと思います。よくわからないので説明してほしいと言われて詳しく解説しましたが、興味を持っていただけたようでした。この研究は慢性動脈閉塞症などの治療への応用が期待されているので、研究内容も含め評価されたのだと思います。

社会人に必要なスキルを学べるのは大学院の大きなメリットです。
将来は研究開発職に就きたいと考えています。

―今後の目標をお聞かせください。

 脂質に関しては一旦保留し、ポリマーナノ粒子の研究をさらに進めていく予定です。医薬品に関する研究ですが、従来にない手法でアプローチしているので、研究を進めるにあたって予測できないことが多々あります。まだまだ理解できない難しいことばかりですが、よい成果を出し、少しでも医療に貢献できるよう取り組んでいきたいと思います。

―なぜ大学院に進んだのですか。

 大学生活の中で、理系の学生が一番面白いと感じるのは研究です。学部4年の1年だけでは物足りない、もっと研究したいという思いから大学院進学を決めました。研究は上手くいかないのが大半で、嫌になることもありますが、予想通りできたときは達成感があり喜びもひとしおです。研究だけでなく、ロハス工学特論の授業で他学科の教授陣の講義が受けられるのも魅力です。違う視点から化学を見ることで、化学への理解がより深まります。また、一つの組織である研究室という集団の中でどう行動すべきかも学べました。学会などでの発表も増えるから、レジメの作り方やプレゼンテーション能力も身につきます。社会人に必要なスキルを学んでから就職できるのは大きなメリットです。私は大学院での経験を活かして、将来、研究開発職に就きたいと考えています。大学院に行こうか迷っている人がいたら、ぜひ進学することをお勧めします。

―ありがとうございました。今後益々活躍されることを期待しています。

 

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