『ロハス工学』が新たなステージへ、その第一歩を踏み出す

 2月23日(土)、工学部50周年記念館3階大講堂において、市民公開シンポジウム第8回ロハスの工学シンポジウム『ロハスの工学のこれまでを振返り、これからを考える』を開催しました。東日本大震災の翌年から始まり、今年で8回目を迎えたロハスの工学シンポジウム。その間、ロハスの工学を基軸とした研究は目覚ましい発展を遂げており、学内に留まらず、学外でも社会実装される成果を生み出してきました。その重要性を再認識するとともに、健康で持続可能な生活と社会の実現に向け、学生と共に、地域と共に、社会の様々な場面へロハス工学の教育・研究成果を展開するために、『ロハスの工学』を『ロハス工学』と呼称を改めることとしました。その一環として、この度、学生から広く一般の方々までを読者対象とした書籍『ロハス工学』(発行元:日経BP社)を出版。さらに、ロハスの知見を活かしながら、地域の子どもの健康や子育て子育ち支援を実践する場づくりを目指す、新しい菊池医院(小児科、郡山市)の実現に向け、『LOHAS Motomachi Child Health Center プロジェクト』が始動。本シンポジウム開催にあわせて、これらのプレス発表も行いました。

21世紀の学問のススメ、書籍『ロハス工学』を出版

 はじめにプレス発表が行われ、工学部長出村克宣教授が出版に至るまでの経緯について説明いたしました。工学部が教育・研究のテーマとして掲げるロハスの工学を見える化したのが、2009年から2011年にかけてキャンパス内に設置したロハスの家。その後、東日本大震災の体験し、改めてロハスの工学の考え方の大切さを再認識したこ とから、ロハスの工学を世の中に広め、福島の復興について市民の皆様と考えるために『ロハスの工学シンポジウム』を開催。更に、広く世の中に知一昨年立ち上げた、工学研究所プロジェクトの一つ『ロハス工学教育教材開発プロジェクト』の中にロハス工学編集委員会を設けて、出版に向け準備を進めてきたと説明しました。出村学部長は、「日本大学が130周年を迎える年に、工学部の一つの成果として本書を出版できたことは大変喜ばしい」と特別な思いを滲ませていました。
 続いて、ロハス工学編集委員会委員長の岩城一郎教授が、書籍『ロハス工学』の内容について説明いたしました。第1編序論『ロハス工学の思想と背景』では、文明の変遷を説明しながら、21世紀の社会にとって不可欠な新工学体系とする『ロハス工学』の考え方を解説。第2編『ロハス工学の役割』では、ロハスの実現に向け、土木、建築、機械、電気・電子、化学・バイオ、情報、農林水産、健康の8つの分野がいかにロハスと関わっているのかを解説。第3編『ロハス工学の実践』では、応用研究と社会実装の事例を紹介しています。この第3編には、工学部の教員だけでなく、ゲストライターとして、震災以降、福島の復興に向けて連携してきた、郡山市の菊池医院長の菊池信太郎氏にも執筆いただいております。岩城教授は「21世紀の学問のススメとして、特に福島県内の方々に読んでいただき、ロハス工学の考え方を知ってもらいたい」と出版の主旨を伝えました。

 

地域の子供たちの健康を守るために、ロハス工学に基づく新しい診療所をつくる

 次に、『LOHAS Motomachi Child Health Center プロジェクト』について発表いたしました。まず、菊池氏(下の写真左)がプロジェクトの概要について説明されました。70周年を迎えた菊池医院は、現在の多様化する診療や郡山市街地の活性化に対応可能な拠点づくりを目的とする新しい診療所を検討。そこで、工学部および福島県の企業と連携し、ロハス工学に基づく診療所と付帯施設の建設に向けたプロジェクトを立ち上げました。地域の子どもたちの健康を守り、地域の子育て子育ちを支援し、まちの活性化を実践する場づくりを目指すと言う菊池氏。「どう健康を維持・持続できるのかをコンセプトに、病院を通してロハス工学の重要性を伝えたい」と強調されました。
 続いて、プロジェクトに携わる建築学科の浦部智義教授(下の写真右)が、建築計画ついて説明いたしました。健康をキーワードに様々なロハスの建築技術を実装するとともに、福島の仮設住宅の再利用、木の多様化、省エネの視点、ランニングコスト削減などの要素も盛り込まれています。浦部教授は、「子育てカフェも併設するなど、健康をキーワードにしたロハスコミュニティ的な空間になるだろう」と示唆しました。

『ロハスの工学のこれまでを振り返り、これからを考える』

 その後行われたシンポジウムでは、『ロハスの工学』を通した健康で持続可能な生活と社会のあり方について、市民の皆様とともに考えました。

基調講演Ⅰ 『ロハスの技術者育成と地域形成のこれまでとこれから』

日本大学工学部上席研究員 加藤康司氏
 工学部がどのようにロハスの工学を取り入れ、社会に実装していったか、その20年の軌跡と意義について述べられました。更に、これからの20年でロハスの工学が“若木”から“大樹”になり、子どもたちがロハスの文化を創り自然共生社会が形成されていくことで、真の復興につながるのだと伝えました。

基調講演Ⅱ 『LOHASの子どもの成育環境の創造を福島から』 

小児科医 菊池信太郎氏(医療法人仁寿会菊池医院理事長・院長/認定NPO法人郡山ペップ子育てネットワーク理事長)
 菊池氏は、福島県の子どもたちが直面した震災後の環境変化によって、心と体の健康度が低下していることに触れ、子どもたちの成育環境を創ることが重要であると言及。工学部の教員と連携しロハス工学の思想やアイディアを取り入れながら、ロハス工学に基づく診療所を建設し、持続可能な健康につなげていきたいと抱負を述べられました。

 ここで来賓を代表して、品川萬里郡山市長にご登壇いただき、ご挨拶を兼ねて本シンポジウムへの講評をいただきました。品川市長は菊池氏の講演を受け、震災後の一番の被害者である子どもたちを懸念し、行政としても子どもの人権を原点と考え取り組むことを明言されました。

 続いて行われた『話題提供』では、工学部の6名の教員が、それぞれの専門分野の研究とロハスとの関わりについて紹介しました。

 

 『ロハスと土木~社会と環境の共生を志向する新たな土木像~』 土木工学科 教授 岩城 一郎

多様化する土木の役割について触れるとともに、グレーインフラとグリーンインフラのベストミックス、ハイテクとローテクの融合、他の工学分野との連携、そして住民との協働でインフラ整備に取り組むことが必要だと言及しました。

 『ロハスと建築』 建築学科 教授 浦部 智義

 「強」、「用」、「美」をキーワードに発展してきたこれまでの建築。これからのロハスの建築に求められるのは、「多機能」、「複合」、「再利用」といった高密度な建築であり、使う人の心理・気持ちを大事にすることだと説明しました。

『人が自然と共生するための機械設計』 機械工学科 准教授 伊藤 耕祐

 製品のライフサイクルにおける物とエネルギーの流れについて解説。今日求められる製造工程は材料から廃棄するまでを考えた環境適合設計であり、人と自然が共生するための機械設計を考えることが大切だと伝えました。

『ロハス工学が電力・情報通信網に継ぎ足すもの』 電気電子工学科 准教授 村山 嘉延

 つないで制御することで新しい機能を生み出してきた電気電子工学の技術。今後さらに複雑化するネットワークに人がつながる時代になった時どう対応できるか、電気電子工学の課題でもあると示唆しました。

『IoTやAIを活用するビッグデータ時代のロハス社会~ロハスと情報工学のかかわり~』  情報工学科 教授 若林 裕之

 ロハスを支える要素技術として、IoT、AI、ビッグデータを挙げて解説し、それぞれが融合して発展を遂げていると説明しました。また、自身が取り組む人工衛星を使ったリモートセンシングによる環境モニタリングの研究も紹介しました。

『自然の摂理に逆らわないロハスの農林水産』 土木工学科 教授 中野 和典

 健全な食糧や資材の生産を持続可能な方法で生産する農林水産業を実現するためには、エネルギー収支も含めた包括的な視点で自然の恵みを巧みに利用するロハス工学の考え方や技術が必要だと述べました。

工・農・医と産学官民の協働によるロハス工学

 最後に行われたパネルディスカッションでは、話題提供した教員4名と菊池氏により、ロハスの工学のこれまでを振返るとともに、これからについて意見交換を行いました。

 まずは各人がロハス工学にどう取り組み、その中でどのような課題があったかについて紹介しました。中野教授は水とエネルギーの自立を目指すロハスの家を参考に、ロハスの花壇、ロハスのトイレの研究開発に取り組みました。浦部教授は福島県内を中心に地域の拠点づくりにロハスの要素を導入できたことが良かった点だとする一方で、もっと面的な展開も必要だと課題を挙げました。立ち上げ当初からロハスの家プロジェクトに携わってきた伊藤准教授は、実用普及段階に至っている地中熱採熱技術の研究に尽力。ロハスの家の研究に関わった学生たちがその技術を社会に広めていくことに期待を寄せました。菊池氏は、人が生活する環境やエネルギーは工学によってもたらされるもので、その影響を受ける人体を対象とする医学においても、ロハス工学と密接に関わる必要があると言及されました。コーディネータ―を務める岩城教授はこれまでを振り返り、各研究者がロハス工学の研究に取り組む中で、分野横断がスムーズに進み、縦糸に横糸が組みこまれたのが最も良かった点ではないかと述べました。

 ここからは、会場からの質問を交えながら、意見交換を進めていきました。会場の須賀川市の職員の方から、「官として大学とどのように関わっていけばよいか」という質問が投げかけられました。伊藤准教授は、「大学に対して何でも要望してほしい」と答えました。中野教授は官が縦割りの大学の横糸になって繋がることを所望されました。浦部教授は葛尾村との連携を例にして、「形になっていない段階で相談してもらう方が上手くいく」と示唆しました。次に、工学部の研究員から、社会でロハスを実践する際のロハス指標の定義は何かと問われました。現時点では明確な答えはありませんが、持続可能、再生可能、ランニングコストといった面から評価できるのではという意見もありました。岩 城教授は個々が研究を進めていく中でそうした視点を持つことは大事だと述べ、今後の課題としました。また、大学院の授業でロハス工学特論を学んだ電気電子工学専攻1年の学生から、「他分野の研究について知ることができ、大変有意義だった」との声が聞かれました。書籍『ロハス工学』の内容を学修する『ロハス工学特論Ⅰ・Ⅱ』では、専攻を混在させたグループでディスカッションやプレゼンテーションも行っており、教育効果を上げています。岩城教授は、学生の意見も取り入れ、さらに良くしていきたいと伝えました。
 最後に、『これからのロハス工学を考える』をテーマにパネリストに今後の抱負をフリップに書いてもらい、その思いを語っていただきました。『世界にはばたけ LOHAS Engineer!!』と書いた伊藤教授は、すでに世界に羽ばたいている卒業生を例に挙げ、ロハス工学を学ぶ学生たちにロハスエンジニアとして世界で活躍してほしいとエールを送りました。『〇×〇=∞』という数式を記した菊池氏は、その意味を他分野同士がつながることで足し算ではなく掛け算になり、それが無限大に広がることが期待できると説明されました。『楽しみ(ながら)継続する(させる)』と書いた浦部教授は、ロハス工学がサステナブルであるためには、楽しみながら継続することが大事だと言及しました。中野教授は『ロハス工学は 世のため人のため になる』と書き、「他にはないロハス工学はやりがいがあり、世界をリードできるかもしれない。それが世のため、人のためになるのならエンジニアとしての本望。学生へのエールを込めて、幅広い視点でロハス工学を学んでほしい」と呼びかけました。岩城教授は、自分の生活、教育・研究が、”健康健全で持続可能”という2つの指標に合致しているかを考えながら取り組んでいくことが大事だと述べ、フリップに『人それぞれのロハス』と記して、パネルディスカッションのまとめの言葉としました。
 閉会にあたり、工学研究所次長の柿崎隆夫教授が登壇し、ご挨拶しました。「ロハス工学は連携も含め、新しい段階に入った。ロハス工学を学生諸君、また小・中・高校生といった若い人たちに教えていくこと、健康で安心して暮らせる未来をつくることが工学部の役割」と述べるとともに、シンポジウムに参加した皆様に感謝の意を伝えました。
 参加した高校生からは、「これから先、ロハス工学の考え方が必要になることを実感した」、「震災時にも電力に頼らず利用できるロハスのトイレに興味を持った」、「単に建物としてではなく、利用する人たちが心地よいと思う診療所の建設を考えていることは素晴らしい」といった感想が聞かれました。機械工学専攻の学生(右の写真)は、「ロハス工学を通して、建築や電気など他分野の研究について知ることができるのは、大変興味深く貴重なこと。もっと幅広い人たちにロハス工学の意義を知ってほしいと思う」と話していました。
 今回、学外から唯一参画された菊池氏は、「小児科以外の分野の先生方と出会えたことで大きな展開に結び付いた。医療と工学がつながることによって、さらに大きく展開できる可能性がある。互いに発展していきながら、郡山の活性化に寄与していきたい」と話しています。ロハス工学編集委員会委員長を務めた岩城教授は、「この書籍を通して、学生だけでなく、市民の方々にもロハス工学の考え方をご理解いただければと考えている。出版という形が一つの成果であり節目でもある。ここから、新たなスタートを切り、また次の10年に向けて更にロハス工学を発展させていきたい」と意気込みを語っていました。
 ロハス工学は新たなステージへとその第一歩を踏み出しました。人と地球の未来のために、福島の発展のために、工学部、そしてロハス工学の果たすべき役割は益々広がっていくことでしょう。