乾燥耐性や塩害耐性につながる可能性のある、遺伝子レベルでの環境適応を探る研究が高く評価される
9月6日(土)から7日(日)に行われた、令和7年度化学系学協会東北大会(山形大会)において、生命応用化学専攻博士前期課程2年の佐竹弘太朗さん(分子遺伝学研究室/岸 努教授)が優秀ポスター賞を受賞しました。佐竹さんが発表した『高浸透圧環境に適応する過程におけるグリセロールチャネル開口因子 Rgc2の調節機構』は、「高分子化学/繊維化学」部門での受賞となります。分子遺伝学研究室では、これまで知られていないストレス応答のメカニズムを読み解くとともに、得られた成果を抗癌剤開発へ応用するための基礎研究にも着手しています。
佐竹さんに受賞の喜びと研究について詳しくお話を聞きました。
―優秀ポスター賞受賞おめでとうございます。感想をお聞かせください。
学会発表は3回目でしたが、今回は化学系の学会だったので受賞できるとは思っていませんでした。学会が行われたのが実家のある米沢だったので、受賞者の発表を待たずに実家に帰ってしまったため、2日後くらいに後輩からの電話で受賞したことを知りました。その後、自分でも学会のHPを見て、「本当に受賞したんだ」と思ったくらい、いまだに信じられない気持ちです。
―研究について詳しく説明いただけますか。
細胞がストレスから回復する仕組みを理解することは、病気の治療研究につながる可能性があります。
私たちの研究室では、パン作りに使われるイースト菌の一種である「出芽酵母」という酵母を使って研究しています。出芽酵母は様々な生命現象を扱った研究によく用いられています。人と共通する遺伝子が多く、また扱いが比較的容易であるためです。そこで、私は高浸透圧環境におかれた細胞がその環境に適応するメカニズムの解明を、出芽酵母を用いて挑みました。高浸透圧環境というのは、細胞や生物の周囲の溶液濃度が、細胞内の濃度よりもはるかに高い状態を言います。例えば、なめくじに塩をふりかけると、体内から水が外に出て、体が縮むのと同じ状態です。
―細胞が「高浸透圧環境」にさらされると、どんなことが起こるのですか?
高浸透圧環境では、細胞内から細胞外へと水が流出し、細胞の体積が減少します。体積の減少は、酵素反応に悪影響を及ぼすため、水の代替物質としてグリセロールを合成して蓄積します。高浸透圧ストレスを感知した細胞は、HOG 経路(High-Osmolarity Glycerol Pathway)を活性化することによって、この調節を行います。しかし、HOG 経路を活性化したままだと細胞は死んでしまします。そのため、HOG経路を適切なタイミングでオフにすることも非常に重要です。しかし、それを制御する、つまり「不活性化のメカニズム」については、これまでほとんど分かっていませんでした。そこで私たちは、HOG経路の主要因子であるタンパク質のリン酸基を外す「脱リン酸化酵素」に注目し、その候補を網羅的に調べ、フォスファターゼとしてReg1/Glc7が関与していることを突き止めました。
―研究からどのようなことがわかったのですか。
HOG経路を適切なタイミングでオフにするメカニズムを明らかにしました。Hog1は、Reg1を介して自動的に不活性化されるようにプログラムされているというわけです。具体的には、高浸透圧ストレスは、Hog1を活性化します。すると、活性化されたHog1は、Reg1をリン酸化して活性化します。今度は逆にReg1がHog1を不活性化します。これは、従来知られていた高浸透圧応答とは全く異なる、新しいストレス応答であり、本研究の大きな発見です。

―どんなところが評価されたと思われますか。
多くの方が発表を聴きに来てくださり、時間をかけてじっくりと議論しました。同じ仕組みを植物に応用できれば、乾燥や塩害に強い作物の開発につながるかもしれないとの助言も賜りました。質問いただいたことにも、しっかり答えられた点が良かったのかなと思います。やはり学会のポスター発表だと質問されたことに対して、自分の考えを持って明確に説明することがとても重要になってくると思うのですが、そこができたというのは、岸先生のおかげだと思っています。1日3~4時間くらい、岸先生とディスカッションを積み重ねてきました。大学院1年次の頃は他の研究者の論文のデータを用いて分析していましたが、岸先生から自分が行った実験データとしっかり向き合うことが大事だと諭され、自分で導き出したデータに対してきちんと考察したからこそ、説得力のある発表ができたのだと思います。岸先生には親身にご指導いただき、深く感謝しております。
―なぜ、生命応用化学を学ぼうと思われたのですか。
実は、医学部を目指していたんです。いざ医学部を受験する段になり、医師は「目の前に来た患者さんしか救えない」「対処療法が中心になりやすい」という点に限界を感じるようになりました。もっと根本から病気にアプローチし、より多くの人を救う方法はないかと考え始めたんです。いろいろ大学を調べていた時、細胞が受けるストレスに対する応答機構を研究されている岸先生の存在を知りました。生命応用化学なら基礎研究を通じて病気の根本的な解決に挑戦できる、細胞の仕組みを解明することで癌治療に貢献できれば、医師とは別の角度で多くの人の役に立てるのではないかと思い、進学を決意しました。
―学部時代から6年間を振り返って、良かったと思うことは何ですか。
一番良かったことは、人との出会いです。素晴らしい先生方に巡り合えたことと、先輩後輩を含め良い友人たちに恵まれたことは、日本大学工学部に進学して良かったと思うことでもあります。特に研究室に配属されてからは、岸先生のおかげで伸び伸びと研究ができ、興味のあること、やりたいことをトコトンやらせてもらえました。それは自分自身の成長にも大きくつながっています。
―今後の目標についてお聞かせください。
将来的には起業したいという気持ちはあります。そのための第一歩として、ベンチャー系のITコンサル企業を志望しました。主に経営者(クライアント)の思いを振動のように捉え、戦略立案を軸に、実現に向けての役割を担います。研究に近い思考力が求められる仕事だと思っています。興味のあることに挑戦できるときこそ、自分の強みが生きると実感しています。自分の強みを活かしながら、どんな場所でも価値を出せる人間になりたい。そして、社会的インパクトが大きいことをやりたいと思っています。
―ありがとうございました。今後益々活躍されることを期待しています。

★令和7年度化学系学協会東北大会(山形大会)はこちら
★分子遺伝学研究室HPはこちら

