福島から世界を動かす!産学官で挑む被災地発イノベーションの現在地

2025年11月18日(火)、日本大学工学部50周年記念館(ハットNE)3階大講堂において、「第24回 産・学・官連携フォーラム」を開催いたしました。本フォーラムは、公益財団法人郡山地域テクノポリス推進機構と日本大学工学部の連携により、対面とYouTube配信を併用したハイブリッド形式で実施され、多くの産業界・学術界・行政関係者が参加しました。
今回のテーマは「被災地から生まれたイノベーション」。東日本大震災からまもなく15年を迎えようとする中、被災の経験をいかに技術革新や地域防災へと昇華させてきたか、産学官それぞれの視点から貴重な講演が行われました。
公益財団法人郡山地域テクノポリス
推進機構 評議員
郡山商工会議所 副会頭 伊藤 清郷 氏
日本大学工学部工学研究所 所長
岩城一郎 教授
災害対策製品から世界へ
神田産業株式会社 ハニリアル事業部 営業技術部 部長 石澤秀忠 氏

明治30年に材木商として創業し、時代の変化に合わせて段ボール製造へと業種転換した神田産業の石澤氏は、東日本大震災を機に開発した「ハニリアルボード製パネル組立型治療室」について講演しました。震災時、避難所に届けた段ボールシートが住民の工夫でパーテーションや断熱材として活用される様子を目の当たりにし、「段ボールは人の命を守る素材になる」と確信。組み立てに専門知識や道具を必要としない、3人が15分ほどで組み立て可能、防水加工、という設計コンセプトのパネル組立型ERの開発に注力しました。日本大学工学部をはじめとする産学官連携により、学術的裏付けに基づいた改良を重ねてきました。
この技術は災害時の有用性が認められ、近隣の市町村と物資の災害時供給協定も締結。国内の被災地支援を経て、現在はJICA SDGsビジネス支援事業に採択され、アフリカ・ザンビアへと展開されています。医療施設が不足し、妊産婦死亡率が高い農村部において、重機不要で組み立てられるこの治療室は、安心安全な出産を支える希望の光となっています。石澤氏は「今日の小さな木が明日の大きな森になる」というザンビアのことわざを引用し、母校である日本大学への愛着と共に、福島発の技術で世界の社会課題を解決しようとする強い決意を語りました。
ロハス工学発 洗浄水再生システムの開発の軌跡
―非常時のトイレ問題の解決を目指して―
日本大学工学部 土木工学科 中野 和典 教授

仙台での被災経験を持つ中野教授は、赴任した日本大学で出会った「ロハス工学」を起点に、10年以上にわたり研究を続けてきた「洗浄水再生システム」の開発軌跡を語りました。教授が着目したのは、日本の災害現場で繰り返される深刻なトイレ問題です。インフラが寸断され、不衛生なトイレを避けるために飲食を控えた結果、持病の悪化などで亡くなる「震災関連死」を防ぐためには、水と電気を自給自足する「自立型トイレ」の普及が不可欠であると説きました。
学術的な「人工湿地」の技術を花壇からトイレへと応用し、試行錯誤を経て辿り着いたブレークスルーは、マスクと同素材の不織布を用いた「固液分離」技術です。これにより、汚物を10分の1に減容化し、専門業者を待たずとも自助努力で運用し続けられる仕組みを実現しました。現在は日本大学発ベンチャー第一号として立ち上げた「e6s(エシックス)」で、日常使いのトイレが非常時にも役立つ「フェーズフリー」の概念を提唱。石川県やTOTO,TOYOTAといった民間企業と連携し、能登半島地震の被災地支援や「トイレカー」の開発など、福島発のイノベーションで世界中の衛生環境を改善することを目指しています。
福島イノベーション・コースト構想から生まれたイノベーションとは
公益財団法人福島イノベーション・コースト構想推進機構 産業集積部 部長 小林正典 氏

官公庁を代表して登壇した小林氏は、震災と原子力災害で失われた浜通り地域の産業回復を目指す国家プロジェクト「福島イノベーション・コースト構想」の歩みと成果を説明しました。避難指示解除後も残る人口減少や経済停滞という厳しい現実に立ち向かうため、廃炉、ロボット、航空宇宙など6つの重点分野を軸に、新たな産業基盤の構築を推進。これまでに428件の企業立地と4,800人の雇用を創出してきた地道な活動を報告しました。
小林氏は、イノベーションをオーストリアの経済学者シュンペーターの言葉「新結合」になぞらえ、既存の延長線上にない価値創造の重要性を強調。イノベ実用化補助金やスタートアップ支援プログラム「Fukushima Tech Create(FTC)」等を通じて、ロボット・ドローンからインフラ、農林水産業、医療関連、航空宇宙、介護・リハビリ・コミュニケーションなどにおいて革新的事例が地域に根付き始めていることを示しました。来年度から始まる「第3期復興創生期間」に向け、地域の企業が主役となる「地域の稼ぎ」や「日々の暮らし」の向上を見据えた新たな産業の青写真を提示。参加者一人ひとりが復興の「変革者」として自分事化し、連携することで福島発の成功を世界へ波及させようと熱く呼びかけました。
工学研究所次長
加藤 隆二 教授
閉会にあたり、加藤教授は「震災から15年が経過しようとする今、科学技術の無力さを感じたあの日から、私たちは着実に新しいイノベーションを生み出してきた。今日のお話を聞き、厳しい環境こそが新しいものを生み出す原動力になることを改めて実感した」と総括。産学官の絆をさらに深め、この福島から世界を牽引する技術を発信し続ける決意を新たにし、講演会は盛況のうちに幕を閉じました。
この後、見学会が行われ、福島イノベーション・コースト構想推進機構ブース、工学部キャンパス内に設置されている「ロハスのトイレ」実機、ロハスの森「ホール」では神田産業展示物をご覧いただきました。

イノベ機構ブース見学

ロハスのトイレ見学

神田産業展示物
私たちの「福島への想い」が世界を照らす
今回のフォーラムで語られたのは、単なる「技術」の話ではありませんでした。それは、困難を経験したからこそ生まれた「誰かの役に立ちたい」という温かい情熱の記録です。須賀川の段ボールがザンビアの母子を救い、大学の研究室で生まれたトイレが日本の災害現場を変えていく。そして、それらを支える大きな構想が、私たちの福島を「世界一挑戦しやすい場所」へと変えつつあります。イノベーションとは、遠い国の出来事ではなく、この地で暮らす私たちの情熱が繋がった先に生まれるもの。福島発の輝くアイデアが、これからも次々と世界を照らしていく。そんな確信を抱かせてくれる、希望に満ちた一日となりました。
