がん細胞やウイルスに効果的な製剤開発につながる研究が高く評価される
9月6日(土)から7日(日)に行われた、令和7年度化学系学協会東北大会(山形大会)において、生命応用化学専攻博士前期課程2年の保戸塚康裕さん(生体材料工学研究室/石原務教授)が優秀ポスター賞を受賞しました。保戸塚さんが発表した『脂質ナノ粒子(LNP)によるタンパク質の細胞内デリバリー』は、「高分子化学/繊維化学」部門での受賞となります。生体材料工学研究室では、副作用を低減し患者に優しく難治性疾患を治療可能にするDDS医薬品(ドラッグデリバリーシステム)の研究を行ってしいます。
保戸塚さんに受賞の喜びと研究について詳しくお話を聞きました。
―優秀ポスター賞受賞おめでとうございます。感想をお聞かせください。
ありがとうございます。先輩方が受賞されている姿を見て「自分もいつかあんな風になれたら」と憧れていたので、本当に嬉しいです。初めての学会発表だったこともあり、正直自信はなかったのですが、石原先生には入念に面談していただき、前夜もホテルの部屋でギリギリまで練習したりと、悔いの残らないよう準備して臨みました。努力が実を結び達成感を感じるとともに、大きな自信に繋がりました。
―研究について詳しく説明いただけますか。
今、非常に注目されている薬に「抗体医薬」というものがあります。これは、がん細胞や病気の原因となるウイルスを標的として特異的に結合し高い効能を示す、非常に優れた薬です。しかし、大きな弱点があります。それは、分子が大きすぎて、細胞の膜を通り抜けられないということです。細胞の外や膜表面にある病原体には攻撃できても、細胞の中に潜んでいるがんの原因やウイルスには、薬が届かないことが課題でした。そこで、抗体を特殊なカプセルに入れて細胞内へ透過させるための研究に取り組みました。
私が着目したのが、LNP(脂質ナノ粒子)です。モデルナやファイザーの新型コロナワクチンで耳にしたことがあるかもしれませんが、あのワクチンも壊れやすい成分をLNPという脂質のカプセルで包むことにより体内に届けています。このモデルナの設計を参考にしつつ、中身を抗体(タンパク質)に詰め替えて、さらにより確実に細胞内へ取り込まれるように、カプセルの表面にRGDペプチドを装飾しました。RGDは細胞の表面にあるインテグリンに結合しやすく、いわば細胞の扉を開けるための「鍵」の役割を果たす物質です。これにより、細胞膜の一部がくぼみ、そこから物質を包み込んで小胞(エンドソーム)を形成するエンドサイトーシスという輸送現象によって、抗体を効率よく細胞内に取り込むことができます。
細胞内に入った後、今度はカプセルを壊して中身の薬を取り出す必要があります。細胞の中は酸性の環境になっています。私が使用したLNPには、酸性になるとプラスの電気を帯びるという特殊な脂質が含まれています。この電気的な性質の変化を利用することで、細胞の中に入った瞬間にカプセルがうまく崩壊し、中の抗体が放たれる仕組みになっています。LNPの調製には、電荷がほぼ中性であり、人間の血液に最も多く含まれるグロブリンを使用しました。LNPの物性評価も行い、総電荷量が負のGlo誘導体ほど正電荷を有するイオン化可能脂質との静電相互作用によってLNPに封入されやすいことが分かりました。さらに、作製したLNPが細胞内に取り込まれているかどうか、蛍光顕微鏡を使って検証しました。結果、RGD装飾したものとそうでないものを比較し、前者の方がより顕著に細胞に取り込まれていることも確認できました。また、脂質の割合や抗体量とのバランスが細胞内への取り込みに影響を及ぼすという結果も得られました。
―どんなところが評価されたと思われますか。
質問されそうなことを想定し事前に回答を用意するために、自分の研究に関連することについて調べたりしました。そのおかげで研究に対する知識が深まり、自信を持って説明することができました。深く理解したうえで説明できた点が評価されたのだと思います。審査員を意識せず、誰にでもわかりやく説明し、真摯に答えるようにしたのも良かったのかもしれません。
学部4年の時に引き継いだ研究ですが、実際に抗体を入れて実験するのは初めてのアプローチだったので、なかなか成果が出ずに試行錯誤しました。諦めず粘り強く食らいついてやってきて良かったです。ご指導いただいた石原先生には大変感謝しています。
―なぜ、生命応用化学を学ぼうと思われたのですか。
もともと生命分野と有機化学に興味があり、どちらも学べる環境がある生命応用化学科に魅力を感じ、工学部に入りました。1,2年次はコロナで対面の授業が少なかったのですが、3年次はいろいろな実験があって面白かったですね。実験レポートは大変でしたが、自分のスキルが向上していくのを感じました。大学院に進学したのは、創薬系の知識を深めたかったし、就職の選択肢も広がると考えたからです。この研究室に入って先輩方に助けられましたし、石原先生のことも大変尊敬しています。ここで学べて良かったと思っています。
―将来の目標をお聞かせください。
研究に関しては、今回、高精度のデータが得られ薬理効果も実証できました。さらに信憑性を高め、製剤開発につなげていくことが目標です。私自身、幼少期からひどい食物アレルギーを持っていて、病院での治療経験を通して、将来は医療に携わりたいと思っていました。医療機器を扱う企業に就職も決まったので、患者さんの命を救い、健康を支えられるような製品を世に送り出せる技術者になりたいと思っています。


