偶然から生まれた研究が、評価される研究へ
化学の面白さを体現し、新たな合成法を生み出す
9月6日(土)から7日(日)に行われた、令和7年度化学系学協会東北大会(山形大会)において、生命応用化学専攻博士前期課程2年の岩渕正恭さん(有機機能分子化学研究室/庄子卓准教授)が優秀ポスター賞を受賞しました。岩渕さんが発表した『Synthesis and properties of 11,11′-biindeno[2,1-a]azulenylidenes』は、「有機化学」部門での受賞となります。
有機機能分子化学研究室では、“有機合成化学”と”有機反応化学”を駆使して、新規芳香族化合物を基盤とした新たな有機機能分子の創出とそれらの機能性の解明を目的として研究を進めています。
岩渕さんに受賞の喜びと研究について詳しくお話を聞きました。
―優秀ポスター賞受賞おめでとうございます。感想をお聞かせください。
ありがとうございます。とても嬉しかったという気持ちと同時に、正直なところ驚きも大きかったです。周りのポスター発表が本当にレベルの高いものばかりだったので、自分が選ばれるとは思っていませんでした。発表に集中しすぎて、審査員の方が誰なのかも分からないくらいでした。終わった後に友人と「審査員の方、来なかったね」と話していたほどです(笑)。それだけに、後から受賞を知ったときは本当に驚きました。
―研究について詳しく説明いただけますか。
私たちの研究室では、主にアズレンという化合物に様々な機能を付与して、酸性条件下で光る性質を持つ新たな有機化合物をつくる研究をしています。例えばがん細胞は周囲よりもpHが低いので、そこに化合物を入れて光らせることで、がん細胞を検出できる可能性があります。これまでの研究では既存の方法でつくっていましたが、今回は新しい合成法にフォーカスしました。実は、既存の化合物の誘導体をつくることを目的に実験を進めていましたが、目的としていたものとは別の化合物ができてしまったのです。通常、この化合物をつくるには過激な条件が必要ですが、簡単に短時間でつくることができてしまったわけです。それが面白そうだと感じました。そこで、新しい物質をつくること自体よりも、「なぜこの反応が起こったのか」「どのような経路をたどって生成したのか」という合成法そのものに着目したのです。数学の問題のように、最初の式と答え(生成物)はわかっていて、途中の式、つまり反応経路がわからない状態でした。様々な試薬を使ったり、光を遮断したり、酸素を除去したりする実験を行い、一つずつ確かめながら反応経路を解明していきました。
―どんなところが評価されたと思われますか。
発表中に「面白い研究をされていますね」と言われたことが特に印象に残っています。自分の研究の面白さを他の人に伝えるのは難しいので、分野が異なる研究者の方にも伝わったことが評価されたポイントだと思います。これまでの学会発表では、なかなか言われたことがなかったので、大きな自信になりました。また、合成経路をどのように検証したのか、という点についての質問が多かったです。反応途中を確かめるために行った実験はすべて自分で把握していたので、持参した資料を使いながら詳しく説明することができました。それも良かったと思います。
―なぜ、生命応用化学を学ぼうと思われたのですか。
高校時代から理科が好きで、特に化学に興味がありましたが、どの化学分野が好きなのかは判然としていませんでした。この大学は生命化学や有機化学など様々な化学分野を扱っているので、入学後に専門を決められると思い選びました。授業を受けて興味を持ったのが有機化学でした。実験が好きということもありますが、今回の研究のように意図しないことが起こったりする面白さがあります。化学を使ったものづくりは世の中の基礎になっています。どんな部品や現象でも、最小単位で見ると化学が関わっています。様々な現象を解明していくことで、世界の発展につながる分野であり、化学は世の中から消えることはない必要不可欠な分野だと思います。
―今後の目標についてお聞かせください。
電子部品や化成品、医薬品の原薬などをつくる化学メーカーの研究職に就く予定です。大学で学んだ研究経験を生かしたいという思いがあり、研究職にこだわりました。 表に出ない存在であっても、周りの人から憧れを持たれるような研究者になりたいですね。小さな子どもに「将来研究者になりたい」と思ってもらえるような姿を見せられたらいいなと思います。また、ユーザーから「この会社の製品はいい」と言ってもらえるようなものをつくりたいと思っています。

