最新情報

ロハス工学特論特別講義の講師 後藤千恵氏と6専攻の大学院生による座談会を行いました

私たちの力で未来を変えよう!
広がる『ロハス工学』の可能性


6月23日(木)に行われた、後藤千恵氏による『ロハス工学特論』特別講義を受けた各専攻の大学院生6名に集まっていただき、後藤氏とともに『ロハス工学』の可能性を探る座談会を実施しました。講義の内容や他専攻の研究と自身が取り組んでいる研究を融合させながら、『ロハス工学』でどのようにアプローチできるのかを、ともに探っていきました。

座談会参加メンバー

土木工学専攻2年 菅野日南さん

建築学専攻1年 伊藤響介さん

機械工学専攻2年 湯上泰芽さん

電気電子工学専攻1年 佐藤光さん

生命応用化学専攻1年 鈴木椋子さん

情報工学専攻1年 佐竹祐里奈さん

 

“農”と“工学”が融合する新たな『ロハス工学』へ

後藤氏:まず、皆さんに本日の講義の感想をお聞きしたいと思います。佐竹さん、いかがでしたか。
佐竹さん:講義の冒頭で質問された「自分で社会を変えられると思うか?」に対して、私は「変えられない」の方に手を挙げたのです。でも、講義の最後に、3.5%の人が動き出せば革命は起こせるというお話を聞いて、私にも変えられるかもしれないと思えるようになりました。
後藤氏:本当は最後にも質問しようと思っていたのですが、忘れてしまいました(笑)。講義を聞いて変えられると思った方が一人でも増えたのは嬉しいですね。
伊藤さん:僕は田舎出身なので、”農”には可能性があると思っていました。実は親も最近、小さな畑ですが農業をやり始めて、その中でインターネットを使ったり、近所の方に農作物の作り方を聞いたりして、コミュニティが広がっていて、”農”はいいものだと感じています。後藤さんが講義で募集されていた熊本県天草市での“農“のインターンにも参加したいと考えています。
後藤氏:Welcomeですよ。よろしくお願いします。菅野さんは、いかがでしたか。
菅野さん:講義でも紹介されていた楠クリーン村での1回目の道づくりに私も参加しましたが、いろいろな方とコミュニケーションできて楽しかったです。その道づくりを住民の方々で続けていただいていることを知り、大変嬉しく思いました。
後藤氏:その節は大変お世話になりました。
湯上さん:僕は「地球環境の危機」と「資本主義の危機」という問題に対して、『ロハス工学』を用いて成長から発展へ移行できると聞いて、改めて『ロハス工学』を考えるきっかけになりました。これまで機械工学専攻で『ロハス工学』を学んできて、エネルギー問題には目を向けていましたが、今後は食に関する問題にどう活かせるかを考えていきたいと思います。
鈴木さん:私は神奈川県出身ですが、親戚は後藤さんと同じように化学肥料や農薬を使わずに農業を営んでいます。近くで祖母を見てきたので大変さはわかっていますが、講義を聞いて“農”ある暮らしが少しでも広がっていけばいいなと思いました。
後藤氏:大変な部分を『ロハス工学』で解決できたらいいですよね。
佐藤さん:僕は電気電子工学を専攻しているので、環境問題を考える場合、どうしても工学技術の方に向いてしまうのですが、実は農業にその解決策があると聞いて、とても新鮮でした。久々にワクワクしましたね。
後藤氏:それは良かったです。
佐藤さん:まだ、これだというものは浮かんではいないのですが、電気電子工学でも関われたらいいなと思っています。
後藤氏:関われることはあると思いますよ。ぜひ、よろしくお願いします。それでは、講義の中で、これについてもっと聞いてみたいと思ったことはありますか。
伊藤さん:はい。耕作放棄地で豚を飼育し、荒れた農地を再生する取り組みを行っている熊本県天草市では、地域住民の方からの反発があるとお話されていましたが、コミュニティの中心に”農”を掲げているのにコミュニティが分断されていることに、少し違和感がありました。私もまちづくりや地域計画の研究に携わっているので、今後どのように解決しようとされているのか、策があれば聞かせてください。
後藤氏:地域の方々には、豚は臭い、汚いという先入観があるのかもしれません。匂いに関するデータを集めて説得するといった方法もあると思いますが、大事なのはきちんと説明して納得してもらうことだと思います。天草の取り組みは、耕作放棄地に豚を放すことで豚が草を食べ、糞尿で土壌が肥沃化し、荒れた農地が再生します。健康な豚が育ちますし、地域で集めた食材の残りなどをエサとして与えますのでコストも抑えられ、収益を増やせます。一定の期間、放した後、場所を移していけば、耕作放棄地の多い天草の課題解決にもつながると思います。地域の方々と敵対するのではなく、一緒に取り組んでいけたらと思っています。
伊藤さん:やはり、”農”の恩恵を受けなければ、その良さがわからないのだと思います。
後藤氏:そう、大変さもありますが、農の喜びは大きい。『ロハス工学』の技術で大変さを補っていただけるとありがたいです。『ロハス工学』は幅広くて、いろいろなアプローチができると思います。大変だと思うばかりではつまらないけど、これまでにない新たな分野に挑戦することにワクワクできたら楽しくなりますよね。楽しいところには人が集まってくる。”楽しい”は時代のキーワードでもあります。
佐竹さん:放豚のメリットをもっと広める、広報することに力を入れないと、環境問題に対する対策としては、まだまだ力が及ばないのではないでしょうか。広報という点で情報工学を使って何かできることがあるのかなと思います。これまで、情報工学が『ロハス工学』にどう関われるのかということを常々友人とも話しているのですが、お話を聞いて情報工学が役に立つのではと思いました。
後藤氏:素晴らしい考えです。広げていくことは大事です。小さな点をいかに面にして広げていくか、時間との勝負でもあります。このままいけば、灼熱地球へと暴走を始めるティッピング・ポイント(臨界点)は必ずきます。皆さんには責任はないですが、役割があると思います。そして、それはチャンスでもあります。幸せの価値観は変わってきていますし、新しい時代を自分で創り出していけることを楽しめるかどうか。一人一役ではなく、”一人複役”の時代。自分の引き出しをたくさん持っていたら楽しめるし、今は失敗しても、レールを外れてもいい時代だから、いろいろ挑戦してほしいと思います。
情報工学と言えば、楠クリーン村で夜間にドローンを飛ばして赤外線カメラでイノシシの生態調査をしていただきましたが、情報工学科の研究室が関わっていたようですね。
佐竹さん:それは私が所属するジオインフォマティクス研究室です。ドローンに搭載したカメラで取得した画像からイノシシの行動を把握する研究を行っています。
後藤氏:そうなんですね。猟師の方や市役所の方とデータを見ましたが、イノシシがどこにいるのか視覚的にすぐわかりましたよ。
佐竹さん:今後、現地の方もドローンを使えるようになるといいですよね。
湯上さん:ところで、楠クリーン村はどんどん拡大されているのですか?
後藤氏:私たちは大きくすることを目的にはしていません。大規模化、生産性の向上を追い求める産業としての農業には魅力を感じないんです。エネルギーや農薬、化学肥料などをできるだけ使わない持続可能な小農、農ある暮らしを楽しむ人が全国で増えていけばいいなと思っています。
佐藤さん:私は田舎で暮らしたことはありませんが、都会から田舎にいくと、大変なこともワクワクするようになりますか。
後藤氏:薪でお風呂を沸かすのですが、ぼうっと炎を見ているだけでワクワクするというか、癒されますよ。何も考えない時間ってすごく貴重だと思います。瞑想を社員研修として取り入れる企業が増えています。何もしないことで新しい発想が生まれてくるのです。情報が溢れかえっている都会にいると“無”になることがなかなかできなかったですね。田舎暮らしは大変なこともありますが、都会では中々できない地域の人とのつながりも築きやすいです。
それでは、私からも質問してもいいですか。講義の最後に聞けなかったこと、今、質問します。自分で社会を変えられると思いますか?変えられると思う人!


(伊藤さん佐藤さん鈴木さん佐竹さんが挙手)
後藤氏:お、4人いますね。ということは講義の前に聞いた時より増えていますね。良かった。でも、菅野さんはまだ変えられないと思いますか?
菅野さん:将来に漠然とした不安があります。60歳で会社を退職した後に必要になるお金が2000万とか3000万とか言われていて、稼がないといけないと思うと大企業に入らないといけないのかなと・・・。私自身はいろいろな人とコミュニケーションをとったり、アクティブなことも好きなので、後藤さんのようにやりたい気持ちもありますが、やはり60代になった時に自分が求める生活レベルを考えると、そこそこお金をもらえる大企業に身を置く方がいいのかと思ってしまいます。それに、新しいチャレンジをしてもすぐに世の中を変えるのは難しいのではないでしょうか。
後藤氏:他の皆さんはどう思われますか。
伊藤さん:そうですね。”農”に限って言えば、変えられるとは思っていないのですが、建築業界においては、変えられると感じています。
佐竹さん:私も”農”というわけではなく、違うところで変えられると思います。
後藤氏:なるほど。反論するわけではないのですが、逆にお金があれば安泰なのかなと思ってしまいます。たとえば、今はお金を出せば海外から食料を輸入できますが、円安、異常気象、世界紛争などで、いつまでこの状態が続くかはわかりません。農ある暮らしで最低限、生きていくために必要な食べるものがあるというのは安心につながります。また、今は羽振りがいい大企業も30年、40年後にどうなっているのか、借金だらけの政府は今後どうやって財政を立て直すのか、今は時代の転換点ですから先を見通すのは難しいですよね。私は高齢者が元気でいられるのは、役割や出番があるからだと思います。高齢者の就業率が高い都道府県ほど高齢者医療費が少ない傾向にあります。農ある暮らしには定年がありません。菅野さんも考える前提が変わると、考えが変わってくるかもしれませんね。湯上さんは、なぜ変えられないと思われますか。
湯上さん:私も菅野さんと同じく、将来に対して漠然とした不安があるので、3.5%の中に入って変えようというよりは、変わった世の中でも対応できるような力を身につけたいと思います。やはり大企業に入ってお金を稼ごうかというところに考えがいってしまいますが、お金が集まるところには知識も詰まっているので、大企業で得たお金や経験を地方に使えばいいのではと思いました。
後藤氏:今の時代、海外の最先端のワークショップなどにもオンラインで無料で参加できて知識を得られるようになってきています。都市にいないと得られない情報というものが、少なくなってきていると感じます。大企業に入って出会う人たちの生の情報とかも必要ではありますが・・・。大企業に勤めながら、3.5%の中に入ることもできると思います。皆さん、それぞれ自分の人生を大切にしながら、仕事だけではなく社会にも目を向けて何か社会に役立つことをやる。やると何か感じ方が変わってきて、集まる情報も変わる。新しい情報が入ると世界が広がる。社会に関わるもう一人の自分を持ちつつ、ロハス工学で学んだことを活かしていくことで、より豊かな人生を過ごせるのではないでしょうか。

学科・専攻の枠を越えて新しい技術を生み出そう!

後藤氏:皆さんは『ロハス工学』の可能性について、どう思われますか。
伊藤さん:省エネとか長寿命化といった長く大切にものを使うことが重視されてきている中で、建築業界では“継承”というものも課題として挙げられています。先人の知恵や文化を守ることで、新しいコミュニティが生まれる可能性があり、それが建築にとって大切な『ロハス工学』なのではないかと考えています。
後藤氏:環境にやさしい木造建築は、課題解決のツールとして注目を集めているようですし、昔からある木造建築を継承していくことも大切だと思います。
佐竹さん:何かを継承して次の世代に伝えていくためには、記録する媒体が必要だと思います。デジタルは劣化しないと言われていますから、他の分野が何かをする際に、情報工学はそれをサポートすることで活かしていけるのかなと思いました。コロナ禍になってリモートワークが増えて、企業の転勤が減っていると聞きます。今後、情報工学がインフラの側面も担っていけるのではないかと感じています。
後藤氏:100%テレワークにという大企業も現れました。そういう時代になってきてるのですね。
佐竹さん:今までは仕事があるからその場所にいなければならないという制約がありましたが、これからはもっと自由度が高まって、副業で農業をやる人も増えてくるんじゃないかと。それを促進させるのに情報工学が役立つのではと思っています。
後藤氏:継承ということで言えば、伝統職というものも、引き継ぐ方がいないと残らないわけですし、職人技をデータベース化することによって新しい情報として残していけるかもしれませんね。
佐竹さん:データベース化すれば、誰でもアクセスできることもメリットになると思います。
後藤氏:今、SNSやメールなどでやりとりしていますが、今後、メタバースが拡がり、これからが本格的なインターネット時代になると言われています。最先端の技術を使いながら、古いものを継承する中でリミックスできたらいいですね。
佐藤さん:最先端の技術を駆使する電気電子工学分野からのアプローチとしては、やはりCO2が出ない発電方法を考えることかなと思いますが、農にも貢献できるのではないかと考えています。私の所属する生体生理工学研究室は医療工学分野が専門で、動物の体温から性周期を判別する研究を行っています。例えば、豚の性周期を情報管理すれば、効率的に養豚ができるのではと考えました。
後藤氏:それはニーズも高そうですし、実用化できたら凄くいいですね。農とか食とか、まだまだ工学技術を活用されていない分野なので、需要があると思いますよ。ぜひ、天草の農場で実験してみたらどうでしょうか。
佐藤さん:早速、研究室の先生に相談してみます!
鈴木さん:発電というお話がありましたが、私は生命応用化学専攻の環境化学工学研究室で発電に関わる研究をしています。火力発電所から出たCO2を吸収する研究で、今後排出されるCO2の量を削減できればカーボンニュートラルにも貢献できるかなと思っています。実は世の中こんなにCO2が問題になっているにも関わらず、炭酸水を作るCO2が足りないらしいのです。だから、吸収したCO2を利用できたらとも考えています。
後藤氏:『ロハス工学』って素晴らしいですね。すぐに社会に役立つものができるじゃないですか。そういう研究ができるって楽しそうですね。
鈴木さん:はい、とても楽しいです!
後藤氏:それが上手くいったらノーベル賞かも!こんなに社会に直結して、やりがいのある研究ができる工学部って魅力的ですよね。お話を聞いているだけでワクワクします!
菅野さん:CO2の吸収に関して、土木業界ではコンクリートの製造時に大量に発生するCO2を吸収して気体を固定化するという技術が開発されています。今、私たちの構造・道路工学研究室ではそれを実用化するための研究を行っているので、CO2の削減に貢献できるかなと思っています。また、コンクリートは耐久性が高いので、持続可能な社会構築のためにはアスファルト舗装よりコンクリート舗装の方が良いとされています。楠クリーン村でも実施しましたが、材料さえ揃えば自分たちの力でコンクリートの道をつくることも可能です。そうした高耐久の構造物をつくることでCO2削減にもつながる『ロハス工学』の取り組みは、土木業界でも注目されています。
後藤氏:大変波及効果の大きい、意義のある研究ですね。最後に湯上さん、いかがですか。
湯上さん:機械工学はいろいろな分野の技術をものづくりとして表現する分野なので、情報工学や電気電子工学などをいかに『ロハス工学』に活かしてものづくりするかが重要になります。私が所属するサステナブルシステムズデザイン研究室では、センサ技術やAIを使ってものづくりやシステム開発を行っています。農と食に『ロハス工学』を活かしてどう表現するかによって、新しい可能性が生まれてくるのではないかと考えています。
後藤氏:素晴らしいです。無限の可能性を感じますね。『ロハス工学』は6つの分野が縦糸と横糸を織りなしているところが利点でもあり、それによって様々な可能性を生み出せるのだということを実感しました。ぜひ、『ロハス工学』の可能性をいろいろな方に知っていただきたいですね。今回の座談会を通して、新たに学べたことはありますか。
佐竹さん:研究プロジェクトでは土木工学の先生方と関わることもありますが、この座談会を通して一人ひとりの考えや意見を聞くことができたのは貴重な経験になりました。
伊藤さん:私が今、建築計画研究室で取り組んでいるのは、地元の歌舞伎文化をどう存続させるかという保守的な研究なので、新しいことに挑戦している皆さんの研究は魅力的に感じましたが、先ほど情報工学の技術でデータベース化して残していけるという話を聞いて、再び継承することの大切さを感じることができました。他分野の支えがあってこその建築なんだと改めて認識できました。
後藤氏:建築で地歌舞伎の伝承の研究というのはユニークですね。
伊藤さん:まちづくりや地域計画の一環として行っています。建築業界の流れが、守る、残すことを重視してきているので、考え方もシフトしないといけないと思います。
後藤氏:時代が変わってきていますから、逆に最先端の研究になってくると思いますよ。
菅野さん:私は社会インフラを支える土木工学は、『ロハス工学』と直結していると感じていましたが、他分野がどう関わっているのか理解していなかったので、皆さんの意見を聞いて、どの分野も直結していることがわかりました。さらに、それぞれの分野を組み合わせることでいろいろな可能性が生まれると思います。
湯上さん:座談会を通して皆さんがどんな環境で育ってきたか、今どんな研究に取り組んでいるかなど、考え方も含めて知ることができましたが、互いに意見を交わしながら課題解決の方法を考えていくことが重要だと感じました。
鈴木さん:私は親戚や後藤さんが実践している農薬を使わない農業の良さを改めて実感することができ、この方法が良いとされる社会になればいいなと思いました。
後藤氏:“懐かしい未来”という言葉がありますが、古来のやり方が改めて見直されつつあります。時代が逆転するかもしれませんね。
佐藤さん:僕は他分野の人の意見を聞くことで、より新しいアイデアがどんどん生まれると感じました。工学的な分野に農が入って新しいものを生み出すきっかけになったし、この座談会のように学科・専攻横断的にディスカッションする取り組みを大学全体で広げてほしいと思います。
後藤氏:私が最後にまとめとして話そうと思っていたことを言われてしまいました(笑)。本当にそう思います。雑談でもいいから、お茶を飲みながらいろいろな学科の学生さんが研究やアイデアについて話ができる場があればいいですよね。
佐藤さん:実は今、工学部キャンパス内にいろいろな学科が集まってものづくりができるスペースをつくろうとするプロジェクトがあって、僕もそのメンバーの一人なのですが、プレ段階として『LohasProLAB』という学生主体のものつくり団体を結成して動きだしたところです。座談会をきっかけに輪を広げていきたいと思っています。
後藤氏:いいじゃないですか。楽しみですね!学生の皆さんが主体となって、どんどん『ロハス工学』の可能性を広げていくことを期待しています。今日は大変有意義な座談会になりました。ありがとうございました。
学生全員:ありがとうございました。

“人の力を引き出す”、“自然の力を引き出す”ことができる『ロハス工学』に期待しています

後藤千恵氏(ジャーナリスト・元NHK解説委員)

工学部の土木工学、建築学、機械工学、電気電子工学、生命応用化学、情報工学という6つの専攻を代表する男女6人の学生さんたちがしっかりと自分の視座で物事を考え、ロハス工学という社会の課題解決に直結する研究に誇りをもって取り組んでいることが伝わってきて心を動かされました。
日本大学工学部・ロハス工学編集委員会編集の教科書「ロハス工学」の序論で加藤康司先生は、『資本主義経済とともに終わりを告げようとしている工業文明脱出のために、「農工合体の新文明(=農工文明)」の時代が来る』と書かれています。私も気候変動の危機、資本主義の危機をともに乗り越えるための最も強力な手段の一つが「食」と「農」の変革だと考えています。そこで私がロハス工学に期待するのは、「人の力を引き出す」、「自然の力を引き出す」研究です。これまでの社会ではより便利で効率的な暮らしを実現するための技術やサービスの開発が追求されてきましたが、これからはエネルギーも食料もできるだけ地域で賄い自給に近づけていく、逆にそれを楽しむ時代に変わっていくのではないでしょうか。また農薬や化学肥料で大地の力を奪うのではなく、土が持つ普遍的な力を引き出す取り組みなどが必要になってくると思います。昨年、移住した山口県宇部市の楠クリーン村とロハス工学センターの共同研究プロジェクトでも、住民主導で行う高品質コンクリート舗装の道づくりや自然の浄化機能を活かしたロハスのトイレづくりなど、人や自然の力を引き出す実践研究を進めています。
今回の座談会で、学生さんたちが“農”に関わるテーマに興味を抱き、自分が専門とする工学的な研究とどう組み合わせるか、柔軟で前向きな発想が次々に飛び出してきたのには驚きました。さらに6つの専攻の枠を超えて情報を共有し、共創していこうと意気投合する場面もあり、嬉しくなりました。まさに「農工合体の新文明」を創り出すパイオニアとなる可能性を秘めた学生さんたちの瞳の輝きに明るい光を感じます。
加藤先生は序論の最後でこう書かれています。『21世紀の産業革命が「ロハスの産業革命」と呼ばれるものになれば、新文明は人類および他の生物の未来を万年単位で明るくする「始まり」になる。』これからの未来を担う学生さんたちに期待し、心からのエールを送ります。