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建築学科の髙橋岳志助教が第15回JIA東北住宅⼤賞2023において優秀賞を受賞しました

街の景観に溶け込み、優れた温熱環境を実現した家が 建築家から高く評価される

 この度、建築学科の髙橋岳志助教が設計した『島の家』が第15回JIA東北住宅⼤賞2023において優秀賞を受賞しました。この賞は、東北6県に造られた専用住宅を対象とし、デザイン・性能・エ法等において、東北の景観と環境に根ざした優れた建築を生み出した設計者と施主・施工者に対して贈られる賞です。最近6 年以内に完成した新築、または増築・改修されたものとし、現地審査(施主ヒアリング)やそれに代わる実証が可能な作品に限られます。今回は第一次審査を通過した27作品の中から公開審査による第二次審査で選ばれた6作品が第三次審査の現地審査に進みました。髙橋助教が設計した『島の家』は、自身の住居として建てられたものです。惜しくも大賞には届かなかったものの、設計者そして施主としても優秀賞を受賞され、喜びも一入だったことでしょう。
 髙橋助教に受賞の喜びと本作品について詳しくお話を伺いました。

 

―優秀賞受賞おめでとうございます。感想をお聞かせください。

 本賞は第三次審査まであり、パネルのみによる第一次審査、対面でプレゼンテーションを行う第二次審査、審査員が実際に現地に足を運んで行われる最終審査を経て、各賞が選出されます。歴史もあり、名だたる建築家が審査員長を務める大変権威のある賞です。第一線で活躍する建築家の方々から評価していただけたことは大変光栄で嬉しく思います。JIA東北支部の方々からもお祝いの言葉をいただき、これでやっと一人前の建築家として認められたような気がしています。

 

―受賞した『島の家』について、詳しく説明いただけますか。

 選んだ敷地は、もともと私が設計事務所独立当初、自宅兼事務所にしていた共同住宅と同じ町内にあり、馴染みのある場所でした。昭和40年代から住宅が建ち始めた地域で、東西南北に道路が通り、田の字型に区画された土地に斜めに道路が横切っていることで、各所に三角地帯ができています。私が家を建てた場所も三方を道路に囲まれ、形状は二等辺三角形で面積は100㎡ほどの敷地でした。どのような住宅を設計しようか悩んで、再度この地域を見つめなおした時、余白ができる角のスペースに植栽を施している地域住民の方が多く、この地域は緑豊かな街並みが形成されていることに気づきました。そこで、敷地の中央に5.46m四方の建物を置き、建物の周囲にできた三角形の3つの庭に植栽することで、街の景観に溶け込む環境を生み出し、この家が街に馴染んでいくような設計を考えました。

 建物の特徴の一つとして、3階建ての建物内部には、中心から少しずらした位置に螺旋階段を配置し、2階から3階を吹き抜けにして立体的な空間を繋げています。1階に玄関、靴やコートを置く玄関収納スペース、寝室、トイレ、納戸を配置。納戸は現在、私の書斎として活用しています。大きな土間の玄関横には大きな窓があり、外で遊ぶ子どもの様子を見ることができます。2階を普段家族が集まる生活スペースとし、リビング、ダイニング、キッチン等を配置しました。連続する空間の中でにぎやかな家族団らんの風景が日常を彩ります。

 

 更に洗面所と脱衣室、収納スペースが繋がっていて、その奥に干場があります。まだ子どもが小さい時期なので、キッチンで食事をし、子どもをお風呂に入れ、洗濯をして干すという日々の作業を一連で行えるように設計しました。干場のスペースは外の空間を広く使い、干場の近くにクローゼットを置くことで、洗濯という家事がそこで完結できるよう配慮しています。 3階には将来子ども部屋を置くことを想定して個室を設けました。家族のその時の状況に応じて、用途を変えられるようなスペースになっています。

 この家が評価された点でもありますが、エネルギー効率の向上、快適な室内環境の維持、環境負荷の低減のために断熱性や気密性といった性能にもこだわって設計しました。断熱性能の高い材料を使うことはもちろん、厚みも重視し、柱と柱の間に断熱性に優れたグラスウールを入れ、その周りにも圧縮したグラスウールの板を貼って断熱性能を高め、断熱性能を示すUA値が0.32W/㎡K。更に隙間を埋める気密シート用い、家全体の隙間を測定した結果、一般的にⅭ値1.0㎠/㎡以下が高気密住宅と言われる中で、その数値を大幅に下回る0.33㎠/㎡を達成しています。

 明るい家にしたいという妻の要望もあり、3階の天井にはトップライト、各所に大きな窓を設けて、光をふんだんに取り込みました。家の植栽や街の風景が広がる大きめの開口部にはトリプルガラスを採用。春先の肌寒い日でも暖房器具を使わずに、どこにいても快適な温熱環境を維持できる住宅になっています。


―どのような点が評価されたのでしょうか。

 5.46m四方のスペースにどんな家を建てるか、計画デザインも着目された点だと思いますが、どのようにこのまちに馴染ませるかを大きなテーマとして設計したので、そこを評価していただいたのではないでしょうか。パブリックな空間ではなくプライベートな空間であっても、人や街とのつながりは大切にしたいと考えています。また、環境的に寒さが厳しい東北において、断熱気密の性能を高めたことも大事な要素であり、トータル的に評価されたのだと思います。

 

―建築を学ぶ学生たちにメッセージをお願いします。

 オムニバスで行っているロハス工学入門の授業で、建築というものは様々な条件や理由があってできていることをこの家を題材にして紹介しました。一見奇抜に見えるかもしれませんが、施主である私の妻の要望を聞きながら、ここで暮らすための最適な家を追求した結果、この建物ができたわけです。建築家は自分のアイデアを形にできる職業だと思われがちですが、施主との関係性やその時の社会状況であったり構造や設備、歴史や環境などいろいろなことを積み重ねてつくられています。また、この家は通常天井に張り巡らされる配管や換気ダクトがなく、1・2階は床下にエアコンを取り付けてコンクリートに蓄熱して暖房しています。そのような設計にするには電気の配線や配管のことなど、設備の知識も必要になってきます。住宅を設計するために、今学んでいるすべての知識が必要であるということを皆さんに伝えたいです。私自身もこの大学で学びましたが、卒業して設計の仕事に就いた時に、あの先生のあの授業で教わったことがここで役立つのだと気づかされました。一つひとつ学んだことを積み重ねて、建物が出来上がっていくということを心に留めながら、学んでほしいと思います。

 

―ありがとうございました。今後益々ご活躍されますことを祈念しております。

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