最新情報

情報工学専攻の藤田優斗さんと大川柊音さんが、IEEE コンシューマ エレクトロニクス国際会議(ICCE 2024)でBest Regional Paper Awardを受賞しました

日本から選ばれたBest Regional Paper Awardを制御ソフトウェア研究室の2人が独占する快挙!!

大川柊音さん(写真左)・藤田優斗さん(写真右)

 1月5日(金)から8日(月)に米国のラスベガスで行われた電気・情報工学分野の学術研究学会であるIEEE の国際会議 『IEEE コンシューマ エレクトロニクス国際会議 (ICCE 2024)』において、情報工学専攻博士前期課程2年の藤田優斗さんが発表した『A Method for Selecting Training Data Using Doc2Vec for Automatic Test Cases Generation』と、同1年の大川柊音さんが発表した『Selecting Nodes to Operate Relay Function for UAV Routing in Wireless Multi-Hop Network』がBest Regional Paper Award(最優秀地方紙賞)を受賞しました。世界各国から応募のあった277論文の中から28論文がこの賞の候補となり、ICCE実行委員会にて審議され、台湾1件、韓国1件、米国1件、日本2件の計5件を選出。日本の2件が同じ制御ソフトウェア研究室(指導教員:上田清志教授)から選ばれたことは快挙と言えます。
 2人に受賞の喜びとともに、発表した研究について詳しくお話を聞きました。

『A Method for Selecting Training Data Using Doc2Vec for Automatic Test Cases Generation』

藤田優斗さん(情報工学専攻博士前期課程2年/制御ソフトウェア研究室)

 大規模通信ソフトウェアの開発には技術の向上とともに人件費や技術面のコストと時間がかかることが課題として挙げられます。特に要求仕様書は複雑で省略の多い自然言語で記述されることが多いため、実際にソフトウェアの性能試験の項目作成には、ソフトウェア開発のエキスパートが要求仕様書を理解し、経験や知識などのノウハウによって作成する必要があります。そこで、AI 技術である機械学習を用いてノウハウとなるデータ(教師データ)を取り込み、総合試験や安定化試験などの項目を自動生成することで、開発期間とコスト増加の問題点を改善することを目指しました。本研究では、Doc2Vecという技術を用いて文書のベクトル化を行うソフトウェアを開発し、機械学習機(CRF++)の学習に用いる教師データの選択を行っています。

 先行研究におけるBag-of-Wordsを用いた教師データ選択手法(BoW手法)で得た精度とDoc2Vecを用いた教師データ選択手法(Doc2Vec手法)で得た精度を比較しました。加えて、Doc2Vecを用いた教師データ選択手法の精度を更に向上させるための提案手法を考え、Doc2Vecにおける学習調整パラメータ(Window値)の適切値の検討を行いました。結果、Doc2Vecを初めて用いたということもあり、Bog-of-Wordsを用いた手法における精度を上回ることができませんでした。

 その要因を考察し、学習範囲を指定するwindow値に着目して実験を行いましたが、逆に精度が落ちてしまいました。RNNごとにそれぞれ得意・不得意があると考え、PV-DBOWを用いたDoc2Vec手法の実験を行い、BoW手法とDoc2Vec手法の2つを比較しました。結果として、両方の精度を上回る結果を得ることができました。他の仕様書を用いた場合でも高い精度を得られ、かつ、早い段階から精度が高く、教師データの質が向上したと考えられることから、Doc2Vec手法の有効性を示すことができました。

 海外で発表するのは初めての経験で、大変緊張しました。他の人の発表も聞きましたが、皆さん英語力が素晴らしくて圧倒されました。まさか自分が受賞できるとは夢にも思わなかったので、このような栄誉ある賞をいただけて大変光栄です。まだまだ課題はありますが、評価していただけたことで、これまでの研究が間違っていなかったと自信を持つことができました。当日まで何度も発表練習を重ねて、終わった時には上田先生からも労いの言葉をいただきました。お世話になった先生や親にも喜んでもらえて大変良かったと思っています。

 情報工学に興味を持ったのは、幼少期にテレビで見たロボットがきっかけです。もともと好奇心旺盛でパソコンに触れるようになると、いつしかロボットを動かすプログラムの方に興味を感じるようになりました。初めはプログラム言語を理解するのが難しかったのですが、当たり前に使えるようになると段々楽しくなりました。大学で学んだプログラムの知識を活かして、就職後は経営の効率化を図るシステム構築に携わり、会社に貢献していきたいと思っています。

『Selecting Nodes to Operate Relay Function for UAV Routing in Wireless Multi-Hop Network』

大川柊音さん(情報工学専攻博士前期課程1年/制御ソフトウェア研究室)

 制御ソフトウェア研究室では、小型無人移動機の自動運転技術に関する研究を行っています。昨今、物流業界では人手不足などが問題視されていますが、その解決手段としてUAV(ドローン)を使った移動機による無人宅配技術が有用であると考えられます。私たちは移動機の航空保安無線施設として、全国に設置されつつあるスマートメーターのように各家屋に無線デバイスを設置し、その無線マルチホップネットワークを用いて移動機の移動経路に適したネットワークの構築を目指しています。本学会では、現在私が進めている研究の先行研究の内容について発表しました。

 ネットワークすべてのノードを移動機の中継ノードに利用すると、経路のホップ数が多くなり、リンクが複雑に交差することで予期せぬ衝突が発生するなどの問題が起きてしまいます。それらを回避するために、中継機能を持たせるノード(中継ノード)の選定をおこない、ネットワークの最適化を図りました。中継ノードの選定には、ランダム方式、隣接ノード数上位方式と下位方式、OLSRのMPR(マルチポイントリレー)方式の4方式を提案しました。各方式において、1台で構築した時に中継ノード数をどの程度選定できたかを評価。中継ノードの選定後に経路を構築し、中継ノード数、構築された経路の総距離、集中距離がどの程度変化したかを確認しました。解析の結果、最も全ノードで中継した方式に近い結果が得られたのはMPR方式で、効率的で安全な移動機の経路を維持しつつ、中継ノードを選定できることがわかりました。

 海外で発表するのは、昨年の10月に韓国で行われた「ICCE-Asia 2023」に続き2回目となりますが、発表内容が異なるため、少しだけ緊張しました。入念に発表練習を行っていたものの、質問されたことに自信を持って答えることができず、質疑応答が上手くできなかったのは悔いが残りました。そのため、上田先生から受賞の知らせをいただいた時も自分ではないと思っていました。正直、今でも信じられないのですが、やはり賞をいただけたのは大変嬉しいです。上田先生にスライドを添削いただき、伝えたいことを簡潔にまとめていたので、研究内容について理解しやすかった点が評価に繋がっていると思います。世界中で無人配送システムの開発が進められているため、この研究に多くの方が関心を持ってくださったことも要因になっているのかもしれません。

 情報工学を志したのは、高校の頃に情報ネットワークの必要性を感じたことが発端でした。父の影響で幼い頃からものづくりに興味があり、自分でプログラムをつくりたい思い大学に進学しました。実は英語は苦手でした。でも、海外の学会に参加して英語を使う機会が増えたので、少しずつ上達しているかなと思います。

 今後は、複数移動機の同時航行時に、経路の重複による衝突の危険性を無くすため、構築した経路で使用するリンクを他移動機の経路に利用できないようにリンクをロックする手法を検討します。また、経路が占有されることによるリンク不足を解消するためのリンク階層化も検討し、同時に提案方式の有効性と特性をコンピューターシミュレーションによって評価・検証していきます。